OL
ご近所のOLさんは、
先端に腰掛けていた。

vol.112
- Me and You and Everyone We Know-



ミランダ・ジュライのマジカルな瞬間
---- 『君とボクの虹色の世界』



『君とボクの虹色の世界』4月8日から渋谷シネ・アミューズ他でロードショー

2005年のカンヌ国際映画祭で
カメラドール(新人監督賞)、
国際批評家週間グランプリ受賞の
『君とボクの虹色の世界』を監督した
彗星のごとく現れたマルチな才能のアーティスト、
ミランダ・ジュライさんをご紹介します。

しかし、こう言ってはなんなのですが…、
監督でもあり、女優でもある、
主役のクリスティーンを演じた
ミランダ・ジュライさんは、
実際にお会いすると(…映画のイメージよりも)、
かなりかわいいです!

いや、もちろん、映画の中でもチャーミングです。
でもクリスティーン役って、どちらかというと、
片想いの相手にストーカーまがいのアタックをしたり、
ちょっとフシギ空気を漂わせる女のコでもあるし、
なんかとらえどころがない感じがしていて、
そして32歳という年齢、というのも考えると、
「う…ん」と思っていたとこ、あったんです。
(すいません)



だけど実際にお会いすると、
ファッション雑誌の表紙を何度も飾っているだけあって、
“アイドル”のように可憐な人です。
話していると、ポップでおしゃれな、
独特の"ミランダ・ジュライ色”の空気に
ふわふわ〜と軽くなる感じです。
で、インタビューの帰りに、エレベーターの中、
たまたま2人だけになって話していると、
信じられなく友だち感覚で話してくれる人で、
ボーイフレンド(映像クリエイターのマイク・ミルズ)
のところへ駆けていく姿が、
またすんごくかわいかったのでした。

『君とボクの虹色の世界』は、
アーティストを夢見ながら、生活のため、
高齢者向けタクシーの「エルダータクシー」の
運転手をしているクリスティーンを中心に、
さまざまなキャラクターの登場人物たちが、
日常の出来事の少し先にある小さな驚き、
そしてほのぼのとした幸せを見つけるという、
ポップでシュールでアートな作品です。

中でも、パソコンにハマる6歳のロビー君が、
出会い系チャットで出会った相手に、
実際に会いに行くところなんか、
現実と非現実の境の曖昧な領域で起る、
現代ならではの可笑しな小ネタに「クスっ」とする、
ミランダ的時代感覚が冴え渡ってます。
もしかして、アメリカ版「三木聡」?

謎は、こんなに可愛らしく、ガラス細工のような、
透明で、繊細で、壊れやすささえ感じさせる
ミランダ・ジュライさんの、どこに、
映画や音楽、パフォーマンス、執筆活動とか、
数々の作品を、つぎつぎと産み出す力や、
監督として映画制作をコントロールする力が、
潜んでいるのでしょうか…。
そういう隠れた魅力にも、
とても興味が湧いてきて、お話を伺いました。

──── 初めての長編映画ですが、それまでの
     短編制作との違いはどんなでしたか。


ミランダ 新しい体験で、楽しかったです。
     衣装の人とか、プロダクションデザイナーとか
     いろんなサポートを受けられたことが、
     大きな違いです。でも、それは逆に、
     「デリシャス・トリート」という要素があって、
     いままで自分一人でやってきたことを、
     彼らがやってくれてることによって、
     決断を自分で下せないというところも
     あるのです。たとえば、衣装選びとかね。


──── 監督と主演の二役でしたが、
     撮影中に大変だったこと、ありますか。


ミランダ 大変だったのは、
     クリエイティブなところよりも、
     肉体的なことでしたね。
     デパートの撮影は閉店後に
     やらなきゃいけないとか、
     一晩中撮影して、
     昼間に寝るような状況とかあって、
     じつはいまもリカバリー中なんです(笑)。


──── そういう大変なとき、
     乗り越えるためのエネルギー源は、何ですか。


ミランダ 家に帰って、シャワー浴びてすぐ寝ることです。
     女優もやっていたから、髪も毎日洗ってたし。
     よく食べて、健康的にいるように、友だちにも
     心配してもらってました。




──── スポンサーがついたりして、商業的になると、
     何か規制に縛られた感覚がしたりするもの?


ミランダ 今回は脚本も全部自分で書いたし、
     フィナンシャル・サポートももらって、
     それはとてもよかったです。

     そうそう、いま小説を書いていて、
     これから出版することになるのだけど、
     編集者から、長くてもっと複雑な、
     エモーショナルなものにして、と言われてて、
     でも、「そんなこと言われてもね…」と、
     やってみたけど全然うまくいかないし、
     イヤになることありますね。
     だから、しばらく時間を置くことにして…。
     自分を、ある意味トリックにかけるんだけど、
     (書くことを)忘れたフリをしてみる、とかね。
     “マジカルな瞬間”にどうやって持っていくか、
     っていうのは、必要なことですよね。


──── 映画の中でクリスティーンが、自分の作品を
     ギャラリーに売り込むシーンがありますが、
     そういう経験って実際にありましたか。


ミランダ 同じ状況の経験は無いのだけど、
     グラント(奨学金、奨励金)に応募して、
     ちょうどあのシーンの脚本を書いているときに、
     そのグラントに通らなくて、
     コミッティ(委員会)の人たちに
     「どうして受からなかったのか」を
     「あなたの将来のために」と説明されたんです。
     それってちょっとイヤな経験だったんです。
     でもそういうプロセスがあって、
     映画の中でそれをどう映すか…なんだけど、
     うまく映されていたような気がしますね。


──── そういう経験を経て、
     カンヌでの受賞はやっぱりうれしかったですか。


ミランダ それまで自分の中にファンタジーは描いていて、
     どこかで賞をもらって壇上に上がって
     スピーチする言葉を考えていたりも
     したのですが、でも、まさか、
     カンヌで壇上に上がることまで考えてなくて。
     なにもかもが、あっという間に通り過ぎていく
     感じなんですね。
     カンヌに行ったときも、自分がなにか、
     アニメの中に入っていくような感覚がして。
     でも最終的には楽しんでいました。


──── 短編制作者で、いま長編制作にチャレンジして
     いるクリエイターに、エールをお願いします。


ミランダ わりとつらいことも多いと思うけど、
     つらい状況を長くやるのって、ツライと思う。
     長編を作りたいなと密かに思っている時でも、
     大事なことは、
     自分が毎日、満足していくことですね。

     私が短編でやり続けてきたのは、
     「自分の“観客”を作っていくこと」です。
     その体験の中で、支えてくれた人たちが、
     必ずついて来てくれているんですね。
     だから、自分の作品が受け入れられないときも、
     そこで辛さを感じなくてよかったんです。
     グラスルーツ的に“観客”を作っていくことが
     大切だと思いますね。


ミランダさんの言葉の中に、
繊細さと不思議なおもしろさが潜んでますね。
日本語にすると、ニュアンスがずれてしまうことも
あるので、うまく伝わるか心配ですが、
彼女のオリジナリティ溢れるメッセージを
キャッチしてもらえたらうれしいです。
毎日を、もっと肩の力を抜いて、
おもしろがって行こうと
ミランダさんに会って思いました。

ミランダ・ジュライさんの楽しい作品や情報は、
ここにあります。ぜひ見てみてくださいね。
http://www.mirandajuly.com

それとぜひ、『君とボクの虹色の世界』の
ミランダワールドを楽しんでください。
http://www.kimiboku.jp/

そして、ミランダとボーイフレンドのマイクは、
このあと箱根旅行に出かけました。


Special thanks to Miranda July,
Happinet Pictures and Lem.
All rights reserved.
Written by(福嶋真砂代)

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2006-04-05-WED

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