「ほぼ日」なりのリナックス研究。
リーナス・トーバルズの
インタビューもできそう。

第5回 お金もうけ以上の倫理観。

おひさしぶりです。今日から、
ペッカ・ヒマネンさんという人への直取材で
「ほぼ日」なりのリナックス研究をお届けします!



この本を書いたかたが、ヒマネンさん。
(↑※クリックするとほぼ日内の「担当編集者」ページへ)

みんな、名前につっこみを入れるのは、よそう。

「1973年生まれの大学教授。
 20歳で博士号を取得した
 フィンランドの哲学者さん」

という彼のプロフィールを聞くと、みなさん、
「お?何よソレ?」と思うのかもしれません。
「あんまり、いないタイプの人だなあ」と。

以前、このコーナーで彼に触れた時の
フィンランド在住の長い人からのメールを
紹介してみると、ヒマネンさんという人の
「居姿」の片鱗がわかるかもしれませんよ?

では、メールを抜粋紹介いたします。
フィンランドからほぼ日を読んでくださるかたも、
いるんだねえ、と実感できる文体なんです。

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・ほぼ日でペッカ・ヒマネンの
 名前を見て、驚きました。
 そうか、彼は今、日本にいるんですね。
 フィンランドに住む私にとっては、
 リーナス・トルバルスよりも身近な人
です。
 たぶんフィンランド人にとって
 トルバルスは、個人的に成功した
 「やっかみ」の対象になるのかな?
 アメリカ行ってしまった遠い人というか。
 トルバルスはすごく有名だけど、
 現地では話題として
 みんなの中で盛り上がるわけでもないのです。
 最近のほぼ日での評価を、
 一生懸命フィンランド人の友人に伝えて
 「トルバルスについて語り合おうじゃないの」
 なんて思ってるのですが、話がはずみません。
 保護地区をのうのうと歩く
 トナカイのとぼけた瞳のように
 反応なしなフィンランド人たちです。

 一方、ペッカ・ヒマネンは
 一時、一般レベルでも大いに湧きましたよ。
 若き天才哲学者。
 フィンランドの問題児であり鬼才でもある
 舞台監督ヨウコ・トゥルッカ(男)が
 彼を題材に芝居を作ったほどですから。
 実は私はその芝居を見るまで
 ペッカ・ヒマネンが何物か知らなかったんですが、
 彼は哲学者としては、ものすごい有名人でした。

 この舞台作品は彼の名前をもじることなく
 そのままペッカ・ヒマネンとして使っていて、
 本人も観たそうなんです。
 内容は、若き天才哲学者が
 22歳から23歳だったか、
 21歳から22歳だったかに訪れる
 「老い」を目前にして大パニックに陥るもの
でした。
 軍隊のばりばり根性おやじとか、
 ヒマネンに惚れる中年おばちゃんが出るドタバタ喜劇。
 本物のヒマネンがどんな人なのかは知りませんが、
 この芝居は大笑いでした。
 恥ずかしがり屋さんなフィンランド人は、
 普通知らない人同士が声をかけあうなんてことは、
 まずないのですが、このときは違いましたね。
 とにかくあまりの抱腹絶倒に
 もうそこいらじゅうの人と顔を見合わせて
 涙をながしながら大笑いしあいました。
 ・・・たしかこの作品、
 この年の何かの演劇賞を受賞したはずです。

 ほぼ日を読んで、
 久々にヒマネンのことを思い出しました。
 この本、フィンランド語でも
 きっとあるでしょうから、
 是非読んでみたいと思いました。
 彼がどんなこと書いてるのか、
 とっても興味あります。
 (も)


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こんな現地情報を聞いてしまうと、
いやが上にも、この「鬼才若手天才哲学者」に
直に話を聞くことを、楽しみにしちゃいませんか?

ええ。
しちゃって、大丈夫です。

実際に話を聞いた
「ほぼ日」わたくし木村の率直な感想としては、
ものすごくおもしろい人だったですから。

「ところで、
 どういう哲学者から影響を受けましたか」
という問いに返ってくるのが、
「ソクラテスと、釈迦、くらいかなぁ。
 近代哲学者たちの多くは、ぼくには
 『間違った問題に関しての正しい解答』
 を出しているようにしか見えないから、
 どうも、あんまり興味がないのよねぇ」
こんな感じの答えなのさ。

次回からインタビューを掲載する前に、
少しだけ、
「ぼく木村がインタビュー前に
 ヒマネンさんに最も聞いてみたいと思ってたこと」
をイントロダクションにしながら、今、5分くらいで
ヒマネンさんの本の内容を頭に入れちゃいましょうか。

[● いちばん聞いてみたかった疑問]
「どうして、倫理が変わってきてるんですか?」


・・・ヒマネンさんの本での主なテーマは、
「現在は、プロテスタント的な倫理から、
 ハッカーたちの倫理とも呼ぶべき
 新しい倫理がう生まれてきている」
という問題意識から見た、
新しい倫理のメカニズムの説明なんです。

「情報の共有は、一般社会では、
 必ずしもお金もうけの手段にはならない。
 それどころか、情報を所有することが、
 ふつうはお金もうけにつながるだろう。
 しかし、動機は金銭よりも
 仲間うちで評価される方向に
かたむいている」

「仕事を、そこそこで満足するものではなく、
 知力と情熱のありったけを傾注する価値のある
 技芸だととらえる
人が、増えてきている。
 仕事を、ある意味での芸術や遊びと
 とらえてはじめている動きがあるのだ。
 情熱と創造性がそこにはあるが、
 遊びをおもしろがるには、勤勉さが要る。
 『ハッカーをやるのはおもしろいことだけど、
  おもしろがるには、かなりの努力が必要だ』
 という有名な言葉にあるように、
 真剣な遊びだからこそ、努力がそこに要る。
 この努力は、延々とつまらない
 仕事をしているのとは、わけが違う。
 何かをかたちにすることに
 生きがいを見出す人たちは、
 そのために必要ならつまらない作業も
 よろこんで引き受けようという気に
なるからだ」


コンピュータの世界に限らず、
「はたらく動機を、
 金銭ではないところに求めはじめる動き」
が出ていると、上記のようなかたちで
ヒマネンさんは、一貫して説明しています。

現在進行している倫理の変化を
「時代の要請」ととらえるヒマネンさんに、
時代の要請がどう生まれてきたのかを、
ぼくはまず第1に、聞いてみたかったんです。
そして、実際に、聞いてみました。

↓こちらの、
 ヒマネンさんの本の抜粋文章を読みながら、
 次回のインタビューを待っていてくださいね。

「ひょっとしたら、
 歴史の大きな流れは
 人間の暮らしが楽になる方向に
 進んでいるのではなくて、」
 逆に食いぶちを稼ぐのが
 どんどんむずかしくなる方向に
 進んでいるのかも
しれない。
 プロテスタンティズムの倫理に支配される文明を眺めて
 中国人哲学者の林語堂が言っているように、
 『文明とはおおむね
  いかにして食物を得るかという問題であり、
  進歩とは食物をどんどん見つけにくくしてゆく動き』
 なのかもしれない。

 最大の収入を得ようとして研究分野を選んだり
 求人広告に応募したりすることと、
 人生でほんとうにやりたいことは何かをまず考えて、
 そのうえで食べてゆくにはどうしたらよいかを
 考えることのあいだには、非常に大きな隔たりがある。
 (リーナス・)トーヴァルズのような
 ハッカーにとっては、人生を組み立てる基本は
 仕事や金銭ではなく情熱であり、
 また社会的に価値のあるものを
 仲間とともに生み出したいという願望である。


 人生をどう組み立てるかという
 この最初の問いは、とほうもなく重要だ。
 金もうけをおもな目標にすれば、
 自分がほんとうは何に関心があったのか、
 どんなふうに人に認められたいと思っていたのか、
 いつのまにか忘れてしまうものだ。
 たんに金もうけだけを考えてはじめた人生には
 ほかの価値を付け加えることがむずかしい。

 それに比べたら、自分がおもしろいと思うことを
 やって食べてゆくほうが、あるいはそれで
 利益をあげることのほうが、ずっとたやすい。
 なぜなら、自分がおもしろくないと思いながら
 やっていることは、まずまちがいなく
 ほかの人にとってもおもしろくないから
だ」
  (ペッカ・ヒマネン『リナックスの革命』より)



(※次回に、つづきます)

2001-07-23-SUN

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