── 話を聞いて思ったんですが、
『MOTHER3』の開発再開を決意する
理由のひとつとして、
そのきっかけを出してくれたのが、
宮本さんと岩田さんだったというのも
大きかったんじゃないですか?
糸井 ああ、大きいよ! それは!
だって、それは、困難をわかったうえで
言ってくれていることだからね。
その、「儲かりまっせ!」っていうことだけから
はじまっていることじゃないからね。
もちろん、ふたりのことですから、
経営のことは頭にありますよ。ないわけがない。
── そうですね。
糸井 だから、その、なんだろうなあ‥‥。
さっき、「みなさんのおかげです」って
簡単に言いたくないって言ったのと同じように、
「世の中、金だけで動いてるわけじゃねぇよ!」
っていうのも、簡単には言いたくないんだ。
── はい(笑)。
糸井 「オレはもう、金が大好きだ」ぐらいのことを
500回くらいは先に言っときたい。
で、言っといたうえで、
「‥‥でも」って言いたい。
── (笑)
糸井 いや、笑うけどね、ほんとうに。
500回ぐらい言ったあとで、はじめて言える
「‥‥でも」があると思うんです。
── はい。
糸井 リスクや責任の量を十分にわかっていながら、
それを言えるということだよね。
なんていうんだろうな、
これも簡単には言いたくないんだけど
‥‥やっぱり、心ですよ。
それが伝わるからこそね、
ぼくも、引き受けようって思えたんです。
宮本さんと岩田さんと、ぼくは別の会社にいて、
それぞれ別の責任を負っているわけですけど、
すごく大きなくくりで言えば
あの日、タクシーに乗り合わせた3人は
ひとつのチームだともいえるわけですよ。
まあ、精神的なチームではあるけれども、
その関係は、うれしいですよね。
うん‥‥だから、大きいわ。
それをふたりが言ってくれたというのは
ものすごく大きいと思う。
だからこそぼくも、引き受けたあと、
ふたりに泣きつくようなことだけは
しないようにしようと思えるわけだしね。
心の部分が重要なポイントにはなってるけど、
動き出したら会社と会社の約束ですから。
── そうですね。
あと、岩田さんの判断としても、
売上の予測はもちろんですけど、
『MOTHER』というブランドが
任天堂という会社にプラスに作用するという
判断があったんじゃないでしょうか。
糸井 そうだね。
だから、岩田さんは、両方知ってるんだと思う。
だって、『MOTHER2』の
プロデューサーのひとりだったわけだからね。
── 心の部分と、経営側の判断と、
両方があってのオファー。
糸井 どちらが表にあるかというと経営のほうですよ。
岩田さんという人は、すごく情はあるけど、
情をいちばん上には持っていかない人ですから。
その意味では、感情を抑制して、
それこそ何度も検討したうえで
つくるべきだと判断したんじゃないかと思います。
── そうですね。
糸井 で、「そういう時代の終わり」っていう言い方も、
もしかしたら、できるかもしれない。
── あああ。
糸井 わかんないですよ? それは。
あと、もうひとつ言うと、
3年前の時点で携帯機を選択していたという
宮本さんの「トレンドを読む力」。
── あ! それはまた、
別の軸でおもしろいところですね。
糸井 うん。
開発の規模を縮小する意味だけじゃなく、
時代がそういうふうに動いていくっていう読みがね、
きっとあったとぼくは思うんです。
そしてそれは、ぼくがゲーム全般について
思ってたことといっしょなんですよ。
これは、ほかの場所でも何度かしゃべっているけど、
据置型のゲーム機というのは、
ディスプレイなしで
パソコンを売っていた時代のかたちだと思うんです。
据置型のゲーム機はおもしろいし、
なくなるわけじゃないけど、
それようのモニターがセットになっているほうが
これからはふつうだと思うんですよ。
── なるほど。たしかに、いまって、
「テレビにつなぐもの」は
もう増やしたくないというか、
増やせないような時代ですしね。
つないだとしても、競争は激しい。
糸井 そう。だとすると、
ゲーム機に、そのゲーム機専用の
ディスプレイがついているほうがいい。
で、そういうときに、
ゲームボーイからはじまった携帯機が
いま、あんなに急成長している。
携帯機というのは、
小さくて持ち運びができるだけじゃなく、
いわばディスプレイつきの
コンピューターですからね、あれは。
── そこを宮本さんは先読みしていたかもしれない。
糸井 少なくとも体感はしてたと思うんです。
その流れをね。
で、ぼくは、それに乗るべきだと思った。
そういう雑談っていうのは、
ぼくらは、さんざんしてましたしね。
── つまり、3人とも、
心の部分をキーにしながらも、
それぞれ勝算を持ちながら
開発再開に踏み切ったと。
糸井 それがなきゃ出せませんよね。
当たり前のことですけど。
── そうですね。
糸井 だから、まあ、ともかく、
ほんっとに、いろんなものが重なり合って、
『MOTHER3』はもう一度
生まれ変わるというか、
生まれ直すことになったんです。
結果というのはまだ出ていませんけど、
開発が終わったいまの時点では
すくなくとも、
「やってよかったな」っていうふうに
なりかけていると感じてます。
── はい。
糸井 けど‥‥あれだね。
こういう話でも、
振り返ってみると、物語だね。
── ええ。おもしろいです。
糸井 だから、これを読んでいる学生の子なんかは
こういうことを憶えておいてほしいなぁ‥‥
「ほんとうにやりたいことを実現させたいときには
 キミが描いてる地図の大きさを
 あと4まわりくらい
 大きな紙にしたほうがいいぜ」
っていうことですよ。
そうすると、こわいことも増えるけども、
ただのホラ吹きじゃなくなるよ。きっと。
── うん。
糸井 「実現する」って、
やっぱりすばらしいことです。
それだけで、すごいことで。
── とにかく、4月20日に、
「『MOTHER3』が出る」
という実現は、しますね。
糸井 うん。そうですね。

(続きます)

2006-04-20-THU