53
矢沢永吉、50代の走り方。

第6回 30代以上の人たちは……。


「テレビではよくエーちゃんを見かけていたけれど、
 ほんとうに矢沢永吉さんのことを知るようになったのは、
 ほぼ日刊イトイ新聞が、きっかけだったんです」

そのようなメールを、いただいたことがあります。
今まさに「53」を読んでいるあなたも、
これまで想像していたのとはすこし違う矢沢さんの姿を、
ここで、目で追っているところなのかも、しれませんね。

「気合いとカリスマ」というイメージだけではない、
挑戦者や制作者としての矢沢さんの経験の積み重ねを、
ここでは、中心テーマとして特集していこうと思います。
秋までの連載、どうぞじっくりと、そして、ときどき、
すこし興奮しながら楽しんでくださると、さいわいです。

前回は、10代や20代のかたへの
ストレートなメッセージを、お伝えいたしました。
今日は、30代以上の方が、「おぉぉ!」と思って
くださるかもしれない内容を、お届けいたしますね。
まず、いただいているメールを、2通、ご紹介しましょう。







 わたしは、30代です。
 これからの人生を考えるとき、
 50代って「ちょっと先」のイメージなんです。
 そして、50代について私の持っている印象は、
 圧倒的に暗い……
「体が弱るだろう」とか、
 「親の介護が始まってるのかなぁ」とか、
 「やりたい仕事をできているのだろうか」とか、
 「自分のやりたいことを見つめる時間が
  果たしてあるのだろうか」とか……。
 だからこそ、これからの連載を楽しみにしています。
 少し先の未来に、希望が持てそうな気がしています。
 生きた経験と熱い言葉の響いてくるページ、
 これからもよろしくお願いします。
 (ぞりちゃん)



 うちの母は53歳です。
 母はいまも現役です。働くのが好きで、
 去年までは、女性タクシードライバーでした。
 今年からはグアムのレストランで、
 マネージャーとして
 現地のチャモロ人の人たちを
 まとめるために、毎日奮闘しています。
 なんせ、現地のパートの人は、
 「自分の子供が病気で大変なのにどうして
  目の前にあるレジのお金を持ってっちゃダメなの?」
 と、極端に言えば、そういう人たちを
 つたない英語でまとめるので、奮闘するのは当たり前。

 母をみて感心するのは、パワーと自立ぶりです。
 現在26歳のわたしからすると、53歳とは、
 「人生折り返しで、他人から楽しみをもらう時期」
 と、失礼ながらそう思っていたのに、母は違う。

 以前は、他の家とは違う母の姿を
 「落ち着かなくて不安だ!」と思いましたが、
 今では、一人の大人としてかっこいいなぁと思います。

 そんなやさき、矢沢さんが53歳と聞いて、
 「53歳って、まだ上を見て進んでいる歳なんだ」
 と生意気ながら妙に感心させられ、
 自分も頑張らなきゃと、背筋がのびてしまいます。
 そんなパワーのあるこの連載、
 これからも楽しみにしています!!

 ……最後に、うちの父は27年前、
 わけあって自殺しましたが父も矢沢さんのように、
 「人間の一生は、トーナメント戦じゃない。
  勝ったり負けたりをくりかえすリーグ戦だ」
 と言えていたらなぁ、と思う今日このごろです。
 母は、あした54歳になります。
 (匿名希望)

 




最初のメールのように、
「これから先のこと」について
漠然とした不安をかかえながらの30代の方は、
確かに(不況ですし)すごく多いことでしょう。

そんな中ですから、2通目のメールでの
「53歳でかなり現役のお母さん」
のように、実際に働きまくっている先輩たちから
刺激を受けることって、かなり多いのかもしれません。

キャリアをある程度重ね、この先に
どうしようかと考えている方の関心事は、
いま、「仕事とやりがい」になっているようです。
その他のメールも読んで、そう受け取っています。

今回の「53」は、仕事をずっとしてきた人としての
矢沢永吉さんの言葉に、ライトを当ててみたいと考え、
「これが、読んだ方の何かの役に立てばいいな」
と、3片のインタビューから、引用いたしました。

前回が10代20代を中心とした層に
読んでほしいものだったのならば、今回は
30代以上の方に、ぜひ読んでいただきたく思います。

単行本になっていない、音声インタビューの中から、
矢沢さんが考えている仕事の姿を掘り起こしていますので、
どうぞ、じっくりと、お楽しみくださいませ。








今までに挑戦をして失敗したことは、
それは、何度かありますよ。
エンジニアをとりかえて失敗したとか。
そのエンジニアの安易な仕事のおかげで
リミックスをやりなおして、
お金は1000万円かかったかからないだの……。
お金はかかるわ、精神的には大打撃を受けるわ、で、
そうなっちゃうこともあるわけです。

そこまでしてなんでやってんのかというと、
「色を変えたい」というのがありますからね。
おかげで、会ったこともない
プロデューサーとやったら失敗しただとか、
イチからやりなおしになったとか、
精神的にも、もう、メタメタになるし。
ところが、そこで安全パイを集めちゃうと、ダメ。
我々は、決められたワクの中でバチッと決める世界とは
違うところで仕事をしているわけですから。

だから、なんか未知なものに対して
「なんかねぇの? なんかねぇのか?」
って探すというのが……これは「いい」「悪い」じゃなくて
そういう職種だという問題だから、そういう意味では、
我々は、やはり、安全だけじゃダメなんですよ。

「コイツラ、もう二度と信用できない!
 もう、気心の知れてる人間とだけやる」
ってなったら、そんなの、
もうそのワクから、出られないじゃない。
もう、やることのスケールが見えちゃいますよね。

そしたら、自分がこれから作るものの色が、
はっきり、見えきっちゃうもん。

そりゃ、人間、安全なほうがいいよ……。
それに、ぼくは自分を大胆な男だとは思わないんです。
ぼくはほんとに気がよわくて、良く言えば繊細って言うの?
悪く言えば、こわいがゆえに、緻密に考えていないと、
心配だし、安心できないというほうなんです。

でも、考えて、考えて……
やっぱり、やらざるをえないでしょ?
うしろに下がるわけにはいかない。
おしすすめざるをえない時だからおしすすめる。
それが結果的に大胆に見えるんでしょうね、みなさんには。
……でも、世の中って、そんな感じしません?
ガンガン度胸で行ってるだけで、
「アタマあっぱらぱん」じゃ、何にもできないですよ。



              「YAZAWA'S DOOR」
             '96年の音声インタビューより








人は一瞬のハッピーで、また走れる。
若い頃に自分で言ったことだけど、
矢沢、すごくいいこと言ってるよね。

一瞬でいいんだ。
ほんの一瞬あったら、また、パーッと走れる。


3日も5日もハッピーが続くわけがないし、
また、そんなものは、ありがたくもないし。
一瞬のハッピーさえなかったら、
ストレスがかかって煮詰まってくるからね。
一瞬だけ「気分イイ」と思ったら、
「まぁ、来週いっぱいは、走ろう」とか。

こないだ、手紙で、
「永ちゃん、自分はリストラになりました」
というのを読みました。
38歳ぐらいの人だったかな、まだ若いよね。
「ガックリきてます」そう書いてた。
「でも、自分はギブアップしません。
 いま自分の目の前では、娘が無邪気にはしゃいでます。
 この子のためにも、ぜったいに負けません。
 自分は矢沢に頑張ることを教えてもらったから。
 ……今年の武道館も、目一杯はじけさせてもらいます」
そう、書いてあったけど、涙が出そうになった。
前向きを崩さないでずっとやっていたら、
好転する時は、来ると思うよ。精神力ですよ。

ぼくも「……どうしようか」と思う時はあった。
でも、ある時に、
「生きてるっていうのはゲームみたいなものなんだから、
 オレは矢沢永吉という役柄を演じて、こうなったら
 図々しく生き続けてやろう、やり続けてやろう」

と開きなおって考えてみたら、妙に、
あぁ、こんなもんかな、と思えるようになったんです。



               「YAZAWA'S DOOR」
             2001年の音声インタビューより








何かを解散してひとりで新しくはじめるのは、
それは、こわいです。

群れの中で一緒に渡るみたいなら、
こわくはないけど、実入りも少ないからね。
サクセスと一緒ですよ。

10人で成功したら、10人で分けなきゃいけないけど、
ひとりで成功したら、ぜんぶ自分のモノだもん。
そのかわり、ひとりで成功していく前の、
川を渡る勇気っていうのは、それはもう……。
みんなで「渡るべ渡るべ」って言ってる時はラクですよ。
でも、ひとりっていうのは孤独で。

怖くて、守りに入っちゃう人のことも、
わかるような気がします。
やっぱり、自分ひとりじゃなくて家庭があって、
人生は1回だから死んだらおしまいだし……
そういうのはぜんぶわかるような気がするけど、
でも、1回しかないんだからこそ、
自分の人生を、楽しんでもらいたいですよね。

何時から何時まではこう、みたいに
自分のことを決めつけないで、
なんかに夢中になっていく、って言いますか。

夢中になるものが少なくなっていくのが、
「トシを取る」っていうことなんですよ。

年齢とともに何が減っていくかっていうと、
「夢中になれるもの」が減っていくんだと思う。
熱くなれるものが、減っていくんだよ。
3つも4つもなくていいけど、ひとつぐらいは。
40歳なら40歳の、50歳なら50歳なりの、
「これに、夢中でさぁ……」
そう言えるおっさんって、なかなかカッコイイでしょ?



              「YAZAWA'S DOOR」
             '96年の音声インタビューより





それでは、次回のこのコーナーにつづきます。
感想メールなどくださると、とてもうれしいです。

2002-07-15-MON


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