OL
ご近所のOLさんは、
先端に腰掛けていた。

vol.136
- Sakaike no Shiawase 1 -


家族ってなんだろう‥‥、
----『酒井家のしあわせ』その1



©「酒井家のしあわせ」フィルムパートナーズ
12月23日より渋谷アミューズCQNほか、ロードショー


□「家族」をテーマに作っていきたい。

家族のことをあらためて考えるのは、
いささか照れくさいもんです。だけど、
あのとき、ちゃんと話しておけばよかった‥‥、
ということは、居なくなってはじめて、
ほんとのほんとに後悔するものだと、
気がついたときにはすでに遅し、です。
かと言って、何を話したらいいのかは、
面と向うとなると、意外とボヤケていて
見えなかったりもしますよね。

『酒井家のしあわせ』の
呉美保(オ・ミポ)監督(29才!)。
若い、かわいい、小柄(関係ないか)な方で
あるにもかかわらず、こんなにしっかりと、
「家族」というものと向き合っていて、
「なんて勇敢なんだ‥‥」と思います。
微妙な心のズレとか、
言うべきこととか、言えないこと、
言っちゃいけないこととか、
はたまた泣けてくることとか、
独特の笑いのリズムの中で表現しています。

みなさんもこの映画を観ると、
「家族って、なんかええもんやな」と
ポツネンとつぶやいたりするかも。


   呉美保監督

関西のとある田舎町にある酒井家は、
父の正和(ユースケ・サンタマリア)、
母の照美(友近)ーバツイチ、
中学2年の長男、次雄(森田直幸)、
4才の妹の光(鍋本凪々美)の4人家族。
次雄くんの目でみた家族を描いていきます。
いろんなことがウザく感じる年頃。
学校生活もなにかと大変だけど、
普通になだらかに毎日が過ぎていたのでした。

そんなある日のこと、
突然、父が家族からの離脱宣言。
え?! なんで?
「好きな人ができたから」
と言って指さしたのは、男の人。
‥‥なんていうショッキングな流れから、
しだいに、しんみりとしてきます。
父の家出にはワケがあるのでした。
いったい父はなぜ家を出たのか‥‥。
それは観てからのお楽しみ、ということで。

これが初の長編監督作品という呉美保監督に、
監督自身の家族の話や、
映画初主演の友近さんのこと、
山崎まさよしさんの音楽のことまで、
伺ってまいりました。
プチ連載です。最後まで読んでね〜。


── どういうきっかけで、
   このストーリーを書き始めたのですか。


呉  家族の話を書きたいと思っていて、
   それは、自分にも、誰にでも、
   必ずあるものだし、ひとつの形を
   作品にしていきたいなと思っていたんです。
   これからも「家族」というテーマで
   作っていきたいと思っているんですけど、
   それの出だしというか、最初の物語として、
   この物語を思いついたんです。でも、
   1回でこの話に行き着いたのではなくて、
   何回も書き直してここに来ました。
   家族の話を書きたいと言っても、
   じゃあ何を書こうかというときに、
   「泣ける映画」を作りたいと思ったんです。


── 泣ける、ですか‥‥。

呉  泣けると言っても、小さいころは、
   悔しくてとか、悲しくてとかで、
   うれしくて泣いたのはあまり無くて、
   だいたいは、自分の思い通りに
   ならなくて泣く、だったりして。

   泣くためには、映画として「笑える」ものを、
   っていうのが前提にないと、
   「泣く」に行き着かないかなと思ってました。
   ただ単に泣ける映画って暗いから。


── 笑いがあっての‥‥、

呉  泣き、です。それだけで終るんじゃなくて、
   最後には笑って終れる映画を
   作りたかったんです。


── 監督が観てきたテレビとか、本とか、
   何か影響受けたものってありますか。


呉  特に「何」っていうのは無いんです。
   やっぱり自分の育ってきた環境っていのは、
   ものすごく大きいと思うんですよ。


── 家族とか?

呉  そうですね。わりと感情表現の激しい家族
   というか、韓国人とかっていうのも
   あるんですけど。


── ご両親が?

呉  そうです、全員なんですけど。
   笑い泣き系ですよね。
   なんかあるごとに笑って、
   なんかあるごとに泣いて。
   私がその中でいちばん(表現が)大きい
   かもしれないけど。

   揉め事のない家族は無いと
   思うんですけど、その浮き沈みがわりと、
   自分の家は、激しいと思うんですね。


── ご兄弟はいらっしゃるんですか。

呉  姉と弟がいて、私が真ん中です。
   真ん中というのもあって、
   家では自由にさせてもらってたんですけど。


── (笑)真ん中は自由ですか。

呉  そうですね。姉と弟がいて、
   弟は長男だから大事に大事にされるし、
   姉はいちばん上で、すべてが初めての子供
   だから大事にされて‥‥。
   でも私はなんか放っとかれたみたいな感じで。


── それを満喫してました?
   自由だー、みたいな。


呉  そうなんですけど‥‥。
   たとえば、変な話、私の写真が無かったり、
   するんですよ。無いことは無いんですけど、
   めちゃ少ないんですよ(笑)。
   姉の時は、両親がはりきってて多いし、
   弟は長男だから多くて、
   でも私のは少ない‥‥。

   
   ©「酒井家のしあわせ」フィルムパートナーズ

   さらにもっとディープな話があって、
   ほんとに悲しくなったんですけど。
   子供の誕生のときに、
   「手のひら」とか「足のうら」とか、
   残す習慣があるんです。
   アルバム開いたら生まれたての写真があって、
   手のひらと足のうらがあって。
   その下にお母さんのコメントみたいなのが
   全員にあるんですね。

   で、姉弟のときは、両手上げて「うれしい」と。
   私のときの母のコメントは、
   「ウレしくて涙が出た」って書いてあった
   ‥‥と思ったんです。
   「ウレしくて」は漢字だったんです。
   ずっと「ウレしくて」だと思ってたんです。
   その上に「また女だった」ってあって、
   「ウレしくて涙が出た」とつながりが、
   ちょっとおかしいなと思ってて。
   小学生になって漢字の勉強をして、
   もう一回見たら、
   「また女だった。悔しくて涙が出た」
   って書いてあるんです。全否定‥‥みたいな。


── それを発見してしまった。
   お母さんに聞いてみたんですか。


呉  聞きましたけど、「そう」みたいな。
   いちいちそういうのに「あら〜」とかないから、
   そういうことを書くんだろうと。
   実際、韓国家系とか、田舎とかいう環境があるので、
   とにかく男が生まれるまで産み続けるぐらいのことを
   姑ーおばあちゃんに(母が)言われてたので。
   帝王切開だったから、余計、もう、これで男で
   終ってほしい、ぐらいの時で。
   それこそ、そんなこと書かれたら、
   世が世なら、家が家なら非行に走っても、
   って大げさだけど、おかしくないぐらいですけど。
   家がまた厳しかったんです。
   放っておかれるといっても、
   礼儀はものすごく厳しかったから、
   そんな「非行」っていう選択肢なんか無くて。
   とりあえず「スネてる」ぐらいのレベルです。


── その時「負けん気」みたいなのが
   芽生えたりしましたか。


呉  けっこうそういうのがあるかもしれないと、
   最近思ってきました。
   それがすべてではないですけど、
   自分の中のコンプレックスみたいなのがね。
   でもそれって、客観的に見たら
   笑えるじゃないですか、いまとなっては。
   でもその渦中にいる自分は、笑えないっていう、
   そのバランスが、自分の中ですごくおもしろいな
   って最近になって思ってきました。
   だから「笑い泣き」なんです。


   つづく。

言い忘れましたが、呉監督、関西弁です。
三重県のお生まれなのですが、
なんとも柔らかい関西弁で
話してくれて、心地よいのでした。
で、「スネてる」のところ(関西弁で)で、
酒井家の「次雄くん」が浮かんできました。
やっぱりどこかに投影されるんですね、
そこはかとなく。

それでは、続き、お楽しみに。


Special thanks to director Mipo O and Lem.
All rights reserved.

Written by(福嶋真砂代)

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2006-12-21-THU

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