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新宿二丁目のほがらかな人々。
おねぇ言葉や裏声とかで語る別角度批評。

それが青春、それが老後。その9
幸せな時代をあとから思い出すんだから。

ジョージ ばぁやさんが亡くなりました、
っていうのを聞いて、
お墓参りに行こう、って家族で行ったの。
その、ばぁやさんには
娘さんがいらっしゃって、
その娘さんのとこに行ったの。
で、けっこういろんな話をしたのね。
75、6歳で死んだのかな?
痴呆をわずらっちゃったんだよ。
ノリスケ 老人性痴呆?
ジョージ そう。で、その、老人ホームに‥‥。
ノリスケ 入れるしかなくなって?
ジョージ そう、特別養護。でね、そこでね、
週に1回ぐらい定期的に、
その娘さんがお母さんのとこを訪ねに行くの。
で、そうすると、店屋物を取るわけよ。
つねさん ふんふん。
ジョージ ある日お寿司を取ったんですって。
で、そのお母さん──
僕のばぁやさんだよね、
とお寿司を食べながら、言うんだって。
こんな粗末なお寿司を取って、
ああ、奥さまにしかられる、って。
奥さまっていうのが、ウチのお母様。
つねさん ゴージャスマミー。
ジョージ そう。んで、お見舞いの子どもたちが
騒いでるとね、
僕の名前を呼ぶんですって。
坊ちゃんが騒いでる。
しかりに行かなきゃ。って。
ノリスケ あぁ、教育係でもあったのね。
ジョージ 彼女にとって、彼女の人生の中で
いちばん幸せで楽しかった出来事は、
僕たち家族と一緒にいた時間らしいの。
痴呆になったときに、
いちばん幸せだった自分に
戻ったんだよね。
ノリスケ うん、そういうよね。
ジョージ そうすると、もう彼女の中には、
しかられるのは奥さまで、
しからなきゃいけないのは僕で。
つねさん 坊ちゃんで。
ジョージ そう。それで、あと妹2人いたから、
女の子を見ると、
必ず妹2人のどっちかの
名前を言うんだって。
つねさん へぇー。
ジョージ もっと大きくなって
キレイになってくださいね、
ばぁやはお婿さんが見たいです、
っていうふうに言うんだって。
ノリスケ せつないね。
ジョージ うん。
そういうのを考えると、
やっぱりなんか、
誰かと一緒に幸せな時間を過ごさないと、
老後ってボケても幸せじゃないのかな?
とかって思ったりするの。
ノリスケ そうよ、その通りよ。
ジョージ おやじとおふくろと僕と3人でね、
お墓参りに行ってその話聞いてね、泣いた。
泣いたんだけど、いちばん辛そうだったのが
ウチのおやじでね。
ウチのおやじのことは一切言わなかったの。
ノリスケ あははははははは!
思い出から消えてる。
ジョージ ウチのおやじはね、
自分の話がいつ出てくるか
ワクワクして膝を乗り出して
聞いてたのにね。
つねさん あははははは! それ、悲しい!(笑)
ジョージ そんでね、もうそれで終わりなんだよ。
で、おふくろも訊かなきゃいいのにさ、
あの、ウチの主人のことは、
なんか言ってませんでした?
っていったら、いや、ぜんぜん、って。
ガクーンって肩を落としてね。
つねさん そんなオチがくるわけね(笑)。
ノリスケ ちゃんちゃんっ(笑)。
ジョージ ん〜。でも、それだけね、
やっぱり、
男って存在感がないんだな、って。
おふくろはおふくろでね、
私って、そんなにしかってたかしら?
なんで奥さんにしかられる、って、
私、言われなきゃいけないのかしら〜?
とかって言ってたよ。
ノリスケ ほんとにしかってたんでしょうね(笑)。
ジョージ けっこうね、
不幸な女性だったかもと思うんだ。
ご主人に恵まれなかった人だし、
その当時で、もう再婚の人だったし。
ノリスケ 苦労なさったのね。
ジョージ たぶん、たぶん何か過去のある
女性だったんだと思うんだ。
だけどね、なんかね、
上流階級を気取ってる私たち?
の中に入ってきた、とても庶民的な人で。
たとえばね、魚の煮付けをすると、
残った煮魚、冷蔵庫に入れとくと、
煮こごりが美味しいじゃない?
つねさん 美味しいよね!
ジョージ で、あの煮こごりを、
炊き立てのご飯の上に乗っけて食べると、
すんごい美味しいでしょ?
ノリスケ あ〜〜! 美味しいよね。
ジョージ で、そういうのを、僕といっしょに
こっそり食べるんだよ。
食べてるの見つかると、
すっごいしかられるの、
おふくろに(笑)。
こんなもの食べさせて、とかって。
ノリスケ ほら、やっぱりしかってた。
ジョージ すっごいしかられるんだよ。
ノリスケ 彼女も、しかられてるのもわかってるけど、
煮こごりを食べる
お坊ちゃんのニッコリした顔が
思い浮かぶんだろうね。
ジョージ そうそうそう。
つねさん 両方あったのね。
ジョージ んでね、内緒で、食べるんだよ。
今日、奥さんは会合で帰ってこないから、
食べましょう、とかって、
デヘッ、って食べるの(笑)。
あとね、その、電子レンジが
はじめてやってきたときに‥‥。
ノリスケ はぁ〜、ハイカラだったね。
つねさん すごい。
ジョージ 大昔の電子レンジって、
電波局に申請を出すの。
ノリスケ やだわ、いつの時代の話なの。
電波障害起すから?
ジョージ うん。申請書がないと置けなかったんだよ。
つねさん へぇ、マイクロウエーブだ。
ノリスケ それ英語にしただけじゃないのよ。
はぁ! そんな時代があったんだ。
ジョージ で、そういう時代に入ってきて。
んで、彼女と、もうひとりね、
お手伝いさんがいたのね。
その子は若い子だったんだけど、
ばぁやさんは、もうぜんっぜん、
想像外の出来事だから。
火を使わないのに物が暖まるっていうのが。
ノリスケ イオンがぶつかって
加熱されるなんてね(笑)。
ジョージ そう。その、チンするたんびに、
拝むんだよ、電子レンジの前で。
こうやって(手を合わせる)。
ああ、ありがたい、ありがたい、って。
つねさん 神様なわけね。
ジョージ そう、ありがたい、って。
んで、それを見てたお手伝いさんがね、
まだ二十歳前だったと思うんだ。
ウチに帰って、自分のお母さんに、
今日、こうこうこういうことがあって、
スイッチを押して一生懸命拝むと、
食べものが温かくなって出てくる箱がある、
って話をしたら、
あんた、もう明日からそこに行くのは
やめなさい!! って。
その屋敷は変だ、
変なものが、たぶんある、って思って、
すっごい真剣に悩んだらしいんだよ。
つねさん 悪魔の館?
ジョージ そう。で、翌日、恐る恐るやってきて。
で、ウチの母にこうこうこういう話をしたら、
明日から行くな、って言われたんですけど、
私どうしましょう? って。
で、ウチのおふくろが、
電話かけて、直談判して、
明日からもお嬢さんをよこして下さい、
っていうことを言ったような、そんな時代。
つねさん へぇ〜! すごいね。

わはははは、悪魔の館だ悪魔の館だ。
つづきまーす。

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2004-04-09-FRI
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