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新宿二丁目のほがらかな人々。
おねぇ言葉や裏声とかで語る別角度批評。

旅に出ましょう。その2
スーツケースを見られてるのよ。

ジョージ むかし、あのー、なんだっけ?
作曲家の、加藤、加藤・・・
ノリスケ 加藤?
ジョージ 安井かずみ(作詞家、故人)の亭主。
加藤、なんとか。
ノリスケ 加藤和彦。
ジョージ っていう人がいて、
その人は、ルイ・ヴィトンでしか、
旅行しない人なの。
ノリスケ はい。
ジョージ んで、家の中に、
ルイ・ヴィトン部屋っていうのがあって、
洋服を買うときに必ず、
二着ずつ買うんですって。
ノリスケ うんうん。
ジョージ で、買ったらば、一着はルイ・ヴィトンの中に、
しまい込むの。で、いつでも、
自分のお家のワード・ローブと同じのが、
再現できるように、
どこそこ行く用のルイ・ヴィトン、
どこそこ行く用のルイ・ヴィトン、
っていうのを持ってたらしいのよ。
ノリスケ へーえ。
ジョージ で、僕は、そこまで行けないですから。
ノリスケ そぉねー。
ジョージ 僕、生まれて初めて
ルイ・ヴィトンのスーツ・ケース買ったのが、
24歳のときで・・・
ノリスケ おお、若いよ(笑)。
ジョージ 欲しかったの。そんときに、
ルイ・ヴィトンの人に、
あの、お客様、これ重いですよ。
って言われて、持ってみたの。
ほんっとに重いんだよ。恐ろしく重いの。
で、なんでこんなに重いんですか?
って聞いたらば、やー、うちのカバンは、
誰かに持ってもらうか、自分で持つか、
自分で持つにしても、
体を鍛えた人に持ってほしいんです、って。
ノリスケ あー。
つねさん すっごい・・・
ジョージ で、今の世の中で、
体を鍛えることっていうのは、
持てる人を雇うよりも、
お金と時間がかかることですから、って。
ノリスケ あー。
ジョージ そういうふうに考えてるんですよ。
って言われたときに、
んー、買ってやろう、って思った。
つねさん ッハッハハハ。
ノリスケ そんときは、鍛えてたの?
ジョージ ちょっと鍛えてた。
で、しばらくそれで、旅行はしたんだけど、
やっぱりダメでしたね。
で、やだな。って。
ルイ・ヴィトンで旅行するのって、
賢くなさそうだな。って。
きっかけが、何年前だろうな?
7、8年前に、ハワイから帰ったときに、
バブル・スターって、
当時、絶頂期だったんだよ。あのー・・・
ノリスケ バブル・スターって、なに?
ジョージ 通販・・・
ノリスケ あっ、わかった! あのー、お風呂に・・・
ジョージ お風呂に、ボコボコボコ・・・
千葉真一とか、梅宮・・・
ノリスケ 社長、捕まっちゃったとこじゃない?
ジョージ そうそうそう。
つねさん そうそう、あったよねー。
ジョージ 捕まる前だよ。その夫婦が、
ルイ・ヴィトンのスーツ・ケースばっかり
10個、乗っけて、降りてきたの。
それ見たときに、あー、これって、
ダメなんだー。って思ってやめた。
ですから、んとー、じゃあ、
今日のほんとうのテーマ。
‘エレガントで機能的な旅行の旅支度’。
つねさん ヌハハハハハハ。
ノリスケ ハッハッハッハッハッハ・・・確かにね。
だって、ほら、なんだっけ?
あの映画、タイタニック。
つねさん はー。
ノリスケ の、最初のシーンは、あの、お婆ちゃんが、
金魚鉢まで持って来てたでしょ?
ジョージ ババアね。バカよ、ほんとに。
ノリスケ ほんとに。
ジョージ うん。
ノリスケ 写真立てとか、持ってくみたいね。
つねさん あー。
ジョージ あ、写真は、持ってくよ。
僕、持ってくもん。
ノリスケ まあ、その話は、いいや(笑)。
機能的な旅支度ね。
機能的になると、自分で持てなきゃいけない、
ってこと?
ジョージ そう。自分で持てなきゃいけない、ってこと。
つねさん ほー。
ジョージ とくに、若いうちの旅行っていうのは、
何から何まで、自分で面倒を見る旅行っていうのを
幸せだと思うのね。
つねさん うん。
ノリスケ バック・パッカー。
ジョージ そうそう、バック・パッカーっていうか、
エレガントなバック・パッカー気分っていうの?
ノリスケ うん。身ひとつで、っていう感じね。
ジョージ ただ、バック・パッキングで、
ホテルにチェック・インしても、
素敵じゃないんだよね。
ノリスケ うん。
ジョージ でね、黄色いお猿さんが行くわけだから、
黄色いお猿さんでも、
あんた、なかなかできてるじゃん。
って、言ってもらわなきゃ。
たとえば、同じ値段の部屋でも、
景色のいい部屋が貰えるか貰えないか、
っていうのは、すごく・・・
つねさん あ? そうなの。変わっちゃうんだ。
ジョージ 変わっちゃう。
だって、身なりで、見るもん。
ノリスケ 確かに。足元見られる。
ジョージ 日本のホテルっていうのは、
靴と時計を見るんですよ。って言うの。
つねさん あー、あー、あー。
ジョージ まず、入口のところで、
いらっしゃいませ。って
お辞儀して足元見たときに、
綺麗な靴か汚い靴か?
で、チェック・インするときに、
サインして下さいって・・・
つねさん っていうときに、左手、見て?
ジョージ そう。腕時計を見るの。
つねさん あー。
ノリスケ そうか。
ジョージ だけど、欧米の感覚では、これは、ないの。
つねさん そーなんだー。
ノリスケ そういうことじゃないんでしょう?
もっと・・・全体なんじゃない?
ジョージ だって、ロレックスしてればお金持ち、
って、間違ってるわよね。
ノリスケ ロレックスしてるからお金持ち、っていうの、
今、ないよねぇ。
ジョージ だって、ロレックスより高い時計、
山ほどあるもの。
ノリスケ これは、どこ? コルム(Corum)?
ジョージ 違うー。ブランパン(Blancpain)ですっ。
いちおう、リミテッド・エディションですっ。
世界で百本しかない中の81番。
ノリスケ 派手ねえ。
ぼくはいつかはパテック・フィリップ。夢ね。
ジョージ パテック・フィリップ。
いい時計ですよね。
ノリスケ いい時計。とっても憧れよ。
似合うようになりたい。
ジョージ だけどね、そういうのっていうのは、
んーと、符号として、あんまり、
目立たないんだよね。
ノリスケ そうね。地味なくらい。
ジョージ 靴っていうのも、符号として、
あんまり目立たないんだよ。
たとえば、んとー、日本の場合には、
革靴を履いていれば、この人はお金持ち、
って思うの。これって、いつの時代の話よ? って。
つねさん あー。
ジョージ 革靴より高いスニーカーが、
山ほど売られてる時代に、
革靴を見て、腕時計見て、
客を値踏みするでしょう?
だから、そういう常識は、
一切忘れましょう。
で、欧米の人たちっていうのは、
やっぱりカバンだね。
つねさん そうなの?
ジョージ それも、スーツ・ケース。
ノリスケ そうなんだ。
ジョージ あのー、いちばん最初に、
ベル・ボーイに渡す、スーツ・ケース。
で、ベル・ボーイが、とりあえず、
それは、ほったらかしといて、
自分の仕事してればいいんだ、
って思うようなスーツ・ケースもあるんだよ。
これが、ほとんどの日本人が持っている、
サムソナイトのスーツ・ケースであって、
こんなの持ってたらね、
チェック・インするときに、
ベル・ボーイは、フロントまで来ないよ。
つねさん ふん、ふん。
ジョージ で、フロントの人たちっていうのは、
ベル・ボーイが付いてくる客を、
一生懸命見てるのね。
ノリスケ にゃるほどね。
ジョージ で、ベル・ボーイは、
どういうスーツ・ケースを持ってきたがるか、
っていうと、まずは、
いちばん最初に言ったみたいな、
ルイ・ヴィトン系の、
コロコロの付いてない、とっても重い・・・
ノリスケ 当然だよね。
ジョージ そ。これは、当然だね。
だけど、このカバンを運んだベル・ボーイが、
そのお客さんがチェック・インしてる部屋が、
いちばん安いカテゴリーの部屋だったら、
ブン投げて帰ってくんだよ。
つねさん ハッハッハ。
ジョージ あ、こいつ、カバンだけ、いいんだ。
って思ってね。ね? ほんで、その次の出番が、
欧米の人が、素敵だな、って思う
スーツ・ケースがあるの。
つねさん はー。それ、どういう?
ジョージ リモワとグローブ・トロッター。
ノリスケ ゼロ・ハリバートンじゃないの?
ジョージ ゼロは、重いだけ。
ノリスケ 重いよねー。
ジョージ ゼロっていうのは、
セールス・マンのカバンなんだよ。
ノリスケ 中身なくても重いよね。
つねさん そうなんだ。じぇんじぇんわかんないや。
ノリスケ 重い。それから、NASAがさ、
月に持って行ったみたいな話でさ、
こう、ドラマ、ストーリーを
売ろうとしてるんだけど、持ってごらんよ。
ジョージ そう。重いよー。
ノリスケ リモワって、小指で持てるでしょ?
つねさん 軽いよー。持てる、持てる。
ジョージ うん。ゼロ・ハリってね、
んとー、15階建てのビルの屋上から
落としても壊れない、っていうのが
売りなんだけど、
カバンは壊れないけど、
中に入れてるものは壊れる。
つねさん そっか。
ジョージ で、リモワっていうのは、
カバンは壊れるけど、
中に入ってるものは壊れない、
っていうのが、売りなんだよね。
ノリスケ つまり、カバンは
デコボコになっちゃうんだよね。
ジョージ そう。で、んと、リモワとか、
グローブ・トロッターを見た瞬間に、
ポーターは、
あ、この人っていうのは、どうなのかな?
って思うの。
つねさん わきまえてる?
ジョージ 、流行にも敏感だし、
自分のお金を賢く使うのに、
ものすごく・・・
つねさん 長けている?
ジョージ そう。そういう人なのかなー、って思うの。
この人はいったい、どういう部屋に
泊まるんだろう? って思って、
ベル・ボーイは持ってきたくなるの。
で、プラス、その人が、手荷物で持っている、
もうひとつのカバンなんだよね。
で、女の子の場合は、ケリー・バックです。
無理してもケリー・バックを買って下さい。
つねさん ハッハッハ。
ノリスケ それは、どこに行くのも、
いっしょ? リゾートに行くのは、違う?
ジョージ リゾートに行くときには、
トアル生地のケリー・バックを持って下さい。
ノリスケ なるほどねー。
ジョージ あるいは、あの、トゥール・フォーでも、可。
ノリスケ 可。
ジョージ 可っ!
んー、三歩引き下がって、
プラダとグッチ。黒。これは、可。
ルイ・ヴィトンは難しいね。
つねさん あー。
ジョージ あー、ちなみに、余談ですけど、
あのー、ルイ・ヴィトンのカバンを持って、
アメリカを通関しようとすると、
必ず税関のところで、ひっかかります。
ノリスケ おー。
ジョージ かなりの確率で。
つねさん はー、はー。
ジョージ アメリカの税関の連中っていうのは、
金持ちカバンはルイ・ヴィトンしか
知らないですから。
で、ルイ・ヴィトン持ってると、
こいつは買い物に来たんだ、
と思って止められます。
つねさん あー。
ノリスケ いいことないじゃなーい。
ジョージ いいことないよ。
つねさん ほーだねー。
ジョージ だから、わし、ルイ・ヴィトン持って、
あんまり出ないの。
日本国内では、ルイ・ヴィトンですけど。
ノリスケ 国内ではね(笑)。
ジョージ ちなみに、あの、東南アジアに
ルイ・ヴィトンのカバンを持って行くと、
あの、ロビーに置いた瞬間にですね、
だれのカバンかわからなくなります。
みんなルイ・ヴィトン持ってますから。
これも、やめましょうね。
ノリスケ そゆこと知ってて、リモワ買ったの?
つねさん ぜんぜんっ。
ジョージ 私に、勧められるがままに。
ノリスケ そゆことだと思った。
つねさん それはあるけど、やっぱり、ねー?
あの、ノリスケさんリモワでしょ。
見たの、かわいかったんで。
ノリスケ 僕はね、あの、むかしの旅行雑誌でね、
独身で年をとって仕事を持った女の人が、
旅行カバンの特集で、
私の旅行カバンはこれです、っていうのが、
リモアの大型で、
そこにいっぱいステッカーが貼ってあったの。
それを見てなんて格好いいんだろう、
って思って。それで買ったの。
仕事で、一ヶ月単位で外国に行くことになったとき、
思い切って、最初のお給料の半分をつぎこんだの。
ジョージ あー。
ノリスケ でー、僕、ノリスケさん、
持ってんの見て、すごい欲しかったんだけど、
同じ型買うのって、すごいやだ、って・・・
ノリスケ もう、ない。型、変わっちゃったから、ない。
つねさん そうだよね。
ノリスケ うん。
つねさん で、たまたまね? こないだ行ったら、
とっても、なんかー、
かわいいカバンがあって、
あら、リモワ、みたいな。
ジョージ そそそそ。
つねさん いーよー。あれ、目立つし。
(つづきます)

※ほぼ日編集部より
今回はブランド名多いなー。調べました。
にゃあるほどねえ。
【腕時計】コルム
     プランバン
     パテック・フィリップ
【カバン】グローブ・トロッター
     ゼロ・ハリバートン
     リモワ

2001-04-29-SUN

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