OL
ご近所のOLさんは、
先端に腰掛けていた。

vol.64
- semantic transcoding 5 -


ブロードバンドは必要なの?

2001年流行語大賞(トップテン)に輝いた
「ブロードバンド」。
今やコンピュータ関連雑誌どころか
女性ファッション誌にも
「おしゃれなブロードバンド生活!」とか
「あなたのブロードバンドな一週間!」とか。
科学と文化の融合的タイトルがたわわに実って
おいしそうな匂いがしてきそう…。
だけど、なんだかナイフとフォークが
メインディッシュになっちゃったみたい。
「これがごちそう?」って感じです。

ブロードバンド(高速大容量の回線)は、
より速く沢山の情報にアクセスでき、
しかも低料金で常時接続もうれしい。
そんな謳い文句でさっそうと登場。
近い将来には、今のブロードバンドより
1000倍速い接続も可能になると言われてる。

とは言え、ブロードバンドは
インフラストラクチャなわけで。
つまり設備、というか道路というか、
ナイフとフォークなんだから。
私たちユーザとしては、ほんとうの
メインディッシュ(コンテンツ)について
もっと語りたいですよねぇ。

ではここで、少し視線を遠くに投げて、
ブロードバンドがメディアを変え
生活も変化して行くという延長線上に
一体何が来るのか?
なんてことを考えてみましょう。

つまり未来はどうなるのか?
そこんところが見えたほうが、
高速大容量なネットワーキングがなぜ必要かが
見えてくると思うんです。

今後、生活+教育+仕事+医療+文化+政治…etc.
ネットワークによってITが
あらゆる場面で活用されていく、
そのほんのファーストステップが
このブロードバンドと言えるでしょう。

マルチメディア、つまり映像や音声などが
簡単にネットワークで扱えるようになれば
在宅勤務がかなり普通になる生活が訪れる。
オフィスと同じコンピューティング環境が
リモートでリアルに展開されるはずなので。

それから、世界の博物館や図書館の
膨大な資料も閲覧がしやすく、
バーチャル・リアリティ技術で
その場に行かなくても
臨場感のある体験ができるようになる。
それは「電子図書館プロジェクト」と言って、
世界規模のIT研究によって、かなり
進められています。こうなると、
すぐに教育がガラリと変わるだろうね。

世界では(特にアメリカでは)、
今のブロードバンドよりもっと凄い
「大規模ネットワーク」(Large Scale Network)の上で、
何をやろうかという大規模な実験が
着々と進められているという事実。

たとえば、遠隔医療、地球シミュレータや
さっき話した電子図書館とかの
ハイエンド・コンピューティングの
アプリケーションプロジェクトの数々。

それに伴うインフラ、インターフェースや
セキュリティ技術の開発。
それからネットワーク化によって
マニュファクチャリング(製造業)が
今までのやり方とはすっかり変わってしまう
というシステム作り、とか。

これらの、まさにセンタンな研究については
『ブルーブック2002』という最新報告書を
センタンサイトでちょうど翻訳したばかり!!
なので(序文だけでも)一度読んでみてください。

誰もが発信者になる危険性を考える。

そこで、マルチメディア!!!
映像、音声とかのマルチメディアデータが
ネットワークで誰もが簡単に流すことが
できるというこの時代には、
言うまでもないけど、かならず
「影の部分」である危険性というものが
あるということを認識しましょう。
というのが今回の長尾さんとの話のテーマです。

どういう危険性があるのか?
★一つはローカルとグローバルの融合による問題。
★もう一つは、プライバシーの問題。

では、どうやって対応したらいいのか?

お待たせしました。
ここで アノテーションとトランスコーディング
ユーザの大きな味方となって、
活躍してくれるのを期待しちゃうわけです。

普及するには、まだまだ法的な問題とか、
乗り越えなければならないハードルは多いけれど、
それでも、危険すぎる世界になる前に、
「情報の発信者に責任を持たせる」
そういうシクミを作りたい。
それが、この技術のコアなコンセプトです。

インタビューに進む前に、
アノテーションとトランスコーディングの
ことをささっとおさらいしましょう。
次の2つを押さえておいて下さいね。

  1. アノテーションによって、
    Web上の様々な形のコンテンツに意味を付加し、
    機能アップをしやすくする。
  2. アノテーションされたコンテンツは
    トランスコーディングによって、
    翻訳、要約、音声化など、自分用の
    カスタマイズが、Web上でできるようになる。
では「誰もが発信者になる危険性」の話を
聞いてみてください。

ローカルとグローバルの境。
ナガオ 僕が心配しているのは、
今さかんに宣伝されているような
自分から映像をみんなに発信する
パーソナルブロードキャスティングね。
マーシャ はい。
ナガオ あれが、どうも僕には胡散臭いというか
危険なものをはらんでいるような気がして
ならない。
マーシャ おおお。
ナガオ それは、やっぱり有名になりたいがために
他人のプライバシーをあばいたり
盗撮したり。
マーシャ 何でも流せるってことですよね。
ナガオ あれをやりだす人が出てくると
ひじょうに良くない世界になっちゃう。
マーシャ うむむ…。
ナガオ あれ、やっぱりマズイでしょう。
ひじょうにローカルな話題なのに
それがグローバルに発信されるということに
対して、また問題を感じるし、
それがまたノイズになるし。

そのローカルに関係ない人にとっても
「なんだろう?」と思って
その情報を見ちゃうし。
それを区別できないし。

インターネットの世界は
ロケーション・トランスペアレント
つまり、位置透過性っていう
言葉があって、
それは、物理的な位置に依存しないで
情報を発信したり、受信できるってことなんですよ。

今までは情報っていうのは
場所にある程度依存してたんですよ。
例えば、掲示板を作るとか、貼り紙をするとか。
人に口コミで流すにしても、
地域性があったんですね。

それがインターネットの世界で
場所という概念が無くなってしまって。
で、京都の情報をアメリカで出したって
いいし、っていう話で。

ま、それはいいことなんですけど。
うん。それはいいこと…なんだけど。

それがまた逆にワザワイしてしまうことが
あるわけですね。

ひじょうにローカルな話題なのに
全然関係ない人も見てしまうとか。

マーシャ 興味ある人にとっては
いいかもしれないけどね。
ナガオ でも、危険性はありますよね。
危険性って言っていいのかどうか、
わかんないけど…。

マーシャ まあ、それがインターネットのメリット
でもあるわけですよね。
ナガオ そうなんですけど。
ローカルっていうことで、
ほんとは閉じていることによって、
暗黙的に情報がフィルターされてたって
ことが、無くなっちゃうわけですよね。
マルチメディアのアノテーション。
ナガオ なんやかんや言って結構、危険なんですよ。
それがしかも、映像を含めてとなると…。
文章にするのは、ある程度、
作者の創作とか、ある意味で…。
マーシャ 意図が反映されますね。
ナガオ 何らかの形でね。
情報を整理するっていうフェーズが
1回入るから、いいんだけど。
ナマの映像をそのまま流すように
なると、これはマズイ!
ナマの映像を流すことぐらい
簡単なことはないから。
マーシャ 映画とか、番組じゃないですからね。
ナガオ つまり、編集されたものじゃないし。
意図がない。単にナマ。
女子寮盗撮ってよくあるじゃないですか。
マーシャ オオオ!ありますねぇ。
ナガオ プライバシーね。
そういう危険性を絶対企業は言わないじゃない
ですか。
マーシャ 言わない、言わない。
言ったら売れないもの。
ナガオ だから、そういう企業のやってることは
つまるところ、都合のよいことは強調して
悪いことはとにかく
隠蔽するということなんだって
僕は思ってるから。
マーシャ 影の部分ですね、インターネットの。
ナガオ そういう危険性を、やはり
ある程度は、なんとか軽減したい。
それがまさに
マルチメディアのアノテーション
の話なんです。

アノテーションによって、
マルチメディアであろうが、何であろうが
きちんとそれに意味を持たせることができるし
責任の所在をあきらかにすることができる。

アノテーションはですね。
つまるところ、コンテンツに責任を
もたせるようなシクミなんです。


意味的に曖昧であれば…。
どこに責任があるのか。
もし責任を感じるなら、曖昧さを無くせと。

それはコンテンツを変えることではなくて
アノテーションを加えることによって
対処できる。


だから流してしまって
とりかえしがつかなくなった
コンテンツがあるとしても
後からそれに対するアノテーションが
ちゃんとついて、それを加味して考えると
曖昧さがなくなる。
誤解がなくなる。
責任の所在が明らかになる。
それでいいんです。
マーシャ それでフィルタをかけていくってことですか?
ナガオ そうです!
それによってフィルタかけることもできるし
それによって自分用に
カスタマイズすることもできる。
そういう意味で、いいシクミなわけです。
情報の発信者にとっては、
責任の所在を明らかにするという、
社会的なコミットメントみたいな
そういうものを明らかにする手段。
情報の受け取り手にとっては
本当に関係のある情報は何かということを
取捨選択したり、コントロールしたり
できるしくみなんです。
(つづく。)
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ブロードバンドは単純にうれしいとは思うけど
心配なことが増えることも
ちゃんと分かっておかないと、
何の気なしに流した大事な家族の映像が
加工されて映画で流れてたとか(それは凄いけど)
知らないウチにとんでもないことに
なりかねないのですね。
マルチメディアは、
文字の影響力よりは大きいことは確かなのだし。

技術が進歩することで、
いいことももちろん沢山あるけど、
考えるべき問題も、それ以上にあるよ!と
隠さずに社会に知らせることも、
研究者や企業の使命と言える。
これからも警告には耳を傾けようと思います。

でもたまには、
森や海に行ってぼーっとしようっと。
けっこう私たち、このごろ
テクノストレス溜ってると思いません?

さて次回は、トランスコーディング最終回。
「教育をなんとかしなくちゃ。」
と言う感じでお送りします。
なんとか年内に(笑)。

Merry Christmas!!!

marsha

2001-12-25-TUE

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