あの人の、
『MOTHER』の気持ち。
〜大山功一さんの巻〜
『どせいさんのほん。』という個性的な本が出ました。
真空パックに包まれたどせいさんのぬいぐるみが
同梱されているユニークな本ですが、
もうひとつの売りは16ページの小冊子。
こちらには、『MOTHER2』の
アートディレクターである大山功一さんの
開発当時のイメージイラストがたっぷり収録されています。
本の発売を記念して大山功一さんにお話をうかがいました。
9年前の『MOTHER2』を振り返っていただきます。




「自分にとっては大きな仕事でしたね。」

大山功一(おおやま・こういち)
1960年生まれ。神奈川県出身。
火星工房代表。『MOTHER2』の
アートディレクターをつとめ、
その後はカードゲームの
ゲームデザイナーとして
『ポケモンカード』や『ばかぶーん。』の
企画、制作に関わる。現在、世の中に
一石を投じるという
画期的なゲームを考案中とか。

『MOTHER2』のアートワークを
褒められるのって、じつは、
ぼくにとって、まだよくわからないんです。
ふつうのゲームとは違うなっていう
気持ちはありますよ。でも、やっぱりその、
ほんとの意味でのプロレベルじゃないと思うんですよ。
ある意味で、アマチュアリズムで
やってるというか、ムチャをしてるというか。
まあ、正面からやっても、
ほんとにプロの方たちにはかなわないので、
自分の色で勝負するしかないなっていうのは
あったんですけど、
そこが『MOTHER2』の異質感に
なっているのかもしれませんね。

一作目の『MOTHER』(以下『1』)の存在は
ぼくにとってすごく大きかったですね。
『1』は、どこまでもお手本でした。
だから、僕は正直、『MOTHER2』の
グラフィックは『1』にかなっていないと思うんです。
単純に『1』のセンスと『2』のセンスを比べたとき、
『1』のほうがセンスいいと思うんですね。
もちろん、スタッフもぜんぜん違うし、
そこは割り切って自分の味を出そうとしてたんですが、
あの、『1』のデザイン的な感じというのは
カッコイイなあとずっと思ってました。


『MOTHER2』の絵には、
生活感というか、リアリティーがあまりないんです。
たとえば、こういう環境にはこういう植物は育たない、
とかいう部分がけっこうあるんです。
そういうのにこだわるイラストレーターさんだと、
きちんと調べて描かれたりするんですけど、
ぼくはあんまり気にしないたちなんですよね(笑)。
で、最近プレイし直してみて感じたのは、道路。
じつはぼく、最近運転免許を取ったんですよ。
だから、当時はクルマや道のことについて
あんまりリアリティーがなかったんです。
それで『MOTHER2』をプレイしてみたら、
「ええっ、信号機の位置はこれでいいのか?!」
っていう感じで(笑)。左側通行とか右側通行とか、
考えていないんですよね。現実感がないんです。
だから、何か植物を描くというときも、
環境から植物の種類を調べて描くんじゃなくて、
自分の頭のなかの植物の引き出しから出して
「こんな感じかな」って描く。
まあ、ある程度常識的に考えて、
あまりにもそぐわないものは描かないんですけど、
それ以上のことは案外あやふやなんですよね。



キャラクターは好き勝手に描いてましたね。
ぼくのほうで『1』のキャラクターを参考に
「このキャラクターは『2』でも出るだろう」と判断して
先にアレンジ版を描いちゃったというのもあるし。
ぼくが先に描いておいたものを見て、
ゲームデザイナーの人が「あそこでこれ出そう」
っていうふうに配置していったものも多いし。
重要な場面では、糸井さんから
「こういうキャラクターを」っていう
要求がありましたけど、
それ以外は自由に描いてましたね。
糸井さんからの発注は、
先に名前を言われることが多かったですね。
それを聞いて僕がイメージして描く感じで。
場合によっては、糸井さんがラフ画を
描いていることもありましたし。
だから、キャラクターを描くのは楽でした。
問題は、街のほうでしたね。

街はやっぱり容量の都合があるから、
素材を流用しなければならないんですよ。
あんまり専門的な話をしてもなんですけど、
8×8ドットの絵をひとつの単位として、
それを組み合わせていろいろ描くわけです。
いかにそれをうまく組み合わせて、
いろんなところに同じ素材を使いながら
違うものをつくるかというのがものすごい苦労で。
要するに最大公約数のような素材を用意して、
それを組み合わせて最大限の効果を
出すようにしなくてはならない。
そうするとどうしても
マークのようになってしまうんですね。
で、『1』の世界はマーク化できるんですけど、
『2』は、『1』よりも具体的な絵になっているので
マーク化しきれない部分があるんです。
だからほんとうに、ずうっとパズルをやってるみたいで。
苦労した例でいうと、『2』は看板が多くて
いろいろアルファベットを使ったんですけど、
全部のアルファベットは使ってないんです。
たとえばホテルは「HOTEL」、
病院は「HOSPITAL」ですから、
重なるところは共有させて、
どうしても足りないところだけをつくるんです。
だから、いまそれを見ると、
「看板のフォント(書体)が同じじゃないか」って
思われるかもしれないですけど、
容量がないからしかたなかったんですよね(笑)。
そんなふうにして、極力同じ素材を使いながら
市庁舎も描かなきゃいけないし、
ゲームセンターもつくらなきゃいけないし、
木も、柵も、崖も描かなきゃいけない。
ふつうのゲームだと、街に入ったとたんに
画面が切り替わるから、それを利用して
素材を変えるっていう方法があるんですけど、
『MOTHER』は世界が広範囲に地続きですから
それもあまりできないわけなんですよ。
だから、ほんとに至難の業でしたね。
もう限界だな、ってとこまでやりましたね。
でも、そういうのって目に見えない部分だから
あんまり褒められたりしないところなんです。
そんななか、複雑なパズルをやりながら
ある程度のクオリティーを出したっていうのが
自分の誇りではありますけど。



苦労した場所っていうと、やっぱりオネットですね。
オネットは、もう、最大の苦労ですね。
最初につくったものですから、
どうしても大きくなってしまって……。
気に入ってるところですか?
やっぱり、でも、オネットですよね(笑)。
オネットは、すべてを結集したんで、
やっぱりオネットが、いちばん気に入ってますね。

あと、僕個人としては、
いちばん自分の世界が出せたのはマジカントなんです。
さっきの話と同じになりますけど、
『1』のマジカントにはかなっていないと思います。
なんていうか、『1』のマジカントにはすごく
メジャーな感じがあって、
ある意味、スピルバーグの映画のように、
一般的でありながら、想像力をかき立てる、
不思議な世界としての王道をいってると思うんです。
それにくらべると『2』のマジカントは
すごく自分のわがままを通した感じがあります。
でも、自分はほんとうは
こういう世界を描きたかったんだということを
実感した場所でもありましたね。
やっぱり、自分が生活感に乏しい人間ですから、
街を描くときは、生活感を出すために
すごく苦労したんですよ。
マジカントは生活感がなくていい場所だったから、
自分の色を自由に出せたのかもしれませんね。


『MOTHER1+2』が出て、
はじめてその世界に触れる人も多い思いますけど、
物語としては、糸井さんの目指した、
人間についての話とか、親子の愛とか、
普遍的なものがありますから、
いつの時代も楽しめるんじゃないかと思います。
ほんというと、絵としては、個人的には、
『1』のマークの時代に戻りたいと思いますね。
そのほうが、糸井さんの言葉が
もっと響くんじゃないかってぼくは思うんですよ。
絵が具体的になればなるほど、
言葉っていうのが限定されてしまう気がして。

糸井さんをはじめとして、
制作に関わったみなさんの声を聞いていると、
9年経って、客観的になられているようですけど、
でもねー、ぼくは、まだ『MOTHER2』は
そういうふうには見られないんです(笑)。
決着がついてないんでしょうね、自分のなかで。
劣等感が大きいのかもしれません。
当時、リアルな路線にもいけなくて、
かといってポップな路線でも
『マリオ』や『ヨッシー』にはかなわない、
みたいな気持ちがずうっとあって。
だからこそ、自分流で行くしかなかったんですけど、
そこのなかで、自分の自信のなさっていうのが
やっぱりすごくありましたから。

今回、ユーザーのみなさんからの
メールを読ませていただいて、
ずいぶん報われた感じがします。
当時はメールもインターネットもなくて、
反響というのがすごくつかめなかったですから。
あれだけ多くの人が覚えているというのは、
たぶん、不思議なゲームなんでしょうね。
みんなが情熱でつくったともいえますし。
その裏側で、たとえばぼくがいろいろ感じてたとしても、
それもゲームの力になったのかもしれませんね。
あと、いま思うのは、ムチャしてるゲームですよね(笑)。
こんなにムチャしなくてもいいのに、っていうことが
随所にありますから。それは、絵だけじゃなくて。
10年近く経って、これだけ評価されるとは
思いませんでしたけど、いろんな意味で、
自分にとっては大きな仕事でしたね。





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2003-07-22-TUE

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