OL
ご近所のOLさんは、
先端に腰掛けていた。

vol.111
- Touch the Sound--



音を視る、触る。
---- 『Touch the Sound』



『Touch the Sound』ユーロスペース他でロードショー中

音とリズムは私たちの環境、気分、
そして生活の質に絶大な影響をおよぼしている。
聴くことは、見ること、
食べることと同様、大切なことと思う。
食事をするように、この映画を楽しんでください。

(by トーマス・リーデルシェイマー監督:プレスより)

まずTouch the Soundのサイトに行って、
“ボン、ボン”という音を聴いて下さい。
かわいいです(笑)。
あ、それだけじゃないんですが、
そこには予告編もあるので、観てください。

…というのは、この映画は、言葉よりも、
「観て、聴いて、感じる」ことが大事な音楽映画だから。
でもちょっと異質なのは、
“音を視る”あるいは“音を触る”映画だということ。

音は視ることができるのか、触ることができるのか。
理屈で考えていても、わかりません。

そこで、
エヴリン・グレニー(Evelyn Glennie)という
スコットランド生まれの天才的パーカッショニストが、
この「音を視る、触る旅」のガイドをしてくれます。
私たちは、ただ導かれるままに、身を委ねて、
心をラク〜にオープンにしているだけです。
眠ってしまってもかまいません(笑)。

ちょっと脱線しますが、
『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』という
青山真治監督の音楽的映画を観たときに、
「レミング病」という自殺したくなる伝染病を治す
爆音音楽の音療法に頭を掃除されましたが、
エヴリンには、その真逆な形で、
「音で人を癒す」(という意味では同じ方向性かも)、
いわゆる“音セラピー”で心身を解きほぐされました。
なんだか、自分の中に「第6の感覚」が開いて行く
ような感覚に驚いていました。

とにかく、
「こんな感触、味わったことない〜!!!」
みたいな不思議で気持ちよい感触です。

エヴリン・グレニーは、
8歳のときに聴覚に異常を覚え、
12歳のときにはほとんど聴覚を失いました。
でも、音楽が大好きだったので、
王立音楽学院でクラシック音楽を学びました。
その後、パーカッショニストとして、
ベルリンフィルなどのオーケストラや
多くのミュージシャンと共演しています。
“好き”ということが、いかに大きな
エネルギーであるかに感動します。

エヴリンと会ってお話しましたが、
まったく障害があるなんて感じられません。
それくらい「聴く」ということの、
本質は、じつは私たちが思っていることとは、
違うんだなと、感じたのでした。
また、健常者にはわかり得ない障害者側の感覚が
エヴリンだからこそ深くわかることがある。
そういう立場で、障害を持つ(持たなくても)
子どもへの教育活動も盛んに行っています。

エヴリンの言葉は、まるで現代人を癒す
“ヒーラー”のように、波立つ心を鎮め、
いままで感じることのなかった“振動”に
気づかせてくれる“波動”を発するようです。

来日したときには、赤坂日枝神社で、
ご祈祷と演奏の奉納という日本体験をしました。
まずはその感想から、エヴリンに聞いてみました。

□エヴリンの声を“視る”“触る”


タップダンサー熊谷和徳さんとのセッション

──    赤坂日枝神社での祈祷と演奏のとき、
     なにかスピリチュアルな感覚とか
     あったのでしょうか。


エヴリン いままでに無い環境だったから、
     正直言って、スピリチュアルというより、
     「わ〜変った環境にいるな〜」と
     ドキドキしてエキサイティングでしたね。





鼓童の和太鼓や、沼澤尚さんのドラムとか、
そういう太鼓の音がとりわけ好きな私ですが、
エヴリンのドラムも、映画でも、生で聴いても、
魂にまで響いてくるような音です。

──   エヴリンさんの太鼓への特別な想いを
     聴かせてください。


エヴリン ドラムはユニバーサルであり、
     誰でも、どんな環境でも、たたくことが
     できるものです。
     ドラムの勉強をずっとしている人もいれば、
     ストリートでパフォーマンスに使う人もいます。
     そういう意味で汎用性があるものです。

     セラピーにもよく使われていて、
     アルツハイマーとかパーキンソン病とか、
     また行動に制限があるような人たちの、
     治療のためにも使われています。
     オフィスでも仕事の合間に、グループで
     ドラムをたたくことによって、ストレスを
     リリースしながらクリエイティビティを生む、
     また、同僚のことを知り合う、という形で
     使われていて、そういうリサーチもよく
     行われているんです。

     2、3歳の幼児にドラムをやらせると、
     身体もまだ柔らかいし、
     観念でガチガチになっていないから、
     すごく自由にドラムをたたきます。
     私たち大人は、どんどん、
     いわゆる、自意識も過剰になるし、
     行動も制限されがちですが、
     それを開放するためにも、
     ドラムはとても役に立つものです。


   

──   映画の中で、障害を持つ女の子の手を取って、
   
  太鼓をたたかせているところが、とても、
   
  感動的でした。

エヴリン レベッカのことね。
     私が以前通っていた学校へ、
     ワークショップのために行った時のことです。
     たまたま聴覚に障害のあるレベッカに、
     あの時初めて会いました。だから事前に、
     彼女の情報があったわけでもありません。
     レベッカとしても、私としても、初めて同士で、
     どうやってコミュニケーションしようかって
     ことだったんですが、そこで気がついたのは、
     彼女自身が「自分は聴こえない」という
     ある意味、“箱の中”に自分を閉じ込めて、
     それは世間も、彼女も、ですが、
     「私は(ワークショップに)参加できない」
     というふうに思い込んでいたことです。
     それで、まず彼女をその箱からひっぱり出して、
     そのあと、そんな箱は無いのだ、という
     儀式をするために、「箱を燃やす」作業が
     必要でした。その第1段階が、あの映画に
     出ていることです。

     「あなたは参加できる、できないものなど
      無いのよ」ということを知らせてあげる。
     補聴器を付けていても、付けなくても大丈夫。
     どちらにしても、「みんなと同じ環境にいる」
     ということに気づいてもらう。
     そして、彼女はそれに気づいたのです。
     10分前までの自分の世界よりも、
     より広い世界にいるということを、
     彼女が気づいたんです。


──   日本の騒音に溢れている街の映像がありました。
  
   私もいつも騒音が気になっているのですが、
  
   映像は、どんなことを表しているのでしょう。

エヴリン 私は、オーケストラみたいで
     おもしろいと思いました。
     都市の音と、お寺の静寂のコントラストを
     描いているとも言えます。
     都市は、好き嫌いに関わらず、溢れる音に
     対処して生活しなくてはいけません。
     お寺では静寂がありますが、そこにいると、
     自分の雑念が湧いたり、心臓の音が聴こえる
     ものです。
     ほんとうの静けさが訪れるのは、もしかしたら、
     心臓の音が止まるときなのだと
     監督は言いたかったのかもしれません。


──   エヴリンさんの音に関する夢はなんでしょう?

エヴリン ホテルや病院の待合室のような場所でも、
     音のある環境、
     つまり「サウンド・スケープ・ルーム」
     あるいは「サウンド・スケープ・ガーデン」
     のような音のヒーリングができるような場所を
     作りたいですね。
     音はみんなを癒す力があるので、
     特殊な場所ではなくて、日常の中に、
     そういう場所があるといいと思います。


エヴリンは、港区立青山小学校の4年生のクラスで、
「音のワークショップ」をやりました。



港区立青南小学校でのワークショップ



生徒の楽しい手作り楽器

「耳だけで音を聴いて、身体の他を閉じていると、
 音の聴こえ方は狭くなるけど、
 身体を開いて音を聴くと、音が違って聴こえる」
ということの感覚を、
大太鼓や、マリンバや、
生徒たちが作ったユニークな手作り楽器を使って、
生徒たちに身体全体で音を感じてもらうという、
おもしろいワークショップでした。
普段の音楽の授業とは一風変わった
ちょっと不思議体験でしたが、
生徒のみなさんはすごく楽しんでいました。

毎日、耳にはイヤホンをつっこみ、
忙しく走り回り、耳を澄ますこともなく、
自然の音を聴くヒマもなく生きてると、
ちょっともったいないな、
もっと日常のささやかな音を、ちゃんと
細胞レベルで感じてみたい…と思います。

次回は、『君とボクの虹色の世界』の
監督で主演女優の、チャーミングな
ミランダ・ジュライさん登場です!
お楽しみに。

**『Touch the Sound』で
エヴリン・グレニーさんと競演している、
フレッド・フリスとTHISの
ドキュメンタリー作品を特集上映します。
詳しくはこちらで。


Special thanks to Evelyn Glennie
and Sony Communication Network.
Written by(福嶋真砂代)

ご近所のOL・まーしゃさんへの激励や感想などは、
メールの表題に「まーしゃさんへ」と書いて
postman@1101.comに送ってください。

2006-03-15-WED

BACK
戻る