KANA
カナ式ラテン生活。
スペインは江戸時代の長屋みたいさ、きっと。

 
【絵はがき、出します!】

オラ!
11月1日、『ほぼ日ブックス』として
この連載が出版されることになりました。

今回は、本が出ることについての経緯と思いと、
それにお礼とを書かせていただきますね。


第2次ベビーブームのなかに生まれた私が
ハチマキしめて受験戦争をし、
ハナモチならない女子大生になり、
ハングリ子と呼ばれるほどガツガツ生きて、
ハナバナしくネットバブル長者になる直前で
「どうやら太陽が足らんとばい」と、
ハイテイでツモったダンナさんとふたり
ハールバル来たぜ、スペインへ。
という話を、連載の初回でさせていただきました。

こう書くと、なんだか
"夢を追って海を渡った"コロンブスのようだし、
「いいね、夢があって」とも言われることもあるけど、
実際は、そんなかっこいいものではなかったんです。
ただ、逃げてきたんです。
逃げ場のないところへ。


私も、それにダンナさんも地方出身で、
大志を抱いて東京に出てきました。
私は在学中ずっと、司法試験に取り組んでいました。
その一方で、バイトで毎日していた麻雀で
ヤァ雑誌に出たんだー、なんちてよろこんでました。
バンドもやったし、学生起業にも参加したりして。
その結果、当然ながら
目標だった司法試験の在学中合格はできませんでした。
可能性は、ないわけじゃなかったのもしれないのに。

でも、私にはたくさんの言い訳があったんです。
「バイトも忙しかったけんね」
「大学は、社会勉強ばするところたい」
たまたま縁あって大手インターネット検索会社の
立ち上げにかかわったことが、言い訳を増やしました。
「ストックオプションで、億万長者になるげなって」

たのしい仕事でした。
日本のインターネット界が急に大きくなるときで、
その旗手的存在の会社が誇らしくもありました。
でも、ふたりだったオフィスに数十人が溢れかえり、
どう考えてもやってきた労働に釣り合わない金額を
手にするという夢のような話が現実になったとき、
ちがう、と思いました。
現実味のない話が、気持ち悪かったのかな。
それとも夢が実現しそうで、怖くなったのかな。
司法試験のときと、同じなのかもしれない。

どうも、私はだいじなところで逃げてしまう。
そして、私にとって東京は逃げ場が多いみたい。
夜も明るい、便利な、色とりどりの場所。
実感なしに生きていくことが、簡単にできちゃう。

一緒に生活していたダンナさんと考えて、
逃げ場のないところで、
ふたりでゼロからやってみることにしました。
結婚すること、スペインに行くこと。
そして、私はずっと夢だった文章書きをはじめること。
ダンナさんは
「俺は夢とかまだようわからんから、
 お前がやりたいことがんばれるように、働くわ」
と、涙の出るようなことを言ってくれました。
(本人は覚えてないらしいのだけれど)


翌年、ダンナさんがスペインで働きはじめ、
私は日本でライターとしての仕事をはじめ、
その次の年に、スペインでの生活がはじまりました。
ことばもわからずへこたれることもあったけど、
とにかく今度は逃げずに
書くことだけは続けようと、
ちびちびとHPを作っては毎週更新していました。

こうして約1年ほど経ったころほぼ日を知り、
センサー会員になり、読者としてメールを出したら、
思いがけずdarling糸井さんから返事を受け取りました。
その日は、キャアキャア叫びながら
バッタバタ飛び跳ねて、大騒ぎしたんだった。
その数ヶ月後、
ほぼ日でやってみる? と誘ってもらったのでした。

もんのすごく、不安だった!
知名度も専門知識もなにもないんです。
ひょっとしたら全然ダメかもしれない。
そうしたら、立ち直れないかもしれない。
日本では元同僚がマンション買ったという話も聞くし、
「あーあ、会社に残っとけばよかったのに」っていう
いちばんイヤーな結論になっちゃうかもしれない。
でも、逃げるのだけはいかん。
今度こそ、逃げちゃいかん。
幸運の女神は前髪だけしかないというから、
つかみそこねたら後から追いつくことはできないんだ。

こうして、ほぼ日の読者だった、まったく無名の私の、
『カナ式ラテン生活』がはじまりました。
カナって誰やねん! ちゅう話ですよね、ホント。

機会を与えてくださった、
またいつも最良のタイミングで最高のことばをくれる
darlingと担当の木村さん、
ほぼ日スタッフのみなさん、
そして『ラテン生活』を読んでくださり
時間と通信費までかけて読んで感想を送ってくださる
読者のみーなーさーんっ! には
お礼のことばもありません。
だからスペイン式で、叫びます。
Muchas Gracias!!(むっちゃ、グラシアっす!)



この『カナ式ラテン生活』が、本になります。
イラストを担当したのは、
スペイン在住の友人、MIHOちゃんです。
プロのイラストレーターじゃないけど、
国際結婚してちびっこちゃんとともに生活する彼女は
ほんとうにスペインを肌で感じているひとです。

無名なことにかけては、
私たちは自信をもってナンバー・ワンです。イエーッ!
そこらにいる、ただのねーちゃんふたりです。
「よっ、べっぴんさん」
と飲んでいたバルでお世辞を言われようもんなら
「いま、私に向かって言ったよね」
「なに言ってんの、私にきまってんじゃん」
とみっともないケンカする、アホウなねーちゃんです。

そんなねーちゃんたちの本を、
買ってもらえるでしょうか?

この本は、アホウなねーちゃんなりに、
ウソをつかないことだけには気をつけて作りました。
私はやったり見たりしたことだけしか書いてないし、
MIHOちゃんは知らないものを描いたりしていません。
現代スペイン語会話なんていうコラムも入れましたが、
ナンパやケンカの仕方から俗語集まで、
辞書にはないかもしれないけど
いまのスペインで実際に使われている表現ばかりです。

でも735円といえば、コンビニで
おにぎりとカップ麺とウーロン茶と雑誌とプリンを
買うことができる金額です。
「そのお金で『カナ式ラテン生活』を買ってください」
と気軽に言うことは、まだ、できません。


だから、ひとつ、私が提供できるオマケをつけました。
スペインから、お礼の絵はがきを出します!

ほんとうは、買ってくれるひとには
ひとりひとりチュウしてお礼をしたいくらいだけど、
それは無理なので、せめて絵はがきでお礼を伝えます。
スペインから、ラブレター・フロム・カナだーっ!
(言っちゃった……)
親身になってバカな本を作ってくださった川瀬さん、
朝日出版社のみなさんに、お礼を申し上げますっ。


というわけで、よかったら、ぜひ
『カナ式ラテン生活』を手に取ってみてください。

ゲラゲラ生活ってやってみたら難しくなかったとか、
一日五食昼寝付きもやれちゃうもんだぜとか、
同じアパートの住人たちよ、なんでこうなるの? とか
そんなふつうの、でもたのしい生活の話です。
日本と時差8時間のところにある、
のんびりした、えらく人間的な、スペインが舞台です。

手に取ってみて、もしいいかもなと思ったら、
ぜひ買ってください。
そんでもってもし買っていただいたら、
ぜひ読者はがきを送ってください。
スペインから、お礼の絵はがき、贈ります。
指紋とか汗とかベタベタつけて、送ります。
できるだけきれいな切手を、貼ります。
お礼のきもちを、いっぱいこめて投函します。

絵はがき、出しますっ!

2001-11-01-THU

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