OL
ご近所のOLさんは、
先端に腰掛けていた。

vol.186
- Persepolis 1


ゴーゴー、マルジ!
──『ペルセポリス』その1



© 2007. 247 Films, France 3 Cine´ma. All rights reserved.
12/22より シネマライズほか全国順次ロードショー


□マルジャン・サトラピ監督に会いました。

ものすご〜く元気はつらつ!
太陽みたいにパワーに溢れている、
『ペルセポリス』の原作者であり監督の
マルジャン・サトラピさんに会いました。
人生をギリギリまで楽しんでいる感じで、
一緒にお話していて、かっこよくて、
私も思わず「お〜し、がんばろう〜!」
と、ビシッと気合いが入りました。

そんなサトラピ監督の半生が
自伝的に描かれているこの映画にも、
元気印の主人公のマルジパワーがいっぱい。
カンフーとアイアン・メイデンが大好きな
パンクなマルジ。
波瀾万丈な彼女の青春を
一緒に体験しているような感じでした。

ちょっと記事を振り返ると、
イラン映画については、
『亀も空を飛ぶ』『オフサイド・ガールズ』に続いて、
3作目のご紹介になりますね。
(なんと『オフサイド・ガールズ』のオリジナルポスター
 のデザインをサトラピさんが手がけたそうです。)
最近は、新聞のイラン関係のニュースを読む時も、
オフサイドガールズの国、マルジが生まれた国と、
ニュースの表には出てこない市民の生活が、
少しだけ近くに感じられるようになってきました。

イランについてのわかりやすい解説は、
こちらをぜひご覧ください。

さて『ペルセポリス』は、
グラフィック・ノベル第1巻が、
フランスで出版されると同時に大ヒット。
世界16カ国で翻訳されました。
さらに原作者のマルジャン・サトラピさんと
イラストレーターのヴァンサン・パロノーさんに
よって映画化され、
今年のカンヌ映画祭のコンペティション部門で
審査員賞を受賞したほか、数々の賞を獲得。
つい最近、アカデミー賞、
ゴールデングローブ賞の予備選考作品に
選出されたというビッグニュースも
入ってきたところです。

映画は“ほぼ”モノクロームのアニメーション。
(ほぼ、というのは、時間の変化の表現で、
 差し色のようにビビッドな色で彩られます)
独特なタッチの絵はクールで、
そこには実写を観ているようなリアルな空気がある、
いままで観たことのない不思議な感覚がする
映像だなあと思いました。

サトラピさんのプロフィールは、
映画のなかで語られていますが、
イランで生まれ育ち、思春期にウィーンに留学、
またイランに戻り、美術大学で勉強したのちに、
再び渡仏、現在、イラストレーター、作家、
そして今回の映画監督と、
フランスで大活躍されています。
(前回のダイ・シージエ監督もそうでしたね)

それではサトラピ監督インタビュー、前編です。


元気いっぱい、マルジャン・サトラピ監督

── なぜ自分の半生を、グラフィックノベルに
   しようと思われたのですか。


サトラピ 私は政治家でも歴史学者でもないし、
   社会学者でもありませんから、
   扱うテーマがとてもパーソナルなものだ
   ということを人々にわかってもらう
   必要がありました。
   これは私の視点であって、
   誰か他の人の立場を借りて
   ものを語っているのではなくて、
   私の個人的な意見なのだということを言うときに
   自分の名前を出さないわけにはいかなかったのです。
   ですから、責任を負うために、
   自伝的な形をとっているわけです。

   ただ、ひとつ言えることは、
   じつはこの映画はそれほど自伝的な作品ではない
   と思ってるんですね。
   マルジを通して他のことを語っている
   ということも重要です。
   私の欲望だけを語っているわけではありません。
   私小説であれば、家族、人間関係の問題を
   小説を書くことで昇華させる人も
   いるかもしれませんが、
   私は作品を通して、仕返しをするとか、
   そういう必要は無かったんです。

   とにかく私はアーティストですから、
   責任をとるために自伝的な形をとっています。


   
   © 2007. 247 Films, France 3 Cine´ma.

── 『ペルセポリス』の好きなところは、
   ミニマリズムというか、
   余計なものを排除し、本質を取りだして、
   そこに深みとニュアンスを与えるという
   技術、技法がすばらしいなと思いました。
   撮影前3ヵ月間のリサーチをしたと
   読んだ(プレス資料より)のですが、
   具体的にどんな試行錯誤がありましたか。


サトラピ リサーチは3ヵ月というより、
   私にとっては3年間かかっていたと思います。
   最初シナリオから書きはじめて、
   それを映像にするには、何度も何度も
   考えたことを実現してみては、
   「これじゃダメだ、もっと改良しよう」
   とやっていました。
   普通、アニメーションの世界では、
   いったん決めてしまうと、なかなか
   方向転換することは無いのですが、
   私たちは“方向転換する自由”というものを
   自分たちに与えたのです。
   だから最後の最後まで、
   自分たちの求めるものでなかったら、
   何度もやり直して、3年間は、
   ほんとにリサーチにかけたと言えますね。

   たとえば、グレーのトーンですが、
   白黒はスクリーンを通して観ると、
   人間の目には10分くらいしかもたないんです。
   とても攻撃的でハッキリし過ぎですからね。
   ですから、1時間半のスクリーンで、
   白黒ではなく、グレーというトーンを加えながら、
   人間の目に疲れないような色を探して
   いかなければなりませんでした。
   そうやって出来上がったものが、
   自分たちの望む姿になっています。
   私たちにとっても初めての映画でしたから
   ゼロからの出発で、すべて自分たちで
   発明しながら、映画というものは、
   どうやって作るのかということを、
   学びながらの作業でしたね。


── ご自身で作品を最初に観たとき、
   予想外の驚きはなにかありましたか。


サトラピ もし他人が私の原作を映画化したとしたら、
   観たときには驚きがあったかもしれないですが、
   今回は、私自身がシナリオから、
   映画が生まれていくプロセスをぜんぶ
   ずっと見ていたので、
   出来上がったときの発見は特には無かったです。

   でも制作過程で驚いたことは沢山ありました。
   これはディズニーとかピクサーとか、
   宮崎アニメといった作品に影響を受けて
   作ってはいません。むしろ何も前例が無く、
   それを必要とすることもなく、作られました。
   たとえば、スタッフに説明するときは、
   「これはアニメーション映画だけど、
    ちょっと実写のような感じで作るんだ」
   そういうことをスタッフに理解してもらうのは
   簡単なことではないのです。
   でもとてもうれしい驚きだったのは、
   そのことを、私が思っている以上に
   スタッフが理解してくれていたことです。


   つづく。

色の具合が絶妙で、ほんとに疲れませんでした。
モノクロなのにモノクロじゃないという、
その感覚がかっこいいと思ったのですが、
その秘密はリサーチ3年にあったのですね〜。
なるほど、スゴイです。

次回は、
ダニエル・ダリュー、カトリーヌ・ドヌーブ、
キアラ・マストロヤンニと、
大物俳優がずらり揃ったキャストの話と、
マルジのかっこいいおばあちゃんの思い出など
伺います。

お楽しみに。

『ペルセポリス』
『ペルセポリス』(書籍)

***お知らせ***

雑誌「ecocolo」2月号(12/20発売)で
憩いまくる映画、『全然大丈夫』
主演の荒川良々さん、岡田義徳さんの
対談インタビューしました。
めちゃ“憩いまくる”ひとときでした。
ぜひチェックしてみてください。

雑誌「スンダリ」vol.4(12/15発売)では、
またシネマナビをやってます。
この時期、やっぱり目玉は『マリア』
スピリチュアルなクリスマスも
よろしいのでは‥‥?


Special thanks to director Marjane Satrapi
and Longride. All rights reserved.
Written and photo by(福嶋真砂代)

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2007-12-23-SUN

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