KANA
カナ式ラテン生活。
スペインは江戸時代の長屋みたいさ、きっと。

【ギャラクシー軍団だって人間さ!】


先週末(11月20日)、「クラシコ」があった。
スペインのサッカーリーグで
もっとも盛り上がるカード、
レアル・マドリー対F.C.バルセロナ戦のことだ。
「クラシコ」とは「クラシック」、
つまり「伝統の一戦」という意味になる。

今回は、放送協会と国営放送が放映権料で揉めたため、
地方局での放送がない全国のこれこれの地域では
地上波放送がないかもしれません、というのが
連日、トップニュースとなっていた。
なんせこの試合は
公式に認められた「国民の重大な関心事」なので、
多くのひとが無料でテレビ観戦できないというのは
非常にゆゆしき事態、国家的大問題なのだ。
結局、直前に政府が介入して放映が決定したが、
もし放映がなかったら、
暴動とかになってたのかもしれない。
たかがサッカーの試合といえど、
侮るなかれ、なのだわよ。この国では。

で、このカードが
それほどまでに盛り上がるのには、
いろいろと理由がある。

たとえば
1970年代まで続いたフランコ独裁時代の
徹底した地方自治権剥奪に対するカタルーニャ人、
それにそのほかの地方の人々が抱く
中央スペインへの強く深い恨み。
あるいは
遥か昔、紀元前のフェニキア人の時代から栄え、
中世の最盛期にはスペイン東部のみならず
南イタリアからギリシャの一部まで支配した
海洋王国の民のカタルーニャ人の誇り、なども。
試合当日、
「CATALONIA IS NOT SPAIN」という横断幕が
観客席に掲げられていたのは、
まさにそういう意味なのだ。

さらに今回は、首位決戦となったことも大きい。
首位はF.C.バルセロナ。
追うレアル・マドリーは
前節で大勝して単独2位になったところだった。


その前節の試合、
レアル・マドリー対アルバセテ戦を生観戦した。

レアル・マドリーは、
ご存知のようにいまや「銀河軍団」と呼ばれる
スーパースターがキラキラ輝くチーム。
今年の欧州最優秀選手賞(バロンドール)に
ノミネートされた選手だけでも
ロナウド、ジダン、ベッカム、フィーゴ、
モリエンテスと5人もいるほどだ。
(あら、ラウルはダメだったのね)

対するアルバセテは
昨季、久しぶりに1部に復帰したチーム。
もちろん実力の差は歴然としていて、
というほどには最初は進まなくて同点にもなったが、
結局はレアル・マドリーが
大漁祭りだワッショイワッショイというかんじで
6対1と、圧倒的な力を見せつけて終わった。

でも、素人目から見てだけど、
守りというか、構成は、ヘコヘコだった。
帰り際、ツレアイが半ば冗談で
「これじゃ、来週は3対0で完敗やわ」
と言っていたのだが、
偶然にもクラシコでは
本当にその通りの結果となってしまった。
翌日になって訊いてみると、
周囲のマドリー・ファンも
「ま、そうだとは思ってたけどね」
という、あっさりした反応が多かった。

というのも、試合を観たひとはわかると思うのだけど
(日本を含め81ヶ国でテレビ中継されたとか)、
F.C.バルセロナの方が
チームとしてよく機能していたのは明らかだったのだ。
しかも、ポルトガルから移籍してきたばかりの
デコ選手は、見るたび役者のきたろうさんに
ますます似てきているし。関係ないけど。


「サッカーはチーム・スポーツなんだからさぁ、
そこんとこがうまくいかないと、
選手ひとりひとりのポテンシャルがいくら高くても
やっぱりダメだわのよ。
ほら、複雑系とか、言うし?」

などと、ついさっき本で読みかじった単語を使って
私もいい気になって批評してみたりしたのだが
(結果が出たものを批評するのはとても簡単だ)、
その同じ本の最後のあたりで、
こんなフレーズに出くわした。


> 人間の脳も鈍感で、完璧ではないみたいな……。
> そう、完璧じゃないところが
> 逆にかわいいんだよな(笑)
(中略)
> 〈人間味〉という言葉があるけれども、
> それはやっぱりあいまいである、
> とくに不正確である……
> そういうところからきっと生まれてくるよね。


(『進化しすぎた脳』より。
著者は『海馬』の池谷裕二さん)


そうそう、
スペインっていう国の魅力ってまさにそれ!
最大の特徴はディスオーガナイズ、
要するにみんな無茶苦茶やってるところに
じんわりと良い感じの人間味が……
あっ!


そこで気がついた。
そうか、そうだったんだ。
なんだ、レアル・マドリー、
人間らしい、可愛げのあるチームに
わざわざなってくれてるんだよ、きっと。
放っといても銀河軍団は勝っちゃうから、
それじゃつまんないから、ってね。

そういえば『ドカベン』でも、
守備を無視したキャッチボール投法で
相手に好きなだけ点を入れさせ、
結局、圧倒的な得点力を爆発させて
必ず1点差で勝ちを収めてきた
土佐丸高校(コミック13巻あたり)が、
すっごく魅力的だったし。うん。

なんていうか、
すっごく格好良い車に乗って、
大きく開いた胸元から胸毛をそよがせつつ
ビシーッと決めたラテンな男前が
うっかり下のパンツ穿き忘れたみたいな、
そんな守備ガラガラのレアル・マドリー、
それはそれで素敵じゃあないか!

それでこそ、愛せるってもんだぜ、ハニー!
そう、それでこそ、
愛するスペインを代表する
人間味あふれるチームだぜ!!
カテナチオ(イタリア特有の固い守り)なんて不要さ、
華麗で間抜けなスペイン・サッカー、バンザイ!


そう、涙を拭いながら再確認した
2004年クラシコ第一戦の翌週、でありました。
次は4月、うーんやっぱり勝ってほしい、な。


カナ

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『カナ式ラテン生活』
湯川カナ著
朝日出版社刊
定価 \700
ISBN:4-255-00126-X



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2004-11-28-SUN

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