OL
ご近所のOLさんは、
先端に腰掛けていた。

vol.184
- Les Filles du Botaniste Chinois1


植物園に咲いた禁断の愛の花
──『中国の植物学者の娘たち』その1



© 2005 SOTELA ET FAYOLLE FILMS
− EUROPACORP - MAX FILMS - FRANCE 2 CINEMA
12/15より、東劇、梅田ピカデリーほか全国ロードショー


瑞々しくも妖艶な植物園が舞台の映画、
『中国の植物学者の娘たち』は、とにかく!
驚異的な映像美に圧倒されまくります。

これを作った戴思杰(ダイ・シージエ)監督は、
1954年中国福建省生まれ。
文化大革命のときには下放を経験、
その後留学したフランスで映画に出逢い、
映画を作るとともに、人気作家でもあり、
前監督作品の『小さな中国のお針子』の
原作「バルザックと小さな中国のお針子」の
著者でもある方で、現在はフランス在住です。

女性の持つ感性や新しい可能性、
個人の自由を奪う古い因習への疑問を、
美しい自然のなかでのびのびと描くという、
監督の自由で個性豊かな発想が、
画面の隅々まで行き渡り、
溢れ出るその想いにも圧倒されるのです。

『中国の植物学者の娘たち』は、
同性愛という、中国でタブーとなっている
センセーショナルな題材を扱っているので、
中国では撮影許可が下りずに、
ベトナムで撮影されました。
そのベトナムからもなかなか難しい注文を
突きつけられたようで、
撮影の苦労が伺えるのですが、
監督の愛嬌のある笑顔を見ていると、
「だから何?」と言って、
グイグイ乗り切っていく逞しさが
伝わってきて元気が湧いてきます。

    ***

物語は、両親を大地震で失い、
孤児院で育った孤独な女の子のミンが、
植物学の研修のために孤島の植物園を訪れ、
そこで植物学者の娘のアンと出逢います。
ミンとアンの間には、
言葉よりも波動で話しているような
不思議な見えない絆を感じます。
それは同性であろうが異性であろうが関係なく、
深い、魂のつながりのようです。
果たして2人の愛の行方はどうなるの‥‥?
ミンとアンの官能的な時間を、
孤島にある植物園という神秘的な環境が
さらに盛り上げます。


“ダイちゃん”ことダイ・シージエ監督

では前編、興味津々で伺います。

□いちばんの弱点は、僕が男であること

── 泥、光、湯気とか、ディティールも
   感動的に美しい映像ですが、
   自然のなかでの撮影に苦労されましたか。


ダイ そうですね。細かいところを撮影する前に
   私としてはかなり準備をしたと思います。
   ストーリーはロマンチックな
   2人の女性の愛情の物語なのですが、
   その情感をはっきりと際立たせるために
   さまざまな小道具が必要でした。
   土も泥も光も葉っぱも、
   2人の気持ちや心の動きを
   表現できるものだと思いました。

   植物園での撮影でしたから苦労しました。
   もしお金があれば、ぜんぶ作り物にしたら、
   やりやすいのだろうと思いますけど、
   そうもいかないですし(笑)、
   お花のシーンを撮るときも、
   翌日には枯れてしまうので、
   1つ1つ新しいお花に取り替えるという
   作業もありました。
   毎日お水もやらないといけないですしね。


── 水のシーンも美しくて印象に残ります。
   とくに監督が「水」に与えた意味
   みたいなものはありますか。


ダイ なぜ「水」なのかというと、
   水は女性と関係があるものではないか、
   と思ったからです。
   はっきりとした言葉では表せないのですが、
   女性の持つリズム感は、水の流れの持つリズム感と
   一致するのではないかと思ったのが
   ひとつの理由です。

   最初と最後のシーンを
   水のシーンにしたくて、
   そうすることが重要なのではないかと、
   私が感じていたのでそうしました。


── 街中の民家の軒先を走る電車のシーンが
   おもしろいなと思いましたが、
   中国ではよくみかける風景なのでしょうか。


ダイ 密集地域で列車が走る風景は、
   最近の中国では見られなくなりました。
   でも四川省、雲南省、広西チアン族自治区
   などには似たようなところがあります。
   あの新婚旅行に出かけるシーンは、
   「これからどこかに行く」ということを
   きちんと表現したかったのです。

   ロケをしたのはベトナムです。
   ストーリー上もベトナムに新婚旅行に行く
   という設定なのですが、
   ベトナム政府はそういうふうに使ってもらっては
   困る、と同意してくれなかったので、
   ベトナムだとわかるところはカットしました。
   ベトナムだとわからないようにしてくれれば
   いいという撮影許可はもらえたのです。


   
   © 2005 SOTELA ET FAYOLLE FILMS
    − EUROPACORP - MAX FILMS - FRANCE 2 CINEMA


── 女性の恋愛の物語の舞台を
   植物園にしようと思ったのは?


ダイ この作品を撮ろうとしたときに、
   100%把握しきれていないところが
   自分もスタッフにもあったと思います。
   いちばんのウィークポイントは、
   自分が男である点です。
   女性同士の結びつきの表現に難しさを
   感じました。私は同性愛者でもないですし。
   だから舞台には、私がいちばん理解していて、
   見知っている場所を選びたいと思ったのです。
   小さい頃、植物園がある医科大学の中にある家に
   住んでいて、そこから小学校に通っていたんです。
   だから親しみのある環境だったんですね。
   それに女の人が植物園を行ったり来たり
   することに美しさを感じたので、
   舞台に選びました。


   つづく。

ダイ・シージエ監督は、
日本の映画人との交流も広くて、
“ダイちゃん”と呼ばれて親しまれているそう。
ふっかりとしたシルクのおっしゃれ〜な濃紺の
中国服に身を包み、ニコニコと
笑顔がとても温和な感じなのでした。
でもその語り口は、エッジが効いてて
とくに現代の中国については、
外国に住む“ダイちゃん”の目に映る中国の
冷静で愛情溢れる分析にうなります。

次回はその現代の中国社会について、
変わりゆく中国の強さの“原動力”とは、
日本人がだんだん手放していっているもの。
それは‥‥。

お楽しみに。

『中国の植物学者の娘たち』


Special thanks to director Dai Sijie
and Astaire. All rights reserved.
Written and photo by(福嶋真砂代)

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2007-12-14-FRI

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