「ほぼ日」なりのリナックス研究。
リーナス・トーバルズの
インタビューもできそう。

第1回 JUST FOR FUN.



『それがぼくには楽しかったから』
(リーナス・トーバルズ+デイビッド・ダイヤモンド[著]
 風見潤[訳] 中島洋[監修] 小学館プロダクション \1800)

最近、わたくし「ほぼ日」のメリー木村は、
この本の魅力に、ハマりこんでしまいました。
何回も読みましたが、かなりおもしろいのです。

「コンピュータ系のノンフィクション」に留まらない
「哲学」や「仕事法」のヒントに満ち溢れた本。

「読んで」と押しつけたくはないけど、
「おもしろいよ」と薦めたくなくなりまして・・・。
このたび、「ほぼ日」で、特集することにいたしました。

「何人かの有識者に、インタビューをする」
というかたちで、この特集は、進んでいくと思います。

最初に話を伺ったのは、風穴江さんという方なんです。
コンピュータ界技術誌の先端だった
「月刊スーパーアスキー」(現在は休刊)の記者を経て、
『リナックスジャパン』の編集長などをつとめている、
フリーの「コンピュータ関連ジャーナリスト」の方だよ。

5年以上前、まだ、
世界に名前が知られてもいなかった
リーナス・トーバルズ(この本の著者)が
初来日した時にも、もうすでに、
風穴さんはインタビューをしているんです。

ではさっそく、お話をどうぞ。
(この本のおもしろさなどは、
 話をしている中に、もりこんでありますので)




↑リーナス・トーバルズさん。
 いまちょうど日本滞在中のリーナスさんにも、
 直接、コメントをいただく予定なのです。
 後日に、このコーナーで掲載をいたしますね。



木村 風穴さん、こんにちは。
この本、ものすごくおもしろいですね。
風穴 はい・・・でも、
この本、むつかしくない?
木村 え?
風穴 あ、もちろん、
本の軸になるところは、
とてもおもしろいと思うし、
リーナス・トーバルズという人の
スピリッツには共鳴できるのです。

だけど、一般的に言うと、
「むつかしいかも」と・・・。
木村 確かに、途中で、
そう感じたところがあったかもしれない。
風穴 「普通の人は、この本をどう読むのかな」
が、ぼくの気がかりだったり、するんです。
木村 なるほど。

ぼくはコンピュータに詳しくなくて、
「普通代表」みたいなものですけど、
ぼくのような人だと、この本を、まず、
「青春もの」「革命もの」として
楽しむのではないでしょうか。

「新しい生き方が、もう、ここに、
 出て来ちゃってるじゃないか」と。

「仕事論」「ビジネス書」としても、
新しくて魅力的な仕事のやり方のヒントとして
自分では、この本を読んだように思います。

はじめて読む読者のかたがたに補足すると、
リーナスさんが開発した
「リナックス」というソフトウェアは、
「OSとして、世界の4分の1のシェアを占める」
とも言われていますよね。

(注:OSの定義や役割は
   日々、変わりつつあるのですが、
   「OS」とは、一般的には、
   「メモリーの管理、入出力の処理、
    ファイル管理、アプリケーションの実行」

   などの機能を持つものです。
   つまり、コンピュータを起動させたり、
   キーを打つのに、なくてはならない、
   もっとも基本的なソフトウェアです。
   リナックス、ユニックス、
   ウインドウズ他の種類があります)

フィンランドの
「いちオタク」によって、
地味に改良を重ねられたソフトが、
いまや、マイクロソフトに、
「ウインドウズを脅かすもの」
と思われるまでに成長している
事実に、
まず、ふつうの読者は、打たれると思います。

それと同時に、
本で詳しく描かれている
「開発のしかた」にも、
惹かれるんじゃないかなぁ。

プログラムを無料でぜんぶ公開する
「オープンソース」という考え方を、
ここまで徹底させてソフトを作っている
のが、
ほんとに、すごいじゃないですか。

プログラムを無料公開しながら、誰でもが
開発に参加できる仕組み
なわけですから、
何万人ものヘビーユーザーが、
同時に、強力なプログラマーですよね?
そうした、リーナスの
「開発者哲学」のようなものも、
とてもおもしろく読みました。

風穴さんは、どう読みましたか?
風穴 わたし自身としては、
リナックスのことを、かなり最初から、
リアルタイムで知っているんです。

ですから、それを追確認する、というのと、
あとは、過去のエピソードや
細かい技術的な話とかを、
改めて知ったという感じです。

リーナスが95年に来日した時に、
ぼくは、秋葉原を案内したり、
一緒にソバ食ったりしましたし、
アメリカの「リナックスワールド」という
イベントには何度も出席したりしています。

つまり、ある意味では、
「追っかけ」(笑)のように
リーナスに関しては、
注目し続けてきているわけです。

わたしから見て、この本は、
「ずっと見つづけたイメージ通り」

という感じでしょうか。

実は、わたしが
「リーナスって、こういう人だよ」
と思っていた部分が、あまり
世間には知られていなかったんです。
だから、この本は、
リーナスの人柄を、非常に
うまく書いているなあ、と思います。
ほんとに、よく書けています。
木村 どういうところが?
風穴 人間は、どうしたって、やっぱり、
部分的な情報を誇張して捉えますよね。

細かい情報から伸びてゆく、
「うしろ側の大きな影」のほうを、
見てしまったりするじゃないですか。


「リナックスは、情報を全部公開」
「リナックスは、使う時にお金が要らない」
そういう情報が知られると、
みんな、そこだけ捉えてしまって、
「リナックスを作った人は、無欲の聖人君子」
というイメージの方に、びゅーっと、
流れちゃったりするというか・・・。
木村 ああ、あります。
実際、そう取られていましたよね。
風穴 だけど、ほんとは
そういうのじゃないわけです。
そうじゃない、等身大のリーナスを
全体として良く描き出しています。

そういう意味で、
すごくおもしろい本だと思っています。

わたしは、去年の末ぐらいに、
この本の企画を聞いたのですが、
まず本のタイトルが
『JUST FOR FUN』(※原題)。
たのしみのためだけに、と、
それを聞いた瞬間に、
もう、「すごいな」と思いました。
「まさしくそれだ、やられたなぁ。
 このタイトルをつけた
 デイビッド・ダイヤモンドは、スゴい」
と感じました。
木村 そうか。
風穴さんは、インタビューを
「する側」のお仕事をされてるから
リーナスの考え方だけじゃなくて、
インタビューしてこの本を書いた
デイビッド・ダイヤモンドの考えも見るんですね。
風穴 あ、そうですね。
どうしても、そんなことを
思っちゃいますね。
木村 なるほど〜。
風穴 リーナスが、生い立ちとして
「数学が得意だった」ことと、
「人よりも根気があって、のめりこんだ」
という分だけ、続けてプログラムをできた。

そのことだけが、
リナックスを生むための
大きな分かれ道だったと思うんです。

でも、それ以上のことは、もう、
別段、意図してやっていたわけではなくて、
ただ、自分がやりたくてやっちゃって、
たまたま、こうなっちゃった
というか。
それこそ『JUST FOR FUN』です、
ということなんですよねぇ。


(つづきます)

2001-05-28-MON

BACK
戻る