KANA
カナ式ラテン生活。
スペインは江戸時代の長屋みたいさ、きっと。

 
【明日できることを今日するな!?】


オラ、アミーゴ!
今日も、平気で前言を撤回してるかい?

もちろん、ラテンなここではそんなの当たり前。
必ず昨日来ると一昨日約束した大家のフェリス親子も
平気な顔をして今夜こそ必ず行くなんて言っている。
というのも、
給湯器が壊れちゃったのでどうしようと相談したのだ。

結局、
日曜に頼んだら月曜に行くからと満面の笑顔で約束し、
火曜の夜にやってきて「まかせとけ!」と胸をたたくと
力まかせに給湯器を解体する荒療治。
水曜の夜も修理したけど湯ばかりか水まで出なくなり、
また来ると約束した木曜と金曜は音沙汰なしにつき
こちら再び断水生活。
土曜にプロの修理工さんを連れてやってきて
「俺らはプロじゃないから、わかるわけないさ」と
当たり前の顔して言い放った。

お見事!

スペイン人はとにかく頑固で
自分の主張を簡単には曲げないけれど
(火曜日にプロを呼ぼうと言ったら断固拒否した)、
こんなかんじで
その主張自体が日によってまったく違ったりする。

だいたい、NATO(スペイン語では"OTAN"オタン)に
加入するかどうかなんてだいじな政治的問題ですら
当時の首相は就任するや方針を180度転換し、
それを記者につっこまれると
「あぁ、昔は俺さ、間違ってたんだよな!」と
あっさり前言を撤回したという。


え?
そんなのは武士の精神にもとるって?
いやほらそれって武士じゃなければさ、
二言も三言もあってもいいんだよね?


先日、アメリカのブッシュ大統領がスペインに来た。
それに先駆けて
マドリー市内では約3000人によるデモが行われた。
なんのデモかって?
「アメリカが主導する
経済のグローバル化反対、
再軍拡("スター・ウォーズ"と呼んだりする)反対、
京都議定書離脱などの動きに反対!」
と主張するものだ。

京都議定書のこと、かわりに怒ってくれてありがとう。
でも"経済のグローバル化反対"って……。
うーん、ラテン。

彼らは、ブッシュ大統領の訪問先でも集団になって
元気よくシュプレヒコールをしていた。
ところが、
彼らとロープ1本を挟んだだけのところに
まったく雰囲気の違う団体が集まっている。
彼らが手にしたプラカードは、"I LOVE BUSH!"。
こちらはアメリカを愛するひとの集まりなのだ。

デロンとゆるく張られたロープ1本を境に、
主義主張の完全に対立するひとたちが集まっている。
でも、べつに彼らは諍いをおこすこともなく、
ロープを挟んで笑いながらなにか喋ったりもしていた。

「まったくもって破廉恥きわまる!」
と、武士なら打ち首になったりするのだろうか。
私はニュースでその映像を見て、
「まったくもってラテンきわまる!」
とゲラゲラ笑ってしまった。

よかさよかさ、ひょっとしたら同じ
レアル・マドリーのファンかもしれんもんねぇ。


ニュースといえば、
こちらには"人形劇ニュース"というテレビ番組がある。
政治家やスポーツ選手や文化人、
それに皇室やパパ(ローマ法王)まで人形にして、
かなり意地悪な視点でニュースの本音を語らせるもの。
政治家はともかく、
国王の人形だって馬の被りものをさせられたりするし、
ローマ法王だって
つんつるてんのパジャマ姿にさせられたりする。
とにかく、天下御免のおちょくりよう。

ごくふつうの日本人の感覚を持っているであろう私は
「えーっ、そこまでしてもよかと?」
と、たいそうビクビクしていたんだけど、
べつに誰も慌てたり文句を言ったりはしないらしい。

そういえばこちらのホアン・カルロス国王、
スペイン国内のみならずフランスなど外国で行われる
サッカーやテニスの試合の観戦にもよく出かけるし、
ときにはコートに降りて選手と肩を組んだりもする。
これぞ開かれた皇室、
というか、ただのスポーツ好きのおっちゃん?
さらには
昨年だったかな、あるスペイン映画のラストシーンに
工事現場用のヘルメットを頭にのせて出演したとか。
……ただの出たがり屋さん?

まったくもって、ラテン、きわまれり!


ラテンきわまるといえば、
なんとスペインには
"明日できることを今日するな"という
世界の趨勢に完全に反するグウタラな諺が
案の定、あったりするらしい。

ところが辞書を見ているとその反対
"今日できることを明日に延ばすな"という、
そういえば英語の授業でも習ったことのある
まことにもっともな諺もスペインにはあるという。

こりゃいったいどういうこっちゃねん。

さっぱりわけがわからんので
黒目がちの瞳が美しいスサナに
いったいどっちが本当なのかと訊ねてみた。
すると彼女は人懐っこい笑顔を浮かべて曰く、
「どっちもあるよ」
と、あっさり驚きの回答をしてくれた。

「"明日できることを今日するな"も
"今日できることを明日に延ばすな"も、
どっちも実際にある言い回しだよ。

うーん、どっちが一般的と言われても、
どっちも、かなぁ。

たとえば親とか上司だったら
"今日できることを明日に延ばすな、って言うだろ"
ってよく使うだろうし、
出来の悪い子どもや部下
あるいはアンダルシア出身のひととかだったら
"明日できることを今日するな、って言うでしょ?"
って言い訳するだろうし。

私は出来の悪い子どもで部下だから
"明日できることを今日するな"の言い回しの方を
よく使うかな。

どっちが正しいとか本当とかじゃなくて、
どっちがそのとき便利に使えるか、
それだけのことよ」

だって。

なるほど。
なるほどっていうか、
うーん、ラテン!
ラテンっていうか、
うーん、人間!!


こうなったらもうあれ、ビールで乾杯だ!
もうすぐダンナさんもシエスタから起きるだろうし。
あっ、洗濯物忘れてた……。
まぁいっか、こんな湿度20%台のところじゃ
室内に一晩干しておけば乾くもの。
この楽しい気分のいま、いますぐ乾杯しようっと!

ということで、今日使う言い回しはこっちに決定。
"明日できることを今日するな"

ビバビバ!
いいぞ、ラテン人生!!

2001-07-02-MON

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