OL
ご近所のOLさんは、
先端に腰掛けていた。

vol.203
- Rashid Masharawi 1


「想い」の力を信じたい‥‥
──ラシ―ド・マシャラーウィ監督 その1



ラシード・マシャラーウィ監督

□「最終回シリーズ」第2弾です。

最終回シリーズ、
第1弾は徳井義実さんでした。
そして第2弾は、
パレスチナのラシード・マシャラーウィ監督。

このチグハグな選択は何なんだ‥‥という感じですが、
なんというかこのつじつまの合わなさが私です(笑)。
ほんとにどちらも私にとって重要関心事で、
徳井さんの映画を真剣に思うのと同じくらい、
パレスチナの状況のことも真剣に考えます。
TVでお笑いを見ながら、いまごろパレスチナの人は
どうしているんだろうか‥‥とふと想う、
世界はつながってるなあ、そう思います。

でもじつはこういう「想い」って、
けっこう大事で、
なにか意味があるんじゃないかなと思うんです。
「想い」のチカラは計りしれなくて
「想う」ことで、なにかが変わるんじゃないかと。
「北京で蝶がはばたくとNYで嵐が起きる」と、
“バタフライ・エフェクト”で言われてるように、
日本の片隅から微かな「想い」を飛ばすと、
めぐりめぐって世界が変わる‥‥、
そう信じてみる。いや、信じてる。

以前、『1000の言葉よりも』でフォーカスされた、
イスラエルのスゴイ報道写真家、
ジブ・コーレンさんにお話を聞いてからというもの、
頭はパレスチナから離れなくなりました。
「いったい60年もの間、何がどうなってるんだ?」
戦後60年と重なる時間だけど、
日本とのそれとはまったく異なる。
知れば知るほど矛盾が多過ぎる場所。
こんな理不尽が世界に平然と存在している不思議。
もちろん世界には、ほかにも(次から次へと)
理不尽な場所は多くあるのだけど、
それにしても、そこにある“ネジレ”から、
世界中に伝わっていく“暗い波動”は大き過ぎる、
いま、とくに、そんなふうに思えてならないのです。
つまり、その“ネジレ”をほどくことが、
21世紀最大の人類の課題じゃないだろうか‥‥と。
あらためて、いま、もう1回。

イスラエルの写真家から話を聞いたのなら、
やっぱりパレスチナの映画監督に会いたい!
そんな思いで頭がいっぱいになっているとき、
なんとラッキーなことに(運命?)、
今年の「東京国際映画祭」の「アジアの風」部門で、
パレスチナ特集をするという
小さなお知らせを見つけました。
会期中上映されたのは、
ガザ地区出身のラシード・マシャラーウィ監督の
以下の5本の作品。

『外出禁止令』(1993)、『ハイファ』(1996)、
『エルサレムへのチケット』(2002)、『Waiting』(2005)、
そして最新作の『ライラの誕生日』(2008)。

どの作品もすばらしいものでした。
幸いにも、マシャラーウィ監督と、
女優の奥さまのアリーン・ウマリさんが
映画祭のために来日されているというので、
思わず渋谷へ飛んでいきました。

写真でもおわかりのように、
ガタイがしっかりしてて、
一見、ちょっとコワモテですが(笑)、
いやいや、ものすごくやさしい声で、
誠実に丁寧に英語で話をしてくれる、
ほんとうに温かい目をした監督でした。

そんなマシャラーウィさんは、
パレスチナ、ガザの難民キャンプの生まれ。
現在は、ヨルダン川西岸地区(西岸)のラマラと、
フランスのパリと半々で住んでいるそうです。
パレスチナの数少ない映画監督のひとりで、
今回観ることができたフィクションのほか、
パレスチナ以外の国でもドキュメンタリーを
数多く撮っている監督です。
ウマリさんは、舞台出身の女優さん。
マシャラーウィ監督の映画のほとんどに出演し、
プロデューサーもなさっているのだと。

街を撮るということだけでも難しい状況のなか、
「プロデューサーであることと、
 女優をすることは、どちらが大変ですか?」
という観客の質問に、
「この人の妻であることがいちばん大変よ!」
ってユーモアをとばす、素敵な美しい方でした。

なにぶん、私はパレスチナ素人なので、
質問はトンチンカンかもしれません。
でも、刻々と情勢が変わっていく、
難しいパレスチナの状況も含めて、
興味深く貴重な話ばかりです。

ぜひ地図を片手にお読みください。
前編、後編にわけてお届けします。

──── 監督は『1000の言葉よりも』は
     ご覧になりましたか?


ラシード 観ました。力強い作品だと思いました。

──── 私もそう思いました。
     日本でも今年上映されたんです。
     監督の映画もとても感動しました。
     いまはパリに住んでいらっしゃるんですか?


ラシード パリとラマラの両方に住んでいます。
     もともと私はガザの生まれです。
     ガザはいま封鎖されています。
     ガザの住人はヨルダン川西岸に入れないんです。
     だから私はパリに住んでいるんです。
     なぜなら、外からならガザにも入れるし、
     西岸のラマラにも入れるからです。

──── 外からだと、なぜ入りやすいのでしょう?

ラシード ガザの住人は、
     エジプトのラファの検問所を通ってしか
     外との行き来ができないのですが、
     いまはそこも封鎖されています。
     封鎖されてはいるのですが、
     時々開くことがあるんです。
     でも開いているときにガザに入ったとすると、
     今度は出られなくなる危険があるし、
     簡単には行けないのです。
     西岸のラマラのパレスチナ人は、
     ヨルダンを通って出入りできるのですが、
     ラマラにガザから入るには、
     特別な許可が要るのです。

     ガザのエジプト側国境は人道支援のために、
     医療品や食料を持っていく人を通すために、
     ゲートが時々は開くことがあるので、
     そのときにガザに入ることはできるのですが、
     いま言ったように、
     確実に出て来れる保証はないので、
     行けないのです。

──── うわっ、ほんとに複雑ですね。
     日本ではなかなかいまの状況がわからないので、
     ガザの現状を教えていただきたいのですが。


ラシード パレスチナで、2006年1月に
     ハマスが選挙で勝って以来、
     イスラエル、欧州、アメリカが、
     “パレスチナ政府は違法である”
     というふうに勝手に決めました。
     それで、ハマス政権を困らせるために、
     (ハマス支配下にある)
     ガザを包囲したわけです。

     いまガザには170万人以上が住んでいますが、
     包囲というのは、つまり、
     ガザへ出入りする、エジプト側ラファと、
     それまではイスラエル側のエレツという
     検問所がありましたが、
     その2つを封鎖したことです。
     残っているのは海ですが、
     海も漁師が漁できるのは海岸から
     たったの2Kmの範囲だけです。
     そのようにまったく包囲された形に
     なっています。

     この検問所をもし開けておくと、
     人が武器を持って出入りするかもしれない。
     それを防ぐために封鎖しているのですが、
     軍隊が包囲し、電流が流れる鉄条網が
     はり巡らされています。

──── 軍隊というのは、
     パレスチナ、イスラエルの両方から
     出ているのですか。


ラシード 両方いますが、おもにイスラエルです。
     つまり、それが「イスラエルに占領されている」
     という状態なのです。
     (パレスチナという)国があるというよりは、
     まったく占領下にあるという形です。

──── 170万人がいま現在そこに住んでいて、
     人々の生活状況が心配になるのですが、
     監督はそういう情報は得やすいのでしょうか。


ラシード ええ。電話もするし、TV報道もしてるし、
     メールも通じます。去年3月には、
     新しいドキュメンタリーのために、
     私はガザに行ってました。それは、
     『グッドモーニング、ガザ』という映画になり、
     2010年に公開する予定です。
     だいたい80分の作品になる予定で、
     何がいまガザで起っているのかを、
     3、4年かけて撮っているんです。

     つづく。

パレスチナ問題で難しいのは、
表にでてくる現象、つまりテロや被害のニュースでは、
その本質がわかりにくいというところだと思います。
もともとの問題の発端から伺えるように、
欧米諸国との密接で複雑極まる関係と思惑があり、
はたまたもっとなにかわからない動きがある。
それプラス、ハマスとファタハに分裂した、
パレスチナ内部の問題がさらに複雑化させている。
分裂の原因も歴史をみると、仕方ないという
思いがしますから、なおさらどうしようもない、
という悪循環がずっと続いているという状況。

ただ、その間、市民は「待っている」んです。
それはシンプルすぎるくらいシンプル。
パレスチナ内外で60年間待ち続けているのは、
ただただ、ホームに帰る日です。
ホームというのは、パレスチナですが、
その“場所”は、じつは長い年月のうちに、
すっかり変わってしまっている‥‥。
そういうことをマシャラーウィ監督は、
『Waiting』という作品で表現しました。
外国の難民キャンプを訪ねて俳優オーディションをする、
という夢のような話を、ドキュメンタリータッチに、
ユーモラスに描いています。
そこには、あのレバノン戦争のときに
虐殺があった、シャティーラの現在の姿も
映されていました。


『waiting』のシーンショット(右がウマリさん)

次回はそれぞれの作品のことを伺います。
お楽しみに。

第21回 東京国際映画祭
★参考文献
『イスラームの世界地図』(文春新書)21世紀研究会編集
『パレスチナ新版』(岩波新書)広河 隆一著


Special thanks to Director Rashid Masarawi,
Etsuko Yamanouchi (interpreter)
and Tokyo International Film Festival.
Interview, writing, and photos
by(福嶋真砂代). All rights reserved.

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2008-12-03-WED
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