OL
ご近所のOLさんは、
先端に腰掛けていた。

vol.142
- Life can be so wonderful 1-


忘れかけてたあの感触、この気持ち‥‥
──『世界はときどき美しい』その1



© 2006「世界はときどき美しい」製作委員会

ときどきいただく、
読者のみなさんからのメールに、
どんなに励まされ元気づけられるか‥‥。
いつも本当にありがたく読んでいます。

そんな読者メールのなかに、映画監督、
御法川 修(みのりかわ おさむ)さんからの
「僕の初監督作品を観に来て下さい」という
ビックリのメールを見つけました。
「カ、カ、カントク‥‥?」目をこすって見ると、
やはり、映画『世界はときどき美しい』の監督の名前。

お会いすると、御法川監督は、
若くて、長身で、金髪で、目がクリクリ(日本人)。
人懐っこい満面の笑顔がとても素敵!
なぜに私にメールを? と聞くと、
「映画の切り口が、映画だけじゃなくて、
いろんな角度から観ているのがいいなと思って」
と、そんな暴挙に出た(笑)ワケを話してくれました。

私は去年の東京国際映画祭に出品された
『世界はときどき美しい』を観ていました。
松田美由紀さんの凛としたモノローグが印象的で、
松田龍平さんも出演していて話題になってて、
“映像詩”という美しい世界観で包まれた、
なにしろ映像の質感が独特な作品だったなあ、
と、心にひっかかっていました。

にしても、なんという「ほぼ日」が取り持つ縁!
二つ返事で監督にインタビューさせていただきました。
「世界はときどきワンダフル」!
なかなか捨てたもんじゃない。

今回の魔法のような出会いは、
私にとって大きな「学び」でした。
それは御法川監督のもの作りへの“姿勢”や、
プロデューサーの西 健二郎さんの
製作への厳しくも温かい目も含めたいろいろ。
よく、監督とプロデューサーは夫婦みたいな関係、
と言われるのですが、まさにそんな感じです。
西さんが妻、監督が夫、かな。
たまに入れ替わるのでしょうが。

でもなにも映画制作に限らず、
人生にとっても大切なことの数々。
なんだか『世界はときどき美しい』を
リアルに体験してしまった(いまも)感じです。
みなさん、それがどんな体験かというのは、
映画を観るときっとわかると思います。

いつもより少しビジネス的な話もあります。
私ひとりで聴くのはもったいなくて、
とりわけ映画制作に興味のある人にとっては
“映画ビジネス”という視点からみても、
ものすごくおもしろいと思います。


© 2006「世界はときどき美しい」製作委員会

さて『世界はときどき美しい』は、
5つのショートストーリーのオムニバス。

第1章「世界はときどき美しい」
    (出演者*松田美由紀)

第2章「バーフライ」
    (出演者*柄本 明、ほか)

第3章「彼女の好きな孤独」
    (出演者*片山 瞳、瀬川 亮)

第4章「スナフキン リバティ」
    (出演者*松田龍平、浅見れいな)

第5章「生きるためのいくつかの理由」
    (出演者*市川実日子、木野 花、ほか)

という、それぞれ独立した話ですが、
すべて観終わると、
息をふぅーっと吐き出して、
また新しい空気がすぅーっと入ってくる。
「今日は今日で終りにして、また明日がんばろう」
ちょっとした素敵な諦めと、小さな決意。
そんなふうに気持ちが“立つ”感じです。
誰にともなく「ありがとう」と思いました。

それぞれの話のあらすじなどは、
こちらのサイトを見てみてください。
私は「バーフライ」の“蝿男”柄本 明さんに
ハートを持って行かれました(笑)。


© 2006「世界はときどき美しい」製作委員会

さっそく、御法川監督と西プロデューサーの、
隅々までおもしろい、作品への熱い想いと
赤裸々にお話いただいた制作の秘話、
あと御法川監督の炎のようなエネルギーを感じて、
どうぞお楽しみください。

まずは『世界はときどき美しい』が出来るまで。
の「前編」になります。またプチ連載です。

□ちゃんと自分のサインができる仕事をやりたい

─── 西さんが、御法川さんの初監督作品を
    プロデュースしたいと思っていたと。
    以前から御法川さんをご存じだったのですか?


西   あるプロデューサーに紹介されたんです。
    才能ある監督がいるって。それで、
    御法川さんの作ったドキュメンタリーや、
    この映画の一本目の松田美由紀さんの作品を観て、
    「力のある監督だなあ」と思ったんです。
    僕が後押ししなくても世には出てくるだろうなと、
    彼にはそういう資質があったので、
    誰も手をつけないのであれば
    「僕が組んでやりたい!」と思いました。

    僕は、基本的に若い監督と仕事をしたい、
    若い才能を伸ばしたいとつねづね思ってまして。
    そのときに御法川さんと出逢ったんです。
    それからシノプシスをいただいたりとか、
    いろいろやり取りをして1年半くらいですかね。
    この映画の企画が、僕の会社
    (株式会社GPミュージアムソフト)
    の社内会議で通ってゴーサインが出たんです。


    

─── ではそのときは『世界は‥‥』の
    松田美由紀さんのエピソードは出来ていて、
    それを劇場用長編にしようと、西さんが
    プロデュースに参加したという‥‥?


西   本作の製作委員会に加わっている
    DNA株式会社さんからの企画で、
    ネット配信用のショートムービーを
    何本か作りたいんだけれど、
    ネットだけだと予算規模が限られるので、
    もう少し企画の幅を広げられませんか、
    って相談を受けたのが、
    このプロジェクトの始まりだったんです。


─── ネットの枠じゃないな、
    というふうに思われたんですか。


西   そうですね。
    ただ、まあ、最初はもっとこじんまりとした
    もので、だんだんこう成長したんです。


─── その成長過程が聞きたいですね〜。

御法川 そのころの僕の気分を少し話すと、
    美由紀さんのエピソードを作ったのが、
    5年前なんですけど、そのころには、
    “ショートムービー”という言葉も
    認知されてきて、観る機会もすごく増えてて。


─── 「ショートショート フィルムフェスティバル」
    もありますね、別所哲也さんの。


御法川 そうそう、そうですよね。
    当時はウェブ上の配信コンテンツとして
    ショートムービーが持てはやされていた時期で。
    僕はドキュメンタリーやミュージッククリップの
    ディレクターを務めながらも、いつかは映画を!
    と思っていましたけど、果たして自分には
    語るべき物語があるのか不安を感じていました。
    僕は助監督として、優れた監督たち(崔洋一、
    渡邊孝好、古厩智之、利重剛監督)の現場に
    携わってきたので、映画を手がけることへの
    恐れもあったと思います。

    「職人」と自分のスタンスを呼ぶ
    ディレクターたちは多いんです。
    「職人としてどんな題材でも料理できる」
    という口ぶりです。
    職人って、作品の裏方に徹して署名を残さない
    プロフェッショナルですよね。
    でも、メディアの送り手というのは
    自分の仕事にサインする責任を負うべきだろう、
    そう思っていました。

    「職人」だと構えている場合じゃなくて、
    ちゃんと自分のサインができる仕事をやりたい。
    だけど僕に題材が提示されて、監督してくださいと
    突然オファーがくるわけじゃないですからね。

    そんなとき、某CS局から話があって、
    予算50万円で、尺が10分に達していたら
    どういう内容でもいいからという条件の
    ショートムービーの監督依頼が来たんです。
    「またとない機会だから、これを逃したくない」
    と思いました。ただ、そういう予算の中では、
    自分のやりたいことはハマらないだろうと
    分っていました。


─── 50万円かあ‥‥キツいですね。

御法川 想像される困難よりも先に、
    映画監督としての名刺代わりになる作品を創ろう
    と燃えてしまったんです。
    その時も今も余裕なんて全然ないけど、
    ある程度の持ち出しも覚悟してやろうと。
    とにかく、火がついてしまったんですね。

    そう思ったらすぐに、
    ご一緒したい方々の顔が次々と浮かんで。
    まず、主演は松田美由紀さんにお願いしたい。
    助監督のころから目をかけて頂いた感謝を込めて、
    僕が観てみたい美由紀さん像を書き込んだ脚本を
    プロポーズするような気持ちで贈りました。
    美由紀さんが快く引き受けてくれた後は、
    撮影の芦澤明子さんや録音の森英司さん等、
    いつか映画の現場を共にしたいと希望していた
    スタッフにお声をかけていったんです。
    十分な報酬が払えないことも忘れて、
    気持ちばかり先走っていた感じでしたね。

    理想の顔ぶれに囲まれて動き出したんですが、
    企画内容が膨らんでしまったために、
    提示された予算内に納めることが
    はっきりと不可能になってしまったわけです。
    そこで、局側への提案として、
    予算超過分を自分が引き受ける代わりに、
    オンエア後は作品の権利を共有させてほしい、
    と交渉したんです。
    ゆくゆく新たな挿話を加えて長編映画に
    仕上げたいという考えがありましたから。

    企業と渡り合うだけの技量も無いくせに、
    無謀な話ですよね(笑)。
    まわりが見えていない状況でしたから。
    で、結局、出来上がったときに、
    そのCS局から納品拒否されたんです(笑)。


─── えーーーっ?

    つづく。

    

予算を超越して自腹を切って作った映像に
「納品拒否」の厳しい判決が降りてしまった‥‥。
いまだから笑って話してくれるのでしょうが、
そのときの気持ちはどんなだったのだろうと
考えるともう背筋がぞーっとします。
だけど、御法川さんの信念はまったく揺るぎなく、
「よい映画を作りたい、世の中へ送り出したい」
その想いは、いわゆる「地獄を見た人」が、
完璧なブレークスルーを遂げる力を産み出した。
なにかを突き破るときのエネルギーって凄い!

その御法川監督の作品をお見逃し無く。

■3月31日から渋谷ユーロスペース
 レイトショー 連日21:10
 モーニングショー(土日祝日のみ) 9:50

舞台挨拶の予定は、
■3/31(土)
 9:50の回上映後│御法川監督/松田美由紀/鈴木慶江
 21:10の回上映前│御法川監督/柄本 明

■4/1(日)
 9:50の回上映後│御法川監督/片山瞳/瀬川 亮
 21:10の回上映前│御法川監督/松田龍平/浅見れいな

『世界はときどき美しい』

つづきもお楽しみに。


Special thanks to director Osamu Minorikawa and
producer Kenjiro Nishi. All rights reserved.
Written by(福嶋真砂代)

ご近所のOL・まーしゃさんへの激励や感想などは、
メールの表題に「まーしゃさんへ」と書いて
postman@1101.comに送ってください。

2007-03-28-WED

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