京都
「知りあいの宿」を
つくろう。



春を迎えた京都は、
桜の花が輝く季節ですね、
「旅館 銀閣」のサカベさん!


サカベ
桜も輝いていますが、京都は、
おばちゃんが輝いてます。
ほら、ごらんください。



── こ、この方たちは‥‥?

サカベ
京都では、商売屋のおかあさんたちが
それはそれは、にっこにこしてはるんですよ。
── ご夫婦で経営されているような
個人のお店が
飲食店でも販売店でも、
京都の町なかには、多いですね。
そんなご夫婦の、おかみさんが
にこにこ輝いている、と。

サカベ
はい。しかも、ご夫婦の仲が、とてもいい。
年がら年中、ずっといっしょやのに、
なんでなんやろねぇ?
お店のなかでは、お客をはさんで、
夫婦の、ものすごたのしい会話が
くり広げられるんです。
商売をなさっている京都のご夫婦はみな、
なかよしなんですが、
「あつあつカップル」にかけまして、
今日は特に、
お好み焼きのお店のご夫婦をご紹介しますね。


松原商店街にある「竹」のご夫婦。
なかよしです。
 

名物のお好み焼き。


たこ焼きもおいしいんです。
── この「竹」のご夫婦、
顔が似ていらっしゃるので
一瞬兄妹かと思いましたよ。

サカベ
ほんとに、ふしぎにねぇ。
── 「京女」というと、
しっかり者のイメージがありますが。

サカベ
みな、しっかりしたはりますね。
京都の女性は、寒いとこでくつ下3枚履いて
いっつも、ぐっと我慢してるからやろか。
── くつ下3枚‥‥。

サカベ
京都の人ってね、
顔はいつもにこにこしているから、
悪く取る人からは
「何考えてはるんやろ?」
というふうに言われがちなんです。
でも、京都の女の人は、もてなしの心を
ほんとうにいっぱい
持っているんです。
商売屋のおかあさんたちは特に、そう。
みんなが行くのを
家族のように待っていてくれたはります。

京都にはお好み焼き屋さんのように
小さい食べもの屋さんがたくさんあります。
京料理の「おいでやす」のもてなしとは
またちがう、
京都独特の和気あいあいであたたかい空気が、
こういう店にはあります。
名古屋から出張のたんびに決まった店に通う
サラリーマンの方やら
雑誌を見てお越しになった観光客の方やら
みんなのことを、おかあさんは、
待ってくれてはります。


五条壬生の「三喜(みき)」のご夫婦


焼きそばとお好み焼きがおいしい。


おかあさんが、おにぎりもにぎってくれます。
手のなかの白いごはんが見えないくらい、
すごい速度の回転なのだそうです。


おとうさんもね、みんな人がよくて、
ええ味があるんです。
でも、お店のカウンターの中にいる
ご夫婦を見ていると、
おかあさんがすごいんだなぁと、
やっぱり思います。
おかあさんがにこにこにこにこすることで、
店をきりもりしてます、というかんじです。
内助の功、ということなんですかね。
でも、これには歴史があるんですよ。
── というと?

サカベ
京都の千本に、
千本釈迦堂(せんぼんしゃかどう・大報恩寺)
という、鎌倉初期に建てられた
お寺があるのをご存知ですか?

── 建築の守り神として有名だと
聞いたことがあります。
ふむふむ‥‥本堂は、
京都でもっとも古いんですね。

サカベ
そうそう。
応仁、文明の乱からも
奇跡的に災禍を免れた、
京都最古の建造物として
国宝に指定されています。
その千本釈迦堂の本堂を建てるときのこと、
大工さんの棟梁がまちごうて
柱を1本だけ短く切ってしまったそうなんです。
── それは大ショックですね。

サカベ
大ショックどころか、
ありゃりゃーってかんじですよ。
── ありゃりゃーのほうが
軽いかんじがしますが。

サカベ
まあまあ、そのへんはおいといて。
でね、短く切ってしまった
それはそれは上等の柱を前に
呆然としていた棟梁の元へやってきたのが、
棟梁の奥さんである、おふくさんなんです。
そこで、
「柱を交互に組み合わせて
 枡組みにすることによって
 ちゃんとした長さの柱が
 できあがりますがな」
と、夫である棟梁にアドバイスをしたんです。
── ナイスアイデアを!

サカベ
出さはったんです。
── その柱は、いまでは逆に
名物になっているようですね。

サカベ
しかも、その建物が
長いときを経て火災にも遭わず、
とうとう京都最古の建物になったんですねぇ。
── なんと、縁起がいい!

サカベ

それからというもの、
京都では、家を建てる「棟上げ」の際に、
大黒柱に、おふくさんをあらわす
千本釈迦堂のおかめのお面を飾るんです。
このおかめのお面、
「棟上げ」の儀式用に、全国から注文が
千本釈迦堂に寄せられているんですよ。
これが、千本釈迦堂にある、
おふくさんを祀ったおかめ塚です。


全国の大工さんの信仰を集める。


2月に行なわれるおかめ節分会。
サカベさんによると、
ほとんど町内の人しかいないらしいですが、
狂言などがおもしろく、おすすめだそうです。

── おかめ塚は、建築家の人が、
よくお参りするということですが、
家庭円満にもご利益があるみたいですね。

サカベ

そらそうですわ。
このおふくさんが、
京都のおかあさんたちを代表する
内助の功の人ですもん。

── そんな奥さんがいたら、
だんなさんはしあわせでしょうね。

サカベ
京都のご夫婦は、
ほんまになかよしが多いです。
寒いしかな?
── サカベさんはどうもいろんな性質を
寒さにこじつけたがるようですね。
でも、京都のご夫婦って、
ちんまりしていて
みなさんかわいらしいんですよね。

サカベ
そうなんです。
こちらは、さきほどご紹介した
「三喜」に通っているお客さんなんですが。


「三喜」に毎晩通っているご夫婦。
「なんや知らんけどここに行くと
 いっつもいはる」そうです。
── このご夫婦も、
雰囲気が似てらっしゃいますね。
(おかみさんが奥でまだおにぎりを
 にっこにこして、
 にぎってらっしゃいますね‥‥)

サカベ
盆地に住んでたら似てくるんかなぁ。
このご夫婦もね、
しっかりにこにこしてはるおかあさんが
いつもきっちりとお支払いをしたはります。
おふくさんからつづいている内助の功が
かわらずにある、
京都はほんとに、いい街なんですよ。


ひととおり観光を終えたしずかな夜に、
路地で小さく並んだ背中を見つけると、
うらやましい気持ちになります。
京都の夫婦はみんな仲がいい、
そのなぞは、サカベさんの言うとおり、
京都の気候や風土と関係があるのかもしれません。
夫婦のかわいい会話の聞こえる店に、
にこにこ顔のおかあさんが
家族を待つような気持ちで迎えてくれる春の京都に、
出かけてみるのもいいかもしれないですね。

2006-03-23-THU

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