ポケットに『MOTHER』。
〜『MOTHER1+2』プレイ日記〜

9月4日 悪意


以前にも書いたように
このゲームをつくった人は、
笑わせたり、感動させたりするのと同じように、
怖がらせたり、困らせたりするのも得意な人だ。
にくらしいほど素敵な演出も施すけれど、
どうしようもなくいやな気持ちを
受け手にもたらすこともできる人だ。

両極端な感情をもたらすとしても、
その装置の仕組みは根本的に同じだから、
笑ったぶんだけの怖さがありうるし、
感動した深さと同じくらいの不快が存在しうる。

ツーソンのぬすっと広場の真ん中に、
ずっとバナナだけを売っているおばあちゃんがいる。
あれを僕は、制作者のちょっとした悪意だととらえている。
お世辞にも役立つアイテムだとはいえない
バナナを売っているおばあちゃんは、
僕がバナナを買うと、お礼を二度言うのだ。
「ありがとよ、ありがとよ」と、
わざわざくり返して言うのだ。
そして、お礼のあとに、こんなふうにつけ加える。
「まだまだバナナはあるんじゃが……どうする?」
おかげでバナナを3本も買ってしまった。

おかしな新興宗教がはびこる山間の小さな村にも
たっぷりと悪意が込められていた。
おかげで僕はゲームボーイアドバンスSPの
電源を思わず切ってしまった。

このゲームには、
ポップやハッピーだけが満ちているわけではない。
ゲームはあちこちでこっそりと
ニヒルな一面をプレイヤーに見せるのだ。

終わりへ向かう僕らへのプレゼントは最高の悪意。
いったいそれにどう答えればいいのだ。
なんだって、そんないやな音をわざわざたてるのだ。
なんだって、そんないやな音を
わざわざ4回も僕に聴かせるのだ。

とうとう僕らはその場所を訪れる。
踏みしめると違った足音がする。
その場所を僕はすっかり忘れていたけれど、
見た瞬間に、9年前の気持ちがよみがえる。

圧倒的な灰色の風景。
寒々しい。彩度が低い。
生き物の気配がない。
地の底から響くような音楽は、
誰かが吠えているようにも思える。
声のような、音のようなものは、
こう叫んでいるように聞こえる。

──ギーグ!

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2003-09-05-FRI


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