The Apple in My Heart 奈良美智さんの中へ、ほんの少し。

03 責任


糸井 どうなるかわかんないようにつくったとはいえ、
決まりがまったくなかったら表現にならないわけで、
たとえば色づかいだとか、質感だとか、そういうものには、
じつはちゃんと決まりごとがありますよね。
奈良 ああ、そうですね。
それはなんていうんでしょうね、
好きなだけでできる仕事じゃないから。

糸井 うん。それは重要なことだね。
奈良 人に見せる時点で、責任が伴ってくるわけで、
責任が伴った時点で、基本的な実力ってなければいけない。
なかったら勉強しなければいけない。
そんなふうにぼくは思ってて、
その点でいうと、自分はデビューが遅かったから、
いちおう、ずっと勉強はしてきたから。
糸井 そこに費やした時間が、いま噴出してるのかな。
奈良 でも、美大出て5年くらい美術を続けた人は、
そのくらいの実力は持ってると思うけど。
糸井 そのベースとなる実力が共通だとした場合、
そこからの個性やキャラクターというのは
どういうふうに違ってくるんですか。

奈良 まず、テクニック的なものっていうのは、
習得する時間の差はあるかもしれないけど、
誰でもあると思うんです。
ある人は要領よく1年で覚えるかもしれないし、
10年かかって覚える人もいる。
でもそれは、前提というか当たり前の部分。
個性やキャラクターというのは、
それをどうやって壊せるか、
どういうふうに壊すかということなんじゃないかな。
糸井 奈良さんの場合は、そういう個性を
出そう、出そう、としてる感じには見えないんですよね。
こうなっちゃった、っていう感じに見える。
奈良 ぼくの場合、デビューした当初は、
「へたくそ」って言われたんです。
それは、一般のお客さんのほうから。
いちおう、美術をやってる人からは
「うまいね」って言われてたんですが、
一般の人からは「うちの孫でも描ける絵だ」って(笑)。
言われるとわかってないなって思いながらも、
そう見えるかもなって、感じることもあったし。
だから、どう見られるかとかは
あまり意識はしてないですね。
とくに、作品ひとつひとつをつくっているときは。

糸井 作品ひとつひとつは意識してないけれど、
「見る場所」や「見せる場所」については、
ものすごく意識してますよね。
奈良 それはもちろん、しなきゃいけない。
それが人に見せる責任だと思う。
だから展示するのを人に任せることは絶対にしません。
どこで展示するにしても必ず自分で下見して、
自分で場所決めて、絵の場所やら何やら全部決める。
どういう視点でどう見せるかっていうのも、
本当は自分の表現方法のひとつ。
ここにこうやって立ったらこう見えるんだよ
っていうのを自然に誘導することは
おろそかにはできないですね。
とくに、今回の「A to Z 」では
そういう順路みたいなものがすごく大切でした。



※この日は特別に撮影を許可していただいたのですが、
 通常の「A to Z」は撮影禁止ですのでご注意ください。


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2006-10-06-FRI

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