OL
ご近所のOLさんは、
先端に腰掛けていた。

vol.45
- computing & music -


伝えるために

3月8日に行われた
「NTTコンピュータ音楽シンポジウム+コンサート」
見てきましたー。

おもしろかったです。
時空を超える感覚ってこんなんかなぁと
ついトランス状態になりかけた…瞬間。
vol.44で登場した音職人の小坂さん作曲の
尺八とコンピュータのための「射干玉」(ぬばたま)を
聴いていたときのことなんです。
古典楽器の尺八の超アコースティックで
背筋がぴーんと伸びるような鋭い響きと
コンピュータで創造された超先端の未来を感じさせる音が
凄い融合をして、脳にピピピと働きかけ、
さらに睡眠不足もうまーく手伝って(笑)、
私の身体の中の神経回路を駆け巡り、
もの凄いスピードで、いにしえと現在と未来を
タイムトリップしているような、そんな感触です。
いやぁ、びっくりしました。


(尺八とコンピュータのための「射干玉」演奏)

そもそも、人間はなぜ音楽を作るんだろう?
そのときにムクムクと湧きあがってきたんです。
アフリカのいろんな民族の暮らしを思い浮かべると
こんな想像が…。

それはそれはプリミチブな時代。
葉っぱのファッションが超センタンで、
「あっらー、今日の葉っぱ、色とか最高っすねー!
どこで見つけたんっすか?」とか、
「その石、マジおっしゃれ!あたしも欲しい〜。」
人間という動物が、それぞれの素朴な欲求に
とてもとても素直に生きていて
自然の中で素敵に遊んでいた時代。
人間は、聴覚や視覚やすべての感覚、
もちろん、第6感みたいないわゆる超能力も
冴えまくってた動物だったころには、
言ってみれば今なんかよりもっと
精神的な意味で、
豊かでセンタンな生活をしていたんじゃないか
と想像してみたりします。

そんなかっこいい時代。
「音楽」らしきものが生まれたとします。
まずそのモチベーションとは、
「人にものを伝えたいという想い」
に他ならない。

何かの重大な情報をゲットした人がいて、
それを遠くにいる仲間に伝えなくちゃと思う。

何日もありつけなかった食料(動物)を
とうとう見つけたぞぉ!とか、
大変だ!竜巻の危険が迫っているっ!とか。
死活問題な大変なことをなんとか仲間に
伝えなくちゃと。

とるものもとりあえず
何かで音を出そうと、近くにあるものを叩く!
木をタタク。石をタタク。皮をタタク。
なんでもタタク。
メロディじゃなくて音を出すことが先決で。
遠くに響く音、
お腹にずしりと響く音を創りこむ。

音は澄み渡る空気を伝い
鳥のさえずりや木の葉のささやきすらも
聞こえる静寂をくぐりぬけ、あっという間に
何キロも離れた仲間の耳に届く。

音楽の誕生は、
それはそれは大切なメディアの誕生
だろうと想像できる。

そして伝える情報の種類によって
いろんな音を組み合わせてパターンを作ったり
リズムを変えたり、工夫を重ねてどんどん不思議な
音色になって行く。
「ごはんができたよ!」は
明るくておいしそうな音とか、
「散歩に行こう!」は
弾んだうれしくなる音だったり
バラエティ豊かなリズムが生まれ、
メロディも付いてくる。
きまりもできてくる。

好きとか嫌いとか
苦しいとか、うれしいとか
だんだん感情表現もできるような
高度なメディアに進化していく。
そして自由自在に音を操れるようになる。
音を楽しむことの感動が生まれる。

毎日、危険と隣合わせの野生の時代から、
文化的生活へと、音楽は受け継がれて
磨きあげられ、芸術へと格上げされる。

こういう変遷を辿ったとすると、
音楽のユーザは、昔は同時にコンポーザでもあり
音楽は、特別な「音」を司る人のものだった。
(多分宗教的な意味も含めて)
そこから一般大衆へ広まり、
万人が音楽に親しむ時代が来る。

そしてさらに芸術に進化することによって、
また特別なアーティストと呼ばれる人のものとなり、
「音楽の創造」については、
残念ながら大衆の手から離れていくことになる。

…と想像してみたりなんかして
今回のシンポジウムを聞いていました。

現在はもちろん、音楽を聴くことにかけては
技術としてとても簡単便利な時代ですよね。
でも、いざ「創る」ことになると
専門の職業とする人や研究する人の手に
委ねられている。
だけど実は、音楽のほんとうの楽しみが
まだまだいっぱい可能性として
残されているのではないか…
と思うわけです。

そんなとき、コンピュータを使わない手はない!!!
ね!「コンピュータ音楽」の意義が
わかってくるような気がします。

「音楽はコミュニケーションメディアである。」

「その大切なメディアをもう一度身近にしよう。」

この2つを掲げて、
国境や言語を超えることができる
音楽のコミュニケーション力の素晴らしさを
さらにパワーアップさせるために
コンピュータが力を発揮できるとしたら凄い!!

いつでもどこでも音楽をクリエイトしよう!


(PocketMusician+DoublePad/Bass+StepDrumsの
セッション風景)

シンポジウムの
ゲストスピーカの塚本昌彦氏は
「モバイル・マルチメディアが変える
インタラクティブ音楽新世紀宣言」を提唱!!!
様々な生活の場面に応じて使える
モバイル音楽機器を使って、音楽を楽しみ、
もっと人間のコミュニケーションを豊かにしよう!
という提案です。

例えば、満員電車の中、つらい授業の合間、
ドライブ中、お風呂の中、食事中、料理しながら
ジョギング中などに、新しい形で音楽を
取り入れられないか。
すでにやっているじゃない?と思うでしょ。
いやー、もっともっと先のことです。
「インタラクティブ」が大切なんです!

「ドライブ中、周りの風景やユーザの状況に
応じて曲調が変化し、より安全で快適な
ドライブを演出してくれるだろう。」
というようなちょっと先の発想です。
他にもいろいろ提案していらっしゃいます。
詳しくは塚本先生のページを見てください。

音楽知を追求する平田さんは
「ハービー君」の発表の最後に
「『音楽を聴くと感動するコンピュータ、
感動する音楽を創作するコンピュータ』という
禁断の研究テーマの封印を解いてみようか
という気持ちになっている」と
話していました。
今ITというものが社会を変え、意識を変え、
生活様式が新しい次元に入っていくのに呼応して
この「コンピュータ音楽」という研究も
新しいレベルへ移行しているんだ
という平田さんの感慨と決意が
読み取れる気がしますねー。

榊原さんの喉歌の研究で
ほおーと思ったのは、
モンゴルのフーミー(ホーミー)の
発声のメカニズムの解明。
声のトレーニングを続けている私としては、
とても興味があります。
発声時の声帯の動きを、
ファイバースコープを使って撮影した
高速度ディジタル映像で見たのですが
不思議な動きでした。
訓練であんな動きができるなんて
神業です!

その榊原さん作の「声の力」のパフォーマンスをした
東京スカパラダイスオーケストラのテラシィイさん。
あっと驚くような不思議な空間を作りあげ、
なんともいえない空気感に包まれて、
つい気持ちよく、うとうと…。

引地さんの笙の研究には、難解な数式が現れ、
一瞬、頭も凍りそうな難しさに襲われましたけど、
引地さんの吹く笙の雅びな音色に
一転して、心洗われました。よかった。
もっともっと聴いていたいような、いい音でした。

それから、小坂さんの音合成システム
「おっきんしゃい」。
その創り出す音のバリエーションと発想に
音の可能性が果てしなく広がります。
さらに未知の音創りのチャレンジを続けて
私たちの未来の生活に多彩な音を提供してくれる日も
すぐ近くに…。

あれ?自分の発表が終ってほっとしたのか
平田さんがサエキさんと控え室で繰り広げたトークは
なぜかトイレの話。これと音楽の接点は何?

ま、これはちょっと別の機会に。


(発表後の控え室で爆笑トーク中の
平田さんと、かけつけくれたサエキけんぞうさん)

21世紀の「コンピュータ音楽」の展開に
期待をしていますよー。


「コンピュータ音楽」を知るための本。
小坂さんと平田さんも翻訳に参加した
『コンピュータ音楽 - 歴史、テクノロジー、アート』
(Curtis Roads著、東京電機大学出版、12,800円)
早速の方はこちらへ。
このサイトの「書評」をぜひ読んでみてくださいね!

marsha

2001-03-21-WED

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