MAEDA
高阪TK剛、じぶんレポート。

----------ROUND.18----------
払うんやで。


本来ならここで前回の話の続きを
書くところなんですけど、
今回は臨時に自分の恐怖の体験談を書かさせてもらいます。

特にこの春、大学に入学された方には
しっかり読んでいただきたい。

あれは自分が大学3年の夏休み、
柔道部からも10日間程休みがもらえたので、
自分は実家に帰る事にしました。
家に帰るとあのオカンとそれこそ
毎晩の様に宴会をやっていたのですが、そんなある夜、
ふと自分自身感傷に浸ってしまったのです。

「いやー、オレはな、
 オカンやオヤジには感謝してんねや。
 大学の授業料なんかそんな安いもんでもないし、
 仕送りかってバカにならへんもんなー」

「…何言うてんねや、払うんやであんた」

その瞬間、体は石。
しかし頭の中では過ぎ去った過去の時間を悔やみ、
これからこの場をどう処理すれば良いかを
模索する為に全神経を集中させていました。
その間約2、3秒。
しかし、今までの人生の中で
あれ程長かった2、3秒は他になかった。

「えっと、んー、それはどういう事なんかな?」

こう切り出すのが精一杯。

「なんや、あんた知らんかったんかいな?
 ウチでは義務教育が終わったら、
 その後は働こうが学校に行こうが本人に任せてんのや。
 そやから、もし学校に行く言うんやったら
 その金は自分自身で
 なんとかしいやって事になってんねん」
 
そんな話は聞いた事ない。
しかしそれもそのはずだったんです。

自分は高校には柔道の推薦で入ったので、
入学金から授業料まで全部ただだったんです。
だからそういう話を聞く機会が
その時にはなかったんですね。
で、大学も同じ様に推薦で入ったんですけど、
高校の時の様に全額免除って訳にはいかなかった。
なのでオカンは、兄貴達に対して取ってきたやり方と
同じ様にJA(当時はまだ農協)で
学資ローンってのを高阪剛の名義で、
そして卒業した年から返して行くという形で
組んでいたんです。
しかし聞いていない事には変わりない。
しかもこんな時にそんな事言われても。
自分は、今目の前にいるのがさっきまでの
オカンと同一人物とは、どうがんばっても見えない程
ショックを受けていました。

しかし、現実からは逃げられないのです。
自分は決心しました。

「そんなん、何年もかかって返してたら
 その間そのことに縛られてなんにも面白くなくなる。
 それやったらもう今からバイトして稼いで、
 できるだけ速攻で返したろやないけ」
 
そう、自分にとっての初めてのバイトが
私利私欲を得る為のものではなく、
マイナスを0にする為のものだったんです。
これがどんなに辛いものだったか、
みなさん想像がつくでしょうか?
でも自分はやるしかなかったんです。

それからというもの、
授業と練習の合間を縫って自分は働き倒しました。
それこそ死にものぐるいで。
そして結局、卒業するまでになんとか
その借金の半分を返す事ができ、
その後の1年間の社会人生活中に
残りの半分もきっちり返したのでした。

しかし、おかげで自分は金の重みって
ヤツををこの時感じる事ができました。
もし、この経験がなかったら、
自分が今やっている事に対する重みも
今と同じ様に感じる事はできなかったでしょう。
何かを得る為には何かを失う。
ごく当たり前の事ですが、すごく大事な事だったんです。
ひょっとするとオカンはその事を知ってもらいたくて、
敢えて自分達にこう言うやり方を取っていたのかも。
いや、考え過ぎ。
ちなみに、学生の時にやっていたバイトってのは
まさに金の重みを感じる現金輸送だったんです。
まー、感じるっていうより本当にシャレにならんぐらい
重くて、もううっとうしいって感じでしたけどね。

2000-06-10-SAT

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