KANA
カナ式ラテン生活。
スペインは江戸時代の長屋みたいさ、きっと。

 
断水!そのときラテン人は。


オラ、アミーゴ!

我が家は今、断水中さっ。
蛇口をひねればいつも水が出てくるなんて
甘い考え、ここじゃ通用しないのさ。
だって、ここはラテンですもの!

寝起きの顔は洗えなくてモヤーっとしてるし、
目覚めのカカ(ウン○)は
白い便器の中をプカリと漂いつづけるし、
その手を洗うこともできやしないんだけど、
こんなときは迷わず
向かいのマテオじいちゃんちへ。

「セニョール・マテーオッ!いる?」

ドアが開く。
あら、息子のアルフォンソじゃん。
久々の若い男で緊張するぜ。
しかも、優しくて誠実な雰囲気のアンチャンなのさ。

「どうした?」
「あのね、水、使えてる?」
「あぁ、うちもダメだよ。
 どうやら前の道路の水道工事で
 やっちゃったみたいだね」
「にゃんだー。
 じゃ、また寝るか」
「でも工事、いつ終わるかわかんないよ。
 スーパーで水でも買っとけば?」
「だいじょうぶ、
 ビールならいっぱいあるから」
「じゃ、今夜はビールでシャンプーだ!
 明日会ったら、金髪になってたりしてな」

現役または元ヤンキーのみなさん、
スペインでも"ビール脱色"、してまっせ。


ひとしきり笑ったあと、
家に帰ってベッドにもぐりこもうとしたら、
今度は我が家のドア・チャイムが。

「こんにちは!
 カナさん、また寝てたでしょ」

イバンだ。
下の階に住む彼、これくらいの日本語なら
問題なく流暢にしゃべるのだ。
ちなみに中山美穂のファンで、
自身は尾形大作顔した"村の青年団"風のあんちゃん。

イバンが知らせてくれたのは、非常用水配布の開始。
彼はglobeの曲をあやしく口ずさみながら、
エレベータなしオンボロアパート4階の我が家まで
水の袋を運ぶのを手伝ってくれた。

オンボロ長屋の"ご近所ぢから"を実感した一日。



我が家では断水はめずらしいんだけど
(それにしても事前告知はなかったぞ!)、
べつにそれほどヤな気分じゃない。

あ、断水だ。
ヤッホウ、マテオじいちゃんちを訪ねる
口実ができたワン。

それだけ。

アルフォンソも、笑ってた。
「ひでえなぁ」って言いつつも
「もし今夜12時まで断水が続いてたら、
 みんなでパーティーでもしようぜ!」なんて。
イバンも、笑ってた。
「ダイジョブダイジョブ、
 カナさんは顔を洗わなくても美人だから」
なんて調子いいこと言っちゃって。

非常用水配布所で会った
近所のじいちゃんばあちゃん子どもたちも、
みんな笑ってた。
最後の1袋を私に手渡して立ち去ったおばあちゃんは、
「ありがとう!」
って叫ぶ私へクルリと振り向くと、
とっても大きくて可愛い投げキッスをくれたんだ。


今日のような突然の断水に、停電や工事、
ほかにも
電気の切れてる信号とか、
店に並んでいるレジの半分以上が故障中とか、
組み立て式家具のパーツが足りないとか、
銀行のシステムがダウンしてるとか、
スペイン米の袋の中に石や木片が入ってるとか、
"骨なし鶏モモ肉"にぶっとい骨がついてるとか、
そんなことは、もうしょっちゅう。

最初はワーワキャーキャ、
「信じらんなーい!」
なんて騒いでたけど、
だんだんその"人間くささ"が
おもしろくなってきちゃった。

パーツを入れ忘れた家具やさんは、
ロベルト・カルロスの華麗なFKを思い出して
ぼーっとしてたのかもしんない。
骨を取り忘れた肉屋のあんちゃんは、
気になるあの娘にオミマイする
魅惑のウィンクを特訓中だったのかもね。

そうユルく考えるだけで、
いろんなことが、
ずっとラクになっちゃうんだよなぁ。
不思議、不思議。


さぁ、今日はもうしばらく断水を楽しむとするか!

(結局、復旧したのは翌日夜9時でしたとさ)

2001-02-20-TUE

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