第2回:「といえば」ではじまる会話

糸井
『聞く力』にそう書いてあったかどうかは
定かではないんですけど、
会話って、
「事前に知り過ぎるとつまんなくなる」
というのがありますよね。
阿川
ああ、それは私の勉強不足の
エクスキューズなんです。
糸井
安心してください、
僕もそうです。
糸井
あと、「聞き役だけど、自分を語る」
という状況もあるじゃないですか。
そのときは、聞いてるけども
しゃべってることになりますね。
阿川
はい、それはあります。
「そう来たなら私も話したいことがあるぞ」
ということが。
糸井
聞きながら
「賛成です」と思うこともあれば、
「その考えは嫌だな」と思うときもあります。
だから、ただ聞き役って思っている場合でも、
案外自分の考えが‥‥。
阿川
入ります。
糸井
やっぱり、そうですよね。
阿川
「ここで反論しちゃまずいな。仕事だし我慢しよう」
と自制心が働くことはちょくちょくありますが、
でも私、「違う」と思うときは
顔に出てるらしいです。
糸井
顔に出てますね。
阿川
やっぱり(笑)。
糸井
あと、会話の話でいうと
あえて「対立」することがありますよね。
穏やかな例だと、
「カレーライスと呼ぶのかライスカレーと呼ぶのか」
あるいは
「粒あん派か、こしあん派か」というように、
こどもがルールを決めて遊ぶみたいに、人とやり合う。
僕それ、わりと苦手なんです。
阿川
そういう会話の展開が
お好きではない。
糸井
そう。
「持論をぶつけないと会話がおもしろくならない」
というふうに、僕は思わないんです。
阿川
言われてみると、私も同感かも。
それで思い出したのは、
長友啓典さんがうちの近くに住んでらして、
一緒にゴルフへ行くために
車でお迎えに上がることがあるんです。
長友さんが助手席で、
2人で1時間ちょっとの道のりを行くわけ。
糸井
阿川さんが運転されるんですか。
阿川
はい。
長友さんとは長いお付き合いでもないんですが、
なぜか会話が尽きなくて、たのしいんです。
たとえば私が長友さんに
「昨日ちょっと新幹線で帰ってきて」
とかいう話をすると
「あ、新幹線といえばね」って
長友さんが後を引き継ぐの。
糸井
「といえば」(笑)。
阿川
「新幹線といえばおもろい話があるんや」。
で、新幹線の中で起こった
小さな偶然の話をしてくださって、
「へぇー」って聞いてるうちに、
「そう来るなら私の新幹線話にも
 おかしいのがあるぞ」
みたいな。
それで、「新大阪でね‥‥」
「あ、新大阪といえば」
なんだか知らないけど、ものすごく続くんです。
糸井
しりとりみたいになってるんだ。
いいですね。
阿川
そう、しりとり歌合戦状態。
終わったときになにも残らないんだけど、
でも、この会話は「対立」ではないんです。
言葉のしっぽつかんだら、次は私の番、みたいな。
糸井
そう、それは対立じゃないですよね。
僕が前に、伸坊と話していたとき、
「あ、それ、その話くれる?」
って言ったことがあります。
話のタネを譲って、と。
いまの話聞いてて、そんな感じがしました。
「新幹線、ちょっとくれる?」っていう(笑)。
阿川
そうそうそう!
「それいただきます!」ってなりますよね。
テーマを出されたら
思い出す引き出しが
どんどん開きはじめるような感じ。
たとえば長友さんと会話しているときって、
「交通事故を起こさないように」と私が言ったら、
「交通事故といえば、
 フロリダで事故を起こしたことがあるんや」
という話になって、
「私も追突されたことがある」と言ったら、
すかさず長友さんが、
「追突といえば、わし、六本木5丁目の
 交差点でバイクに乗ってたんや」と。
「で、ブンッとやったら座席が外れて、
 バイクだけが前に行って、なにかに追突したんや」
って(笑)。
糸井
座席だけ持って(笑)。
阿川
そう、座席だけお尻に残ってて。
「信じられない、その話」みたいな
おもしろい話ばかりなんです。
糸井
長友さんはね、プロなんです。
阿川
あ、そうなんですか。
糸井
飲み屋さんでも、横にいる人を
そうやって笑わせて、次のお店に行く、
そんなことを何十年もされている方です。
人に聞かれるということを前提に、
ちょうどいいところを見繕って
お話をするのがものすごくうまいんだと思います。
お店はたいてい5軒ぐらいはしごしてましたよ。
阿川
そうなんですか。
その時代はお会いしてないんですけど。
糸井
一箇所に留まらないで、
ひと笑いさせたら、「ほな行こか」。
いわゆる「流し」ですよ。
阿川
「流し」商法だったのか‥‥(笑)。
長友さんって
たたずまい自体がかわいらしいんです。
でも真面目なんです。
ご本人は笑わせようとしているわけじゃないらしいけど。
糸井
うん。
でもまあ、それはちょっと怪しいと思う(笑)。
ボケを売りにしてる人って、
本当に真面目なのかなぁ‥‥。
阿川
わざとボケているの?
糸井
天然と言われる人たちが、
どのくらい本当なのか嘘なのかは
自分でもわかんないんじゃないですかね。
阿川
あぁ。
ただ、人は求められる人間に
なっていくんじゃないでしょうか。
糸井
そうですね。
期待されて、求められて、
そういうふうになっていく。
長友さんとか典型的な大阪のおじさんですよね。
阿川
あ、そうそうそう。
糸井
なにがおもしろいか、
つまんないかってことをわかってるわけです。
「おもしろいつもりで言ってるわけじゃない」
って顔してますけど、
つまんなかったら言わないと思うんですよ。

(つづきます)

2015-02-09-MON