KANA
カナ式ラテン生活。
スペインは江戸時代の長屋みたいさ、きっと。

【12週】


安定期とは、よく言ったもので。
12週目に入ったあたりから、
急につわりが軽くなった。

その話を聞いたおかんが、
「あんたはなんでも頭で考えるけん、
 『安定期』って思っただけで
 気が楽になったっちゃろ。
 だけんって、調子に乗らんとよー」
と、養老孟司ばりの分析をしてみせた。
たしかに、
「身体のことは身体に聞く」ということ
忘れがちかもしれない。

エコー画面に映る腹の子には、手足が生え、
その姿はまるでオタマジャクシ。
そっかぁ、まさに腹の中の小さな小さな世界で
繰り返されるという生物の進化の歴史のなかで、
奴、ちょうど上陸中のところなのね。
(darlingイトイさんから、
 「上陸おめでとうございます」
  のことばを頂きました)

などなど感動していると、担当のモニカ先生が
「ワーオ、なんて大きな頭!」
と、楽しげに叫んだ。
や、やっぱり養老孟司が指摘するように
すっかり脳人間になってしまった現代日本人である
頭でっかちの私の子は頭でっかちなわけで……、
ではなくて、たぶんこれは、一般的に
日本人の頭がスペイン人より大きいから。
実際にスペインの某高級ブランドは、
日本市場向けに、特注サイズの帽子を生産しているし。

まぁ、こういうところも
海外で出産するちょっとした不安であり、
また、おもしろさでもあるのよね。
……なんていう余裕が出てくるのが、安定期。
そういえば、心配だった出血も止まっている!
ヤター!

さて、前回の掲載後、
たくさんのメールをいただきました。
それとモニカ先生に確認したことをあわせて、
わかったこと、まとめてみます。

疑問1:「妊婦は炭酸飲料を摂るな」?

スペインでは「常識」のこれ、
日本では、どうも「非常識」のよう。

=
つわり中にはすっきりしてとても良いです。
炭酸飲料で救われた人も多いです。
(妊娠28週のAさん/日本)

=
雑誌・市のパンフレットなどで推奨してましたよ。
(妊娠5ヶ月のRさん/日本)

などなど、経験談を交えたメールを読んでいると、
とくに問題はない様子。
それどころか、むしろ、おすすめらしい。

ちなみにモニカ先生によると、スペインでは
「炭酸飲料は一般的に消化を妨げやすいから」
としてあまり勧めないだけのことで、
別に本人が平気なら問題ないとのこと。
ただし、一部のトニック・ウォーターは
マラリアの治療薬に用いられるキニーネを含むので
妊娠中はできれば避けた方がいいそうです。


疑問2:「妊婦は生魚を摂るな」?

これも日本では、「非常識」。
寿司に刺身、みなさんガンガン食べられてました。
ただし、

=
母親学級で「マグロは身体に水銀を蓄積するので
妊娠中は食べないように」って言われましたよ。
「妊娠中に避けた方がいい魚」という感じで
全般禁止、という感じではありませんでした)
(赤ちゃんが7週のPさん/日本)

あるいは、「回遊魚は週に1回」との話も。
でも「要はなんでも食べ過ぎなきゃOKなのよ!」
という意見が、経験者から続々と。
ああ、なんて心強いんだろう。

そして海外からは、こんな目からウロコの話が。

=
要するに、「トキソプラズマ症」の可能性を
恐れてということらしいのです。
トキソプラズマはまず生魚を食べ慣れている人は
免疫があるといわれていますし、
あまり神経質になることもないと思います。
(3歳半と2ヶ月を海外出産したKさん/カナダ)

これは去年、スペインで行われたグルメイベントで
ゲストの服部幸應さんも危惧していたのだけど、
いま海外では、空前の日本食ブーム。
でも日本と違い、生産・流通・調理の現場まですべて
魚を生食する前提で扱っているわけではないので
どうしてもトラブルの可能性が高くなり、心配だ、と。
海外在住組のみなさん、
そのあたりに気をつければいいのかもしれませんよ。

と思いきや、

=
こっちではお刺身もですけど、卵もダメだそうです。
生はもちろん調理済みのも、マヨネーズもダメ!
サルモネラがついている恐れがあるためだそうです。
(そろそろ家族始めのTさん/イギリス)

うーん。
き、聞かなかったことにしようかなぁ……。
でもたしかにスペインも、卵の賞味期限は1ヶ月。
これは日本と違い、生食することを考えていないから。
さらに卵自体も、日本のように殺菌消毒済みではなく、
もう、殻に鶏のフンなども存分についたままで
売っていたりする。
たしかに、サルモネラ菌感染の機会は多そう。
とはいえ、75℃で1分加熱すれば菌は死滅するという
データもあるそうです。参考までに。

ちなみに私はつわりのひどいとき、
連日の玉子粥で乗り切ったのでした。
ひょっとしたら、粥を作るツレアイの熱い愛が
サルモネラ菌も、溶かしちゃったのかちらん。

疑問3:「妊婦はアルコールを摂るな」?

モニカ先生に確認したところ、
「あら、酔わない程度なら別にいいのよ」
とのこと。
よしそれじゃあビールなら4、5本はいけるぜ、と
腕まくりをしていると、ツレアイに頭をはたかれた。
「お前はほんと、すぐ調子にのるから。
 考えてみなさいよ。
 お前みたいな酒好きが、『酔うまで』って、
 飲みながらちゃんと自制できるか?」
アウ、自信ありません。

日本からも
=
「少量ならいいでしょう」、の少量の基準が
個人により曖昧なので、
一般的にはたまにはアリかもしれないけど、
飲まないのがベスト
みたいな感じで書いてありますね。
(妊娠23週のOさん/日本)

とあって、どうやら、そういうことらしい。
なので私は「外でごはん食べるとき、1、2本」と
自分でルールを決めることにした。

あぁ、これで、ずいぶん気が楽になった!
「あれもダメ、これもダメ」と
わけもわからず言われるばかりじゃ
なんだかストレスが溜まるけど、
理由がわかれば、自分で判断できるもんね。
って、やっぱり、脳にやられてるかしら?

ところで、最近びっくりしたこと。
子宮って、恥骨の裏のあたりにあるらしい。
えっ、思ってたよりも、ずっと下の方だ!
ってことは、
いままでツレアイ、ヘソの下あたりに耳を当てて
「これが赤ちゃんの音?」なんて喜んでたんだけど、
ごめん、どうやらそれ、
私の腸とかの消化の音だったみたい……。
この衝撃の事実、伝えるべきや、否や。

アスタ・プロント!

カナ

※内田樹研究室内
 「今夜も夜霧がエスパーニャ」もよろしく。





『カナ式ラテン生活』
湯川カナ著
朝日出版社刊
定価 \700
ISBN:4-255-00126-X



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2006-05-29-MON

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