KANA
カナ式ラテン生活。
スペインは江戸時代の長屋みたいさ、きっと。

【パリ・打ちひしがれ旅(2)】


ルーヴル美術館には、
日本語の館内案内マップが置いてあった。
これまでたくさんのひとが、旅行に来たおかげだね。
ありがたく、一部いただく。

ミロのビーナス、サモトラケのニケなど
へーこれかーと眺めて、最後に目指すはモナリザ。
するとモナリザの手前数十メートルの地点から
いきなり混みあってきた。
広い通路にはそこだけ仕切りが作られていて、
反対側には早足で去っていくひとの群れが。
ちょうどマラソンの折り返し地点のようなところで
モナリザは微笑んでいるらしい。

そうしてたどり着いたモナリザの手前5メートル。
次々にフラッシュが光るなか、
絵をバックに記念写真を撮るひとが絶えない。
なんだろう、北極点、みたいなかんじ。
到達記念!っていう。……行ったことないけど。
なぜかどこでもシャッター押してと頼まれるため
本日も大忙しのダンナさんを横目に、唸った。

うーん、フラッシュは、良くないよなぁ、たぶん。
これだけフラッシュを連続して浴びていると
絵も、日光にさらされているくらいの
ダメージを受けるんじゃないだろうか?
とりあえず、フラッシュ禁止の表示も出てるし。
でも、係員さんはなにも言ってなかったなぁ。
うーんでも。良いのかなぁ?

そのとき、6組の撮影を終えた彼が、振り向いた。
「見た?」
「見た」
「どうやった、感想?」
「モナリザ、やったねぇ」
「ほんまやな。ほんまにモナリザやったなぁ」
間抜けな会話をしながら、ルーヴルを出た。


さて、いよいよ食事、だ。
フランス(の)料理と思うだけで、緊張する。
デニムでも入れるような、通りすがりのレストランへ。
もとい、通りすがりで
英語メニューが出ているレストランへ入る。

あらかじめ読んだガイドブックには、
魚がPoisson(ポワッソン)で
飲物がBoisson(ボワッソン)なんて出ていた。
そんなん一夜漬けじゃわかりそうにない。
だいたいポワゾンって、毒じゃなかったっけ?
フランス語での注文は、ハナから諦めた。

席に着くやいなや、いきなり「食前酒は?」ときた。
もちろんレディーファーストなもんだから
ウェイターさんは私を向いて返事を待っている。
ふだんならビールといきたいところだけど、
ここはおフランス。そいつは失礼だろう。
予想もしてなかった先制攻撃に、正直焦ったぜ。
大慌てで、日本での古い記憶をたぐり寄せる。
「キール……
(なんか続きあったよな)……ロワイヤル!」
と唯一出てきた名前を叫ぶ。通じた。ホッ。
なんとかスマートにフランス飯をスタートさせた。
ダンナさんは「同じものを」とすまし顔。チッ。

ウェイターさんが去った後で
やっと落ち着いてメニューをひろげると、
キールロワイヤルは1杯10ユーロと書いてある。
食前酒で、最高価格の一品でございました。
しまった!
ふつうのキールなら、5ユーロだったんだー!
第一歩で、さっそく打ちひしがれた。
「ごめーん、
ぜんぜんロワイヤルの必要なかったとにさー」
なんとなく謝りながら、グラスを口に運ぶ。
「いや、ええよ、うまいし。
っていうか、せっかくやから楽しもうや」
うん、でもね、なんか……。
あぁもう、落ち着かねぇよっ!


そのとき、隣にカップルが座った。
食前酒はなにを頼むのか、気になった。
「コカ・コーラ」
「アグア」
ん、アグア(水)?
そんなんでいいの?
っていうか、それってスペイン語、じゃん!

(つづく)


カナ






『カナ式ラテン生活』
湯川カナ著
朝日出版社刊
定価 \700
ISBN:4-255-00126-X



ほぼ日ブックスでも
お楽しみいただけます。

もれなく絵はがきが届きますよ。

2002-11-26-TUE

BACK
戻る