── 『MOTHER3』の大きなテーマのひとつに
「家族」というのがあると思うんですが、
これは、『2』の開発終盤に思いついたという
プロットのなかにもともと入ってたんでしょうか。
糸井 いや、無意識です。
── あ、そうなんですか。
糸井 うん。無意識に。
終わってみれば、
こういう理由でこうしたっていう
説明はいくらでもできるんですけど、
必ずしもそれを選ぶ必要は
なかったかもしれない。
── それが入った理由は言えるけれども、
あえて入れたわけじゃない。
糸井 そういうことですね。
うーん、だから、これは、
クリエイティブっていうものについて
最近、よく思うことなんですけど、
なにかを生み出すときっていうのは
「仕入れた覚えのないものが出てくる」。
それがなにかを生むことだと思うんです。
こんなもん、入れた覚えないんだけどな、
って思いながら生んでるんですよ。
その意味でいうと、『MOTHER3』のなかに
家族や、親子や、兄弟の話っていうものを
意識的に入れた覚えはないんです。
── でも、結果的には色濃く入ってますよね。
糸井 そうですね。
ただ、なんだろう、家族といっても、
「血の物語」、つまり、
血のつながりのある家族の物語ね、血縁。
それじゃないんですよね。
── ああ、そうですね。
糸井 血のつながりの物語は、
いままでいろんな人が書いてきた。
『MOTHER3』の場合は、
家族の物語なのに、
そっちのつながりだけじゃない
っていうところに、なにかこう、
未来に触ってる感じがありますね。
── 『MOTHER』も
『MOTHER2』もそうですが、
いわゆる一家団欒の家族ではないわけですね。
けれども、家族の絆はある。
そういうかたちが入ってしまっているのも
やっぱり、無意識に?
糸井 もう、まったく無意識ですね。
だから、家族っていう制度を
太古からある天然のものだっていうふうに
誤解させるためのしくみっていうか、
イデオロギーみたいなものが
いわゆる血のつながりの物語だと思うんです。
長いあいだに、人はそれに
すっかり浸っているわけですよね。
でも、大昔はそうじゃなかったかもしれない。
そんなことになったらいやだ、
って思う人がいくらいても、
共同で子どもを育てるような時代が
来る可能性だってないこともない。
実際、いま、家族制度って
壊れかけてますからね。
それがいいとか悪いとか、そういうことが
言いたいわけじゃないんですが。
── はい。
糸井 軽いところでいえば、
結婚と同棲はどう違うのか? って、
どんどん曖昧になってきてるでしょう。
お父さんもお母さんも
ふつうに働いてるような状況のなかで、
夕餉にちゃぶ台を囲むなんてことは
とっくになくなってる。
なくなったらなくなったで、
みんなが思い込んでる家族のかたちに
はまらないと思って悩んでたり、
なんであなたはまんないのよ!
って責めてたり、責められたり。
で、そういうときに、もう、
はみだしたものを責められないと思うんです。
はまってる人は、はまってるし、
はまってない人は、はまってない。
幸福のさがし方って、
そんなもんじゃないでしょう?
っていうようなものは、もうすでに、
『MOTHER』のなかにも
『MOTHER2』のなかにもありますから。
── そうですね。
糸井 ただ、『MOTHER3』の場合は、
その隠し味が、濃いかもしれない。
── 濃いですね。
糸井 うん。
あんまり物語の話はできないんですけど、
『MOTHER3』に出てくる
マジプシーっていう人たちも、
そういう「血のつながりじゃない家族」の
象徴のようなものですからね。
── ああ、なるほど。
糸井 あと、もうひとつ、
『MOTHER3』のなかに
仕入れた覚えのない「家族」が
濃く入ってしまった理由のひとつは、
チームでシナリオをつくったときの
メンバーのなかに、
子どもが生まれたばっかりのやつが
いたっていうことですよ。
── ああ。
糸井 その影響は大きかったですね。
ぼくにも子どもはいますけど、
いまは大きくなってるから、
距離があるんですよね。
だから、自分に子どもが
生まれたばっかりのときだったら
こんなセリフにはなんないな、
っていうのを平気で書けるんですよ。
ところが、そのメンバーには、
ようやく歩けるようになった子ども、
いわば、自分の内臓のような、
ちいさな子どもがいるわけです。
その気分はね、影響するんです。
ぼくが何気なく書いたようなセリフを読んで
そいつが「うわぁ」ってつらそうな反応をすると、
自分にもそのころの気分がよみがえってきて、
そんなつらいことを
オレは望んでるわけじゃないなって
思い直してみたりね。
── なるほど。
糸井 けっこうぼくは、人の心に
ちょっとこう、引っかき傷をつけて、
冗談のひとつでもつけ加えて、
「平気、平気!」みたいなことを
平気でやっちゃうような
ところがありますからね(笑)。
── (笑)
糸井 だから、すごく影響しましたね、それは。
そのきっかけは、
すごくよく覚えてるんですけど、
物語のなかの、ある墓守のセリフなんです。
墓守が、ほんの短くですけど、
父親について説明するセリフがある。
それをぼくは、何気なく、
ちょっと違うかもなって思いながらつくった。
もしも自分がその父親だったら、
そうはしないだろうなぁ、
って思いながらつくったんです。
そしたら、その、子どものいる彼に、
ものすごく響いちゃったんですね。
父親がそうしてしまう気持ちがわかる、
きっと自分もそうなってしまうだろう、って
そいつは言ったんです。
で、ぼくはちょっと驚いちゃって、
その、あわてちゃったんですね。
それで、ずっと考えるうちに、
「そっちの気持ちのほうが、いい」って思った。
これはね、ぼくにとって大転換だったんです。
そのトーンをベースにしてね、
後半の物語が転がりだしたんです。
どうしてもこいつは好きになれないんだよな、
っていうキャラクターひとりひとりを
ぜんぶ好きにさせたくなったりね。
ぽろっ、ぽろっと、
その気持ちがこぼれていくんですよ。
そういうつくりかた、
そういうおもしろさっていうのは
ひとりで小説を書いてるときには
ありえないだろうなって思う。

(続きます)
2006-04-28-FRI