ピーコを、チェック。
杉浦克昭自伝的対談。

第7回 話の再現性が、すごく高いね。




糸井 双子って不思議だなあと思うんだけど、
同じ素材で、同時期に生まれたのに、
やっぱり、
自分がお兄さんだという意識はあるの?
ピーコ それは、そう育てられちゃうからね。
糸井 お兄さんとして?
ピーコ それはもうそうよ。それは親の育て方よね。
「あんた、お兄ちゃんなんだから」って。
糸井 俺、そんな基本的なことを知らないわ。
双子って、対等だと思ってた。
ピーコ だから、おすぎは全然わがままよ。
糸井 (笑)そういう差があるんだ。
おかしいなあ、そういうの。
ピーコ あの人は母親に
相当甘やかされて育ったから。
糸井 双子で一緒の時間を共有してて、
なんで「あの人は」ってなるのかが、
わからないなあ。おもしろい。
ピーコ 母親というものは、この子は1人でも
やっていけるって思う時には、突き放すでしょ?
だからほんとに、あの子にべったりだったもん。
糸井 ちょっとは悔しかったりするの?
ピーコ 母親には聞いたわよ、「どうして?」って。
おすぎには言わないけど・・・。
そうしたら
「あの子はちょっと心配だけど、
 あんたはいいでしょ」
っていうことを、母親は。
糸井 同じ日に生まれて、ほんのちょっと
先に空気を吸っただけで、そんなに役割が違うの?
ピーコ それは、明治時代に生まれて育った父母だったから。
やっぱり、昭和20年くらいに生まれても、
母も父も明治生まれっていう人は
あんまりいなかったから、珍しいかもしれないね。
糸井 お父さんはどういう人でした?
ピーコ 戦争前はすごくいい暮らしをしてたみたい。
横浜に工場があって、父はその工場があったために
戦争に行かなかった人だから、軍の工場で。

軍需工場みたいな下請けのほうだと思うけど。
だけど焼け野原になって、
わたしたちが生まれてからは、ずっと貧乏だった。
経営の能力があまりなかったんだと思う。
借金取りが来てたことを知ってるから。
それは、戦争前のお金だったかもしれない。

父親はずーっと自分の家っていうのを
持たないで借りてたからね。
ひどいときは間借りだったし、
あとはお家を借りても自分の物じゃなかったし。
糸井 なるほどなあ・・・。
あ、ちょっと話を止めていい?
おれ今話を聞いていてだいたいわかったんだけど、
このインタビューは、
時系列で聞いていったほうが、
流れとしておもしろいと思った。

どうもピーコさん、
俺が思っていたよりも何十倍も記憶力もいいんで。
ピーコ (笑)「俺が思ってた」って、
どのくらいで思ってたのか教えて。
糸井 いやあ、
うすうす記憶力系の人だとは思ってたけど、
全然その上の上をいってるね。
話の再現性がすごい高いからさあ。
映像が出てくるもん。

だから、こうなったら、
オギャーと生まれた時からの話を
順番に聞いていくかたちにしない?
ピーコ (笑)オギャーって生まれた時は、
わたしは知らないわよ。
糸井 (笑)また、そういうことを。
三島由紀夫じゃないんだから。
ピーコ 三島由紀夫でも淀川長治でもないんだから。
糸井 最近、ぼくの知りあいで、
精子のときの記憶がある奴がいるの。
親父の金玉の中で、ぶらぶらしてたって。
ピーコ 私はあなたのおともだちを、
まともだと思ったことがない(笑)。
糸井 (笑)まあねえ。
でも、時系列に聞くのが一番いいでしょ?
いろんな作り方があるとは思うけど。
ピーコ でもさあ、私の自伝みたいなものを聞いて、
おもしろいの?
糸井 それはすごく、おもしろいよー!!!
何か、ぜんぶが入ってるもん。
ピーコ じゃあこれからは時系列にして、
どんどんウソ言っちゃおうかしら(笑)。
糸井 いいよー。
ウソを言ったら、もう1回、
そこのところに立ち止まるから。
それに
「これは言ったけどもう一度話しておいて、
 あとで活字にまとめる時には省きましょう」
とか、そういうところは、調整できますけど。
ピーコ 早く言えば、関わった中で、
まだ生きてる人の話は、
できにくいかもしれないです。
糸井 当然、そうですよね。
ピーコ まあ、「生きてるから」っていっても
何もないといえばないんだけど。
糸井 例えば、さっきの
「仕事の相棒のいい男」なんかは
仮に深い関係があったりすると、
活字にしたら困るだろうけど、
ピーコさんの場合は、
ただ楽しく遊んでくれた人ですよね。
ピーコ 深い関係なんて何にもないわよ。
あの人の場合・・・どうなんだろう?
わたしの気持ちは、わかってたんじゃないの?
わかってなきゃ、ああいう親密さにはならないから。
周りでは「私はあの人を好き」ってことを、
みんなに認めさせちゃっていたし。
それは、今でも。
糸井 (笑)
ピーコ 私は好きよって言って、周りはみんな
「あの人はピーコさんが好きな人なんだ」
っていうふうになっちゃうの、今でも。
糸井 言いまくるの?
ピーコ 言いまくるじゃないけど、
一番困るのは、スタジオに
タイプの子がいると落ち着かないけど、
いないとほんとによく仕事が出来る(笑)。
糸井 (笑)はあ……。
ピーコ おすぎはね、タイプの子がいれば、
もう、テレビカメラのコードを引っぱったりして、
失敗してもいいんだって。
どうしてって聞いたら、
「すっごいつまんない仕事でも
 その子見てれば時間が過ぎる」って言うのよ。
糸井 ふたりは、ぜんぜん違うんだ。
ピーコ いやあ、私は・・・。
いたほうがいいわよ、かわいい。
糸井 (笑)やっぱり、うれしいんだ?
ピーコ もちろん。

(つづく)

2001-04-19-THU

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