OL
ご近所のOLさんは、
先端に腰掛けていた。

vol.141
- Paris Je T'aime 3 -


ガイドブックに載ってないパリ案内
──『パリ、ジュテーム』その3



©Patrick KLEIN / Victoires International 2006
(写真は、ジョエル&イーサン・コーエン監督「1区、チュイルリー」)


諏訪敦彦監督の最終回です。
聞けば聞くほど興味深いことばかり、
もっともっと聞きたくなります。

諏訪監督が参加した『パリ、ジュテーム』は、
コアな映画ファンのみなさんなら、
うひょ、うひょ〜と、
イスから落ちそうになるくらい、
うれしいことが連続して出てくる
“宝探し”のような楽しさがあります。

たとえば、この映画は
60年代の『パリところどころ』
(ジャン=リュック・ゴダールや、
エリック・ロメールが参加している)
をリスペクトして作られているのですが、
そのときのプロデューサー、
バーペット・シュローダーが、
クリストファー・ドイルが監督した
「13区、ショワジー門」に出てきます。

それから「6区、カルチェラタン」には、
ジョン・カサベテス作品と切っても切れない、
ジーナ・ローランズとベン・ギャザラが出演し、
その脚本をジーナが書き、
監督フレデリック・オービュルタンと一緒に、
ジェラール・ドパルデューがメガホンを取り、
しかもドパルデューもバーテン役で出演したり、
なんともニクい演出になってます。

私がグッと来たのは、
ガス・ヴァン・サント監督の
「4区、マレ地区」で、
『エレファント』のイーライ役だった、
イライアス・マッコネルの出方です。
めちゃくちゃ素敵!

ほかにも『あなたになら言える秘密のこと』の
イサベル・コイシェ監督「12区、バスティーユ」は、
別れそうな夫婦の話が素敵に描かれているし、
『ベッカムに恋して』のグリンダ・チャーダ監督の
「5区、セーヌ河岸」もかわいらしく、
さりげなく現代の問題を描いていて大好き。

もちろん、ジュリエット・ビノシュの背中、
ウィレム・デフォーのカウボーイ姿‥‥、
などなど、好きなところはキリなくつづくので、
このへんで諏訪監督にバトンタッチします。

撮影のときのエピソードから、
諏訪監督とっておきの
『パリ、ジュテーム』の見どころまで、
ごゆっくりどうぞ。

□ジュリエット・ビノシュのお宅で‥‥

   
   ©Frederique BARRAJA / Victoires International 2006

── パリの石畳に、馬が似合いますよね。

諏訪 音がいいんですよ!

── 濡れた石畳の感じも。

諏訪 あれ、全部、濡らしたんです。

── そうだったんですか。

諏訪 今回はかなりビッグクルーだったので、
   僕の初めての経験だったんですけど、
   かなりの人数でした。


── どれくらいの?

諏訪 何人いたでしょう‥‥、わかんないですね、もう。

── そんなにいたんだ。

諏訪 いつもは15、6人くらいのスタッフですけど。
   最初に現場に行った時に、びっくりしましたね。
   トレーラーがいっぱいあって、
   なんだだこれは、何の騒ぎだ、って。


── ほとんどフランスのクルーなんですか。

諏訪 全部そうです。
   通訳の方と僕だけが日本人でした。


── いつも思うのですが(愚問ですけど)、
   言葉の壁って気にならないですか。


諏訪 気にならないです。むしろ楽というか‥‥。
   単純なコミュニケーションでいいってとこがあって。
   微妙なニュアンスとかを伝えたりとか、
   読み取り合ったりとか、
   そういうことをしなくて済むので。
   わりと簡単なコミュニケーションなんです。


── シンプルに伝えるという‥‥。

諏訪 それで十分というか、映画を作るにおいてはね。
   これが恋愛だと難しいかもしれませんけど(笑)。
   仕事をするとか映画を作る状況というのは、
   そんなに変わらないんですよね。
   だから「ウン」「こっち」「そうじゃない」とか
   わりと簡単なコミュニケーションでできてしまう。

   ただ最初に会って、お互いを信頼し合っていく
   プロセスというのはかなりデリケートなので、
   そのときは吉武美知子さんと一緒にやります。
   彼女とはずっと信頼関係をもって、
   一緒にやってきたので、
   もうあまり(言葉の)ストレスが無いです。


── ジュリエット・ビノシュの家に行かれたのですか。

諏訪 彼女に家に来てと言われたのでね。
   手料理をごちそうしてくれました。


── わぁ〜、すてき!

□ジーナ・ローランズにドキドキ‥‥

── ところで、『パリ、ジュテーム』って
   そこここに隠し玉があって、
   宝探しみたいに楽しい映画なのですが、
   諏訪さんの見どころベスト3みたいなのを
   聞かせてほしいのですが。


諏訪 やっぱり現場にもいて、現場を見ていて、
   自分が映画監督というのではなしに、
   ジーナ・ローランズが現場にいたときは、
   ドキドキしましたね。ちゃんと紹介してもらって
   お話もできたんですけど、幸せでしたし、
   ジーナ・ローランズの芝居が今見られるというのは、
   ひとつのクライマックスではないでしょうか。


── そうですよね‥‥。
   ジーナ・ローランズの足首にうっとりしましたね〜。

   あと、コーエン兄弟の「チュイルリー」も
   おもしろかったです。


諏訪 あ、あれは、最初に(パイロット版として)
   撮ったもので。じつはプロデューサー達が
   ちょっとショックを受けてました(笑)。
   っていうのは、彼らはパリのいろんな風景を
   撮ってほしいわけです。
   でも「あれは地下鉄から出ないんだよ」ってね。


── たしかに地下鉄ホームだけが舞台です。
   しかもよく見ると、
   プラットホームは片側だけだったりして。
   あの“ガイドブック”がおもしろかったし、
   男のコの変な顔も‥‥。

   あ、あと2つは何でしょうか。


諏訪 ほかの監督が撮ってるのを見られるってことが
   まず少ないですから、
   とにかくほかの人の現場を見ることが、
   おもしろいですよね。

   うーん、なにがあったかなあ‥‥。

   (資料を見て思い出そうと)
   

── 私はガス・ヴァン・サントのも好きでした。

諏訪 彼の撮影は誰も立ち入れなかったんです。
   何やってるかわからないんだけど、
   彼の撮影は一瞬で終るんです。
   たしか2、3時間で終ったと思います。
   もう一回リテイクもしたけど、早かった。


── 諏訪さんのはどれくらいですか。

諏訪 僕のはまる二晩です。

   そうだ。オリビエ・アサイアスの作品の中に、
   ジョアンナ・プレイス(Janna Preiss)という
   女優がちらっと出てますね。彼女は有名な存在で、
   ナン・ゴールディンの写真集にも出てるんですが、
   僕の次の『A Perfect Couple(不完全なふたり)』
   にも出てくれてます。
   ルイ・ガレルと『ママン(Ma Mer)』にも出てます。
   フランスでは注目されてる存在なんです。
   彼女は完全に役者だけっていう存在
   じゃないんですけど‥‥。


── うーむ、トリビアですね〜。わからなかったです。

   あ、そういえば、香港帰りの西島(秀俊)さんに
   ばったりお会いしたとき、香港で観ていらした
   『A Perfect Couple』がすばらしかったと
   興奮して話してくれて、それ以来、ずっと
   「みたい〜」と思って待ってたんです。
   いよいよ公開が決まりましたね。


諏訪 あれは『パリ、ジュテーム』とは対称的に、
   もっと小さいクルーで撮ったんです。


── いつものように‥‥。台本は薄め?

諏訪 そう。いままで通りの濃さで。
   しかもラストシーンが無いっていう。


── あ‥‥。

諏訪 撮影に入っても無くて、進行しながら、
   ヴァレリア(ブルーニ・テデスキ)が
   思いついたんです。


── 話し合うんですか、気持ちについて。

諏訪 撮影中は、気持ちについて話さないんですけど、
   前にすごく時間を取っていろんな話をします。
   撮影が始まると、11日間でパーッと
   撮っちゃいました。


── トデスキーニも個性的な俳優さんですね。
   ニュアンスがうまいというか。


諏訪 彼もいっぱい出てるんですが、
   初めて会ったときに、彼も思ったらしいんですが、
   「コイツ、兄弟だな」っていうか、
   「僕たち、なんか前世で兄弟だった?」
   みたいなそういう変な親近感があって、
   不思議でした。


── そうなんですか‥‥。
   ますます楽しみになってきました。


   おわり。

ブルーノ・トデスキーニはカメレオンのように、
作品によって、全然違う人に見えてしまいます。
諏訪監督の『不完全なふたり』でも、
ほんとにどんな人で現れるのか、ワクワクしてます。
しかも、諏訪さんと前世の兄弟となれば‥‥。

というわけで、
映画少年にもどって現場の興奮を伝えていただいた、
『パリ、ジュテーム』を100倍楽しむための、
諏訪敦彦監督の講座をおわります。

ぜひ、あなたのツボも教えてください。

次回は『世界はときどき美しい』の、
御法川修(みのりかわおさむ)監督が、
元気いっぱいの登場です!

お楽しみに。

『パリ、ジュテーム』


Special thanks to director Nobuhiro Suwa and
TOHOTOWA. All rights reserved.
Written by(福嶋真砂代)

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2007-03-09-FRI

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