『MOTHER』の気持ち。
いちばん近くで、
この不思議なゲームの話を聞く。

第7回
「ギーグのセリフ、作っててもきつくてさ」


── 『MOTHER2』は
ヘビイな一面も持っています。
糸井 終盤とか、いやぁ〜な決断を迫られますよね。
「なんて答えてボタンを押せばいいんだ?!」
みたいな。
博士と話す場面とか、
作っているときに自分で怖かったもの(笑)。
── プレイヤーとしても、恐怖を感じました。
糸井 ああ。ありがとうございます。
その瞬間まで思い出して言えるものなあ。
博士が、断崖のところまで歩いていって、
言いにくいから間があって、
背中向けたままで言うんですよね。
「いいにくいんだが」。
── しかも、いままで歩いてきた道が道だから、
そういう展開を信じていいんだかどうなんだか、
いろんな意味で不安になるんですよね。
こう、いつのまにか、深い道へ入ってるんですよ。
あの感じが『MOTHER』にしかない。
糸井 そうなればいいなぁと思ってつくっていたから、
うれしいです。
自分のつくったものだけど、
あらためて見ると、嫉妬しますね(笑)。
で、同時に、「二度とできない」っていう恐怖がある。
だけど、そのいっぽうで、ファイトも湧くんですよね。
読んでいる人は、なんのこと言ってるのか
わかんないかもしれないけど、
それを実感できるっていうのがゲームのよさですよ。
もうね、ギーグのセリフとかね、
作ってて、苦しくてさ、泣いたもの(笑)。
そういう入れ込み方って、一回性のものだからなぁ。
── (笑)
糸井 ギーグって、要するに、その、
なんだかわからないものじゃないですか。
でも、愛すべき生ものっぽい部分がある。
あれが、『憲兵とバラバラ死美人』における
筑波久子のおっぱいなんですよ。
── ……は?
糸井 『憲兵とバラバラ死美人』における
筑波久子のおっぱいなんですよ。
── 不勉強でわかりませんが。
糸井 誰にもわからないと思いますが。
── なんですか、ソレ?
糸井 トラウマ。
── トラウマ? 糸井さんの?
糸井 そう。子どものとき、映画館で、
まちがって観ちゃった映画が
『憲兵とバラバラ死美人』(※)って題名の
新東宝の映画だったの。
観たあと、家に帰って、無口で元気がなくなって、
親に心配されたっていうくらいショックを受けた。
なにせ、レイプですよ。河原で。映画のなかで。
そのときに、おっぱいをむんずとつかむと、
おっぱいがボールのようにゆがむんですよ。
それが、もう、ね。脳を直撃なんですよ。

※【編集部註】
映画そのものは存在していることが判明したが、
内容まで、そういうものだったかどうかということは、
不明のままであります。案外、糸井重里少年の
記憶違いということもありそうでもあります。
── 糸井少年の。
糸井 糸井少年の。
つまり、犯罪とエロティシズムが
隣り合わせになったときの
恐ろしさっていうのがあって、
それが最後のギーグのセリフなんですよ。
あのなかで、「イタイ」って言うじゃない。
あれが……おっぱいなんですよ。
こう、なんというか、生ものな感覚というか。
── ええと、これはどうすればいいんだろう。
糸井 もう、書いちゃえば?
── あははははは。
糸井 ほぼ日ならではの情報。
でもね、これは、オレしか知らない。
── 当たり前ですよ。
糸井 でも、けっきょく、あの場面は、
プレイヤーの心を動かしたわけで。
── それはそうですが。
糸井 あれがさ、たんなる悪者がいてさ、
「わっはっはっ!」とか笑っててもさ、だめでしょう。
まあ、悪者が「わっはっはっ!」って笑うのも、
考えてみると、興味深い様式なんだけどねー。
悪人がクライマックスで「わっはっはっ!」と笑う
ということはどういうことなのかということを、
徹底的にひとりで何日も考えても無駄じゃないですね。
そういうことをする人は、
ゲーム業界では、あんまりいなそうな気がする。
── ゲーム業界にかぎらないと思いますが。
糸井 つまり、「悪人が笑うとはなにか?」うーむ。
── ギーグの話に戻ってください。
糸井 あの、その当時って、
ぼくはコンピュータが使えなかったんですよ。
だからね、セリフを口でね、しゃべるわけ。
隣にスタッフがいて。
三浦弟、まーちゃんというんだけど。
部屋にぼくとそいつだけがいて、
ぼくがしゃべると、彼がタイピングしていくんです。
── へええ〜。
糸井 ひと文字、ひと文字、言うわけ。
すると、それが、すぐにタイピングされて、
画面にひらがなで出てくる。
ひらがなだから、またちょっと怖いんだよね。
「てんてんてん(・・・)」まで言うんですよ。
「あなたは」って言うと、『あなたは』って打たれる。
画面見て、「いや、『あなたは』消して」って言うと
消してくれて、しばらく考えて、
「……グ、ギ、ゴ、ゲ、ガ」とかって言うんですよ。
で、画面の『グギゴゲガ』を見ながら、
「『ゴ』を、もう1個増やして……うん……
 『てんてんてん』……
 もう3個『てんてんてん』……
 一行空けて……もう一行空けて……
 まだ空けて……はい、改行!」って言うの。
── ……すごい制作風景ですね。
糸井 そんなふうにしてつくっていると、
「うわあ!」っていう瞬間があるんですよ。
言った本人が「うわあ!」って思って、
打ってる三浦くんも「……糸井さん」って
ちょっと、泣きそうになってるんですよ。
で、「オッケー、そこまで」って。
たぶん、ひとりでやってたら、ああはならないですね。
「グギゴゲガ」を自分で打って、消して、
もう1個打ち直して、みたいなことは、
自分でタイプしてたら、手の面倒くささに合わせて、
口のほうが遠慮しちゃうと思うんですよ。
過剰に丈夫な手足になってくれる人がいてくれたから、
ぼくは考えることだけをすればよかったんです。
しかも、横でセリフを打っている彼の顔が見えるでしょ。
そのセリフがすごくいいときは、
彼の顔つきが明らかに変わるんですよ。
そうやって、集中しながら、
小さい反応を見ながらできるやり方っていうのは、
偶然の発明だったですね。

次回へ続きます!

2003-04-24-THU

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