KANA
カナ式ラテン生活。
スペインは江戸時代の長屋みたいさ、きっと。

【14週】

つわりもだいぶ軽くなり
(たまに空腹の起きぬけなんか
 カニみたいに泡を吐いちゃうけど)、
懸念の出血もぴったり止まったまま
(この数日、なぜか鼻血が出てるけど)。

祝・初期流産の危機脱出!(たぶん)
しかも前回、
日本の妊婦はガンガン生魚を食べているという
うれしい情報を得たので、
ついに(フィーゴとラウル一家と
枝豆好きのベッカム夫妻も来た)和食店で
寿司を腹いっぱい食べてきました。
う・ま・か・っ・たー!
しんどいときに励ましてくれたみなさん、
ありがとうございました。


それにしても、
人間って、
工場では作れないんだなぁ。

こんなのさぁ、
20世紀的合理主義の薫陶を
ドシャドシャ浴びて育った私からすると、
「なんかすごい栄養満点の培養液に入れて
 なんかすごいモーターをぐんぐんまわして
 2週間でご自宅までお届け!」
でもちっともおかしくなさそうなのに、
そうじゃなくて、
中性脂肪とか環境ホルモンとかでいっぱいの
我がプヨプヨの頼りない腹の中の
しかもおしっこやうんこに隣り合う狭かところで
わざわざ40週間かけて長期育成ですよ。
なんて、非効率的。

クロマニョンのころから、ずーっと、そうらしい。
とすると、アルタミラの洞窟に絵を描いたひとも
40週間、カアチャンの腹の中にいてから
生まれてきたのね。
ようよう、お前も(同じ)人間だったんだなぁ!

ジュリアス・シーザーだって、
帝王切開の起源だとは言われるけれど
(「帝王切開」はスペイン語で「シーザー式手術」)、
カアチャンの腹の中から生まれたのは同じだもんね。
もちろん、
「ブルータス、お前もだ!」
ぜ。

へー。
あいつもこいつも、あのひとだって、
みんなそれぞれのカアチャンの腹の中で
じっくり長期育成されて出てきてたのか!
なんか、なんていうか、
そんなことだとは、ちっとも知らんかったよ。
60億の人間に、60億の母がいたなんて。



さて、今回のテーマは「妊婦心得」。
たくさんの方にいただいたアドバイスは:

とにかく、安静に。
(ご主人に申し訳ないと思うかもしれないけど)
甘えられるひとには、甘えて!

こんなメールも、いただいた。

=
妊娠期間を通して、
初期のつわりだけがものすごくひどいです。
体が言うことをきかず、起き上がれない時に、
1歳の娘がリンゴを切ろうとしてくれて、
包丁を握り締めていたことがありました。
あの時に、一人で頑張ろうとしないで、
誰かを頼らなければと切実に思いました。
(4月に2人めを出産したKさん/日本)

ウワーン(泣)。


「頑張るな」「無理するな」
そう言われたことって、あまり記憶にない。

逆にいままでわりと多くの場面で、
たとえば「共働きでの家事」や
「体調が悪いときの仕事」など、
(まぁ、私ひとりがちょっと無理して
 やっちゃえばいいや)
と思って、やって済ませてきた。
よくあることだ。

私の場合、その最大の理由は、
「いまここにある内心の不満をちゃんと表明して
 きちんと相手の理解を求めていく」のが
面倒だったから、だと思う。

でもいまは、無理しちゃいけないと皆がいう。
たしかに、いまいち頑張れない。
たまった食器を洗おうとすると、貧血。
PCの前に座ると、吐き気。
寝てばっかなのにでも食欲はあって、忸怩たる思い。
ツレアイは外で仕事をして、疲れて帰ってくるし。
あぁもう頑張っちゃおうかな、と
つい立ち上がりかけ、
そこで親友からのメールを、思い出す。

=
カナが倒れたらそのまんま、
=赤ちゃんの危機、ってことだよ〜。

そうじゃった。
だから心を鬼にして(ほんとそんなかんじで)、
いま唯一甘えられるツレアイになんでも頼む。
気分が悪くてどうしようもないときには
「うげー、ぎもじわるいんだよー」と
泣きついたりもした。
(実は昨夜、泣いた)
いや本当、自分の身体の不如意さが情けなくて、
泣けて〜くぅ〜るぅ、ジャン!なのだわよ。

でも、これって、赤ちゃんそのもの、なのかも。
ヤツだって、空腹も排便処理も自分じゃままならず
どんなに相手に不快な思いをさせたって
ウエウエガアガア泣いて甘えるしかないのかも。
他人の助けなしに、赤ん坊は生きていけない、と。
人間はこう、かくも非効率に、できているらしいです。
あらためて、気がついた。

やがて縁あってこの腹の子が外に出てきて
夜中にうぇーんうぇーんと泣いたとき、
「あぁお前も不如意ナリね。
 あんときゃ私も泣いたけんね、ウン、わかるばい」
まったくの勘違いかもしれないけど、
そう思うことができたら。
なにか、ちょっとだけ余分に
引き受けられるような気がする。


ところでこの「妊婦心得」、
日本経由ではたくさん聞くし育児書にも書いてるのに、
スペインでは耳にしたことがない。
ひょっとすると、
「我慢強い子」が「良い子」とされる
日本ならではのアドバイスなのかもしれない。

そういえば、スペインで驚いたことのひとつが
「みんな、ぜんぜん我慢しない!」ことだった。
一方、痛みも熱もギリギリまで我慢する私は
病院で、「元気じゃん」と思われて大変だったし。

甘えるということは
他人を信頼して自分を委ねる、こと
でもある、のかもしれない。
そ・れ・も、愛?
としたら、私はそれがたぶん下手だ。
どうやら私はいま、そのあたりのことを
練習中のようです。


次の検診は、来週。
ツレアイも一緒に行く予定です。初めて。
では、アスタ・プロント!

カナ

※内田樹研究室内
 「今夜も夜霧がエスパーニャ」もよろしく。





『カナ式ラテン生活』
湯川カナ著
朝日出版社刊
定価 \700
ISBN:4-255-00126-X



ほぼ日ブックスでも
お楽しみいただけます。

もれなく絵はがきが届きますよ。

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2006-06-11-SUN

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