和田安史さんのプロフィールはこちら
── 吊り編み機って、昭和30年代くらいまでは
大活躍していて
本来は高級肌着を編むための機械だったものが
車の座席シートとか
いろんなものを編んでいたって聞きました。
和田 ゴム長の内側の生地にも使ってたんよ。
── へぇ‥‥。

でも、その時代の吊り編み商品といえば、
なんといっても
60年代に一世を風靡した
VANジャケットの裏地なんですよね?
和田 あ、VAN知ってる?
── もちろんです。‥‥あの、調べてきました。
「みゆき族」とか。
和田 あのときはもう、すごかったな。
── 昭和を振り返るニュース映像にも出てくる
歴史的な大ブームの「裏」に、和田さんが。
和田 そのあとにもう一回、
PAPAS(パパス)ってブランドが出て。
── ええ、ええ。
和田 あそこも、吊りのトレーナーを作って
すごい売れてね。

いちばん多いときで
1200反くらい在庫あったもん、うち。
── 1200反というと‥‥。
和田 うちでは1反15メーター巻きやから、
1200かけて‥‥。
── ええー‥‥‥‥18000メートル?
つまり18キロ。すごい!
和田 ある時期に、生産が追いつかなくなって
大量生産のシンカー編みに
置き換えたことあったんやけど‥‥
お客さんから、えらい苦情が来たらしい。

ぜんぜんちがう、言うて。
── 和田メリヤスさんの54年の歴史の厚みって
あらためて、すごいんですね‥‥。
和田 まぁ、あっという間やったけど。
── 今の和田さんのように
吊り編み機を操作できるようになるのには
どのくらい、かかるんでしょうか。
和田 操作するだけだったら、3年、4年、5年。

ただ、いちから修理ができるとなると
20年はかかるって
先代の親父さん、よう言うてた。
── いま、この工場は何人で?
和田 ぼくとあとふたり、ぜんぶで3人。

一人前になったら、
50台から60台は面倒みれる、ひとりで。
── ひとり当たりの台数で
吊り編み1台当たりの少ない生産量を
カバーしているんですね。
和田 親父さんは、職長やったんや。
── 職長?
和田 つまり、機械を修理をしてまわるプロ。
── なるほど、それが職長。
和田 機械の前を通るだけで
「あ、これ悪いな」ってすぐにわかった。
── それは、どうやって‥‥?
和田 とか、振動とかで。
── へぇ、お医者さんみたいですね。
和田 ぼくも今は、このやかましい中で
「あ、これ悪いな」って、
耳を澄まさんでも、わかるようになったけど。
── おお!
和田 息子と、もうひとりの従業員に
「この音や?」って言っても
「聞こえない」って言うんや。
── ようするに、機械の異常を示す、
その微かな異音は
和田さんにしか、聞こえてない。
和田 そうらしいで。
── ちなみに今、音は‥‥。
和田 してない。
── そういう音が聞こえるようになったのって
いつくらいからなんですか?
和田 どうやろ? ここ10年くらいかなぁ。
── 10年。
和田 だから、30年くらい吊り編みやったら
聞こえるようになるんやな。
── 30年。
和田 親父さんからは
「一人前になるんは、20年かかるで」って、
よーく言われてたの。

けど、ぼくが40歳になったとき、
「あれ? もう、親父さん超えてるな」って
思うたことあったんよ。
── それは、どういう瞬間ですか?
和田 いや、機械を修理してるときとかな、
いろいろだけど、
「もう親父さん超えた」と思うたときに
むちゃくちゃ寂しかった。
── ‥‥そうですか。
和田 だって、目標なくなったんやもん。
── そうですよね。
和田 そんなもんやで。いつかわかるよ(笑)。
── ‥‥その後、和田さんは、
このように、自分の思いどおりに工場を作って。
和田 まぁ、他の人からしてみたら、
ぼく、ちょっとおかしいとこもあると思う。
── いやいや(笑)。
和田 おかしいとこもあると思う。
── いや‥‥この工場を、すみずみまで拝見して、
本当にすごいと思っています。

クオリティの高い生地をつくるために、
市販の部品を改造して、
ぜんぶ「それ用」に自作してるわけですから。
和田 以前、機械に自動化の装置をつけたかったとき、
ミノルタのカメラのなかに
いいのを見つけて、
「この機種の、ここの部品を10個ほしい」
って、カメラ屋さんに行ったんです。
── 部品というのは‥‥?
和田 フィルムを巻く装置のやつ、ビラビラ付いてる。
── ははー‥‥。
和田 したら、怒られた。
部品10個ってなんやって。
── カメラ屋さんは、
基本、カメラを売ってるわけですし‥‥。
和田 でも「今回だけ、これ渡すわ」って
一個だけもらって帰ったことあるわ。
── それって、どんな部品だったんですか?
和田 自動巻取りの装置を作りたくて。
── つまり、歯車的なもの?
和田 そうそう、そのミノルタのカメラの部品が
ちょうどよかったんよ。
── 和田さん、ミノルタというカメラメーカーの
特定の機種の中の部品が
「ちょうどよかった」ってことを発見するには、
他にもいろいろ調べてるわけですよね?

「これはダメだ」「これもダメだ」って。
和田 そうやね。
── さんざんそれをやったあと、
最終的に
「ミノルタのカメラのボディの中の部品」に
行き着くというのが、すごいです‥‥。
和田 たまたまやけども。
── 和田さんにとって「道具」ってなんですか?
和田 なんやろう‥‥信頼してるものやけどな。
── それは、すごく伝わってきます。
和田 日本が持ってる技術は、本当にすごいよ。
これは、もっとみんな、誇りもっていい。

でも、世界にも、すごいのたくさんある。
── 吊り編み機は、スイス製ですものね。
和田 ベンツ作ってるドイツも、すごい。
── 吊り編みの針は、ドイツ製でしたね。
和田 機械をつくるとき、鉄板加工するでしょ?

ドイツの人っていったら
鉄板を何年か野ざらしで置いとくらしい。
そしたら反ってくるんやて。
── 鉄板が?
和田 いくら鉄板かて、少し反ってくるんやて。

真っ直ぐなやつでも、
暑うなったり寒うなったりするうちに
反ってきて、
もうこれ以上は反らないというときになって
はじめて、切るんやて。

そうすれば、絶対に狂わへんのや。
── ああ、なるほど!
和田 だから、日本もすごいけど、世界もすごい。
ぼくの、これとかも‥‥。
── BAHCO‥‥バーコ?
和田 スウェーデン製。
── 魚と釣り針の絵が、かわいいですね。
和田 モンキーレンチは、絶対これがいい。
── どこがいいんですか?
和田 狂わない。
── それは、このネジの機構の部分が?
和田 鉄自体、優秀やと思う。
── つまり、いろんな状況下で、
温度とががちがったりしても大丈夫だと。
和田 他のだったら、思い切りちから入れたときに
「パカッ!」って開いて、
「ガチャン!」って滑ることあるんよ。

これ、滑らないんよ。滑ったことない。
── ははー‥‥。
和田 そういう道具、信頼してるな。
── 今後、モンキーレンチを買う機会があったら
バーコにしたいと思います。
和田 それと‥‥。
── ええ。
和田 六角レンチやけどな。
── はい、はい、あの六角形の。
和田 あれなんかは、スイスの「PB」がええわ。
なんでかいうと、永久保障や。
── へぇー‥‥。
和田 折れたりしたら、永久的に保障しますと。
つまり、交換しますと。
── 折れたことあるんですか?
和田 ない。
── ‥‥和田さん、まだまだ、やりたいことが
あると思うんですけど、
今は、何か開発されてたり、するんですか?
和田 あるけど、まだそこまで行ってないわ。
── それって‥‥。
和田 この工場を息子らに任せられたら、
専念しようと思って、置いてある。

あそこの箱の中に入れてる。
── これ?

(一同、事務所の隅になにげなく置かれた
 段ボール箱を一斉に見る)
和田 それ。
── 中を拝見しても‥‥。
和田 かまへんよ。

あ、でも、まだまだつくってる途中やから
写真は出さんでもらえたらいいな。
── わかりました。

(段ボールを開ける)

これは‥‥何らかの機械ですね。
和田 まぁ。
── 当たり前のこと言いました、すみません。

だいたい、30センチくらいでしょうか、
長方体でズッシリしてます。

あ、上の部分が左右にスライドしますね。
和田 うん。
── ‥‥これはいったい、何なのでしょうか。
和田 何やと思う?
── すいません、ぜんぜんわかりません。
まったく見当がつきません。
和田 ま、編み機の動きを制御する装置やな。
── へぇー。‥‥と、いいますと?
和田 夢みたいなもん、考えたんや。
── 夢みたいなもん。
中村 すいません社長、
これ、編み機に関係するもんですか?

(名古屋紡績の中村さん、たまらず乱入)
和田 編み機やで、これは。
中村 あ、ほんまですか。‥‥そのもの?
── ぜんぜん、そう見えませんけど。
和田 ま、これがひとつのきっかけなんやけど、
この装置がうまく行ったら、
その先は、針だけで編むことができる。
中村 針だけで編む?
和田 そんなのんが、できる。
── 針だけで編むというのは‥‥。
和田 今、編み機の針のまわりには
いろいろな部品が、くっついてるやろ。

これできたら、あれ、ぜんぶ外せるの。
── そういう意味ですか。
中村 外れなくて?
和田 ん?
中村 針しかなくて、その他の部品がなくて、
糸が外れなくて、編めると?
和田 うん。
中村 ‥‥社長、わかんないです(笑)。
和田 あれやで、
ぼく、そんなん言われたらよう言うんやけど、
ライト兄弟って知ってます?
── はい、知ってます。
和田 あの人らだって、近所の人から見たら、
「だいぶ変わってるな、
 あんな鳥の真似ばっかりやって」

と、言われてたはずなんよ。
── ‥‥でしょうね。
和田 最初はみんな、そんなもんなんよ。
── まわりの人が
ちょっと心配になるくらいの‥‥。
和田 この装置も、すぐには無理やけども、
息子らに工場のほうをあるていど任せられて
時間ができたら‥‥。
── また、徹底的にやられるんでしょうね。
和田 理論上、部品が要らんようになるんや。
── 楽しみです!
和田 もちろん今はね、「理論上」やけども。
実現に近づけるよう、努力しています。
── 和田さんなら、できちゃう気がする‥‥。
中村 社長、針だけで編めるのはいいんですけど、
生産性は上がるんですか?
和田 上がる。‥‥と思うけどな。
中村 それって、職人がおらんようになっても
回していけるってことですか?
和田 なるかな? ‥‥横で回す人が要るな。
── 人は要るんですね。和田さんのような人が。
和田 だから、未来の技術に合うた職人さんが
要るようになるんちゃうかな。
── 和田さんの頭の中にあることが
ぼくらには
1割もわかってないと思うんですけど、
今日は、
本当にかっこいいと思いました。
中村 いつごろのアレを目指してるんですか?
そのー、完成を?
和田 ぜんぜん未定(笑)。
中村 息子さんの代とか?
和田 いやいや、その時分になったら
針も要らんようになってるんちゃう?
── え!?
中村 針も!?
── すごいですね、それは。
中村 社長、そりゃないでしょう、さすがに(笑)。
── いや、でも、和田さんですからね、
もしかして、もしかすると‥‥。
和田 わからんよ? いや、ほんまに(真顔)。
<終わります>
2011-04-20-WED
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もくじ  
第1回 魔法のかかった編み立て機? 2011-04-18-MON
第2回 生まれは明治、進化の途中。 2011-04-19-TUE
第3回 道具を信頼する、ということ。 2011-04-20-WED

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