The Apple in My Heart 奈良美智さんの中へ、ほんの少し。

15 旅

糸井 内側と外側の話でいうと、
奈良さんの描く女の子って、
女の子側なのか、女の子を見てる側なのかが、
わかんなくなってくるんですよ。
女の子の側から世界をにらむこともできるし、
いい子だねって守ってあげたくもなる。
さっきの「家」の話もそっくりですよね。
小屋の中にある犬を覗くときも、
覗く自分として犬を見た瞬間に、
覗かれる犬になっちゃうじゃないですか。
目が合っちゃったりするでしょう。

奈良 うん、うん。
糸井 その構造が、ものすごく共感できるなぁ。
違う言い方をすると、奈良美智っていう人が、
みんなに知られないと獲得できなかったものって、
ものすごくたくさんありますね。
誰も認めない奈良美智っていう場合は、
内と外は作れないですもんね。
奈良 そうですね。
糸井 そういう意味では、奈良美智は、
作家にならなきゃだめだったのかもしれない。
奈良 どうなんでしょうね。
でも、いま自分は美術をやってるから、
いまの自分っていう人間があるわけで、
やってなかったら、違う自分っていうのが
またちゃんといたと思うんです。
糸井 別の奈良美智が。
奈良 ええ。よく思うんですけど、
ぼくは、学校の先生とかやってても、
けっこうそれなりに楽しくやって、
それなりに美しい出来事があったり、
それなりに感動したり、
それなりに生きてきてよかったなぁとか、
そういうふうになってるだろうと自分で確信できる。

糸井 どう生きようと、そういう自分がセットなんだね。
奈良 うん。どんな生き方をしてても、
たぶんそれをすごく楽しんでると思う。
苦しみも同じくらいの苦しみじゃないかなぁ。
いまは、たくさんの人から見られるよろこびと、
たくさんの人から見られる苦しみがあるけど、
ふつうに暮らしてたとしても、
町内の人から、よく見られるよろこびや、
悪く見られる苦しみなんかがきっとあって、
自分にとって、それは同じこと。
どんなふうでも、生きてたら
いまと同じような感じで生きてたと思う。
糸井 それは、二十歳の自分と相談してもそうだなっていう?
奈良 そうですね。
だって、ニール・ヤングも尊敬してるけど、
それと同じように、ときどき偶然発見する
こだわりの八百屋さんだったりとか、
毎朝、横断歩道で子どもたちのために
旗を振ってる緑のおばさんとか、なんかそういう、
なにかをずっと続けてるふつうの人にも
すごく惹かちゃうんですよ。
糸井 ずっとそうなんだね。
奈良 うん。美術をやってなくても、きっと。
糸井 バランスが変わるだけで。
奈良 うん。違うバランスになるだけで。
糸井 違う旅をするっていうことだね。なるほど。
奈良 とは思うなぁ。

糸井 そしてその旅の、原点のところにあるのは、
丘の上の「家」にあるように思いますね。
奈良 そうだねぇ。
糸井 その点から始まる旅の線って、無限なわけで。
奈良 うん。
糸井 この展覧会は、みんなに見てほしいですね。
最後にそういうふつうのまとめをすることもないけど、
これは、来たらいいと思う。
ぼくはやっぱりこれを大勢に見せたいなと思う。
奈良 来たらね、関わったみんながよろこぶと思う。
ぼく自身から言うと、
たくさんの人が来てくれるという事実よりも、
関わったみんなが、よろこぶような姿があれば、
どういう形でもいいなと思う。
たとえば糸井さんがこうして来てくれたことを、
みんながよろこぶなら、それはぼくにとってもよろこび。
ぼくがよろこぶことは、みんなにとってもよろこび。
そんなふうに思うんですよ。本当に。

糸井 うん。
どうもありがとうございました。
じゃあ、このへんで。
奈良 ありがとうございました。
ニール・ヤングの話、長かったですね(笑)。

糸井 ニール・ヤングを語る場所って他にないんだよね。
ひとりで聴くタイプの音楽だしなぁ。
奈良 『孤独の旅路』っていう歌もありましたね。
糸井 原題はぜんぜん違うんだよね。
『ハーベスト』に入ってる曲だね。
男はメイドが必要だって歌があるんだ。
その本音ぶりがすごくおかしいだろう。
『A Man Needs A Maid』。
奈良 ピアノの弾き語りですよね。
糸井 それが切なくていい歌でさあ。
恋の歌でもなんでもないんだよ。
あの歌、いい歌だよね。
奈良 いいですよね。



明日は、おまけの更新があります。
お楽しみに!



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2006-10-20-FRI

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