18 和菓子職人 日菓 内田美奈子さん 杉山早陽子さん
第1回 四季を、練り込むもの。
── おふたりが「日菓」を結成した
そもそものきっかけを、教えてください。
内田 私、大学の写真学科を卒業したあと
東京ではたらいていたんですが、
和菓子をつくりたくなって
2006年に京都へ来たんです。
── ‥‥和菓子を、急に?
内田 当時、出版社に勤めていたんですけれど、
何かものづくりがしたいなって、
思ったんです。

そんなときに、「和の菓子」という
分厚い本に出会って。
── そのものズバリのタイトル、ですね。
内田 その本に、衝撃を受けたんです。

当時、和菓子の「レシピ本」というのは
けっこうあったんですけど、
お菓子を1ページにひとつだけ置いて、
作品のように見せていく本は他になくて。
── へぇー‥‥。
内田 で、京都に来て製菓学校に通いながら
和菓子屋さんでアルバイトを始めたんです。

そのお店に、杉山がいたんです。
── なるほど、そこでふたりは出会った。
杉山 実は私も、その「和の菓子」という本を見て
和菓子の世界に入ろうと思ったんです。
── つまり、やりたいことの方向性や価値観が
はじめから、そろっていたと。
杉山 それまでは
漆塗りのお皿に和菓子が載せられていたり、
茶道の延長線にある
雰囲気の見せ方の本ばかりだったんですが、
あの本は「紙にお菓子」、それだけ。

和菓子だけに焦点が当てられていたんです。
── 「作品」に見えた‥‥んですね。
杉山 そうなんです。
── あの、日菓さんの和菓子って
まさしく「作品」だなあと思うんですけど、
他方で「食べもの」ですよね。

つまり「食べたら、消えちゃう」というか。
内田 ええ。
── そのあたりの、
「作品」と「儚さ」との関係については
どう思われますか?
杉山 その点については、すごく意識してます。

私たちふたりが意気投合したのも
「作品が
 人のからだのなかに入ってしまう」ことの
おもしろさ、でしたから。
── 「儚さ」が、逆に「おもしろい」と。

何というか、その、「作品」たるもの、
つい「残そう」としてしまいがちですけれど。
杉山 まず、デザインを鑑賞していただいて
「あ、おもしろいな」と思ってもらった上で
おいしく食べていただきたい。

その、「2度おいしい」というコンセプトは
はじめから共有していましたね。
内田 ですから「なくなる」ということそれ自体を
作品のテーマにしたこともあります。

たとえば、「やぎさんゆうびん」だとか‥‥。
やぎさんゆうびん(生砂糖製) 撮影:新津保建秀
── 読まずに食べた、で「なくなる」。
杉山 「テトリス」とか。
テトリス(琥珀製) 撮影:新津保建秀
── あの、ブロック消しゲームの。
内田 「ドロン」とか。
ドロン(寒氷製) 撮影:新津保建秀
── 煙とともに、消えちゃうと。
杉山 あと、「知恵の輪」というお菓子もあって
あめ細工なんですけど、
ふたつの輪っかが、くっついているんです。

で、口のなかに入れると
あめが溶けて、
知恵の輪が口の中ではずれる‥‥という。
── おもしろい。そして、発想がかわいい。

でも、ということはつまり、
「食べたときの美味しさ」という点も
ものすごく
大事にしているということですよね。

「見た目のおもしろさ」だけじゃなくて。
内田 それはもう、もちろんです。

やはり「お菓子」ですから
美味しいって思っていただけないことには
お話にならないです。
── あの、いちばんはじめに作ったお菓子って
覚えてらっしゃいますか?
杉山 ひとつは「3時」の羊羹ですね。
3時(羊羹製) 撮影:新津保建秀
── あ、これ、日菓さんのホームページでも
アイコン的に使われている作品ですよね。
内田 はい。
── このデザイン、ちょっとくすっと笑える感じとか
すごく「日菓さんっぽいんだろうなあ」と
思ってました。

はー、これが「第一号」だったんですか。
内田 はい、私たちが「屋台」から始めたときから
すでにあったお菓子ですね。
── なんとなくですけれど、
この第一号に「おふたりのやりたいこと」が
凝縮しているような気がしました。
杉山 うん、そうかもしれない。
── 反対に、ボツになった案というのも?
内田 もちろん、たくさん、ありますよ。

いろいろ試行錯誤してみたものの
結局、まったくダメだったお菓子とか‥‥。
── その差って、何なんでしょうね。
内田 お菓子ですから、
最終的には食べやすさとか味などの要因も
あると思うんですけど、
デザインのアイディアに関して言うと、
「いまいち、おもしろくない」んだと思う。
── なるほど。ひねり過ぎてたり、とか?
内田 そうですね。
結局、何が言いたいのかわからない‥‥とか。
杉山 それに、ふたりで「いいな」と思ったものは
やっぱり、ちゃんとウケるんです。

反対に、消化不良のまま出したお菓子は、
案の定、そんなにウケがよくなかったりして。

そこは、かなり顕著に出ますね。
── ウケがいいとか悪いとかいう反応って
どうやってわかるんですか?

食べた人の顔‥‥とか?
杉山 ひとつには、何日か経ってから
「あのお菓子、おもしろかったね!」って
言われるかどうか、ですね。
内田 食べた人の脳裏に残っているかどうか、
覚えていてもらえているかどうか。
── 日菓さんの和菓子を見たときに
きっとみんな「かわいい!」というふうに
反応すると思うんですが、
その点については、どう思われますか?
杉山 そうですね‥‥私たち自身としては
「おもしろい」のほうが、しっくりきます。

もちろん「かわいい」という反応も
嬉しいんですけど
この、ちっちゃくて、手のひらサイズで、
かわいい色をつけたお菓子の
そのちょっと先には、
日常の「おもしろい」を込めているので。
── なるほど。
内田 そうですね。

表面的には「かわいい」かもしれませんが
じいっとよく見ると、
必ずしもそうとは言い切れなかったり‥‥。
── たしかに「かわいらしい、いたずら心」
のようなものを感じます。

ふたりの「意図」を汲むことができたとき、
なんだかニヤッとしちゃうみたいな。
杉山 お菓子を作っていると
「腑に落ちる瞬間」があるんですけれど
それは「おもしろい」が
できたぞーってときかもしれないです。
── ちなみに、昔の和菓子にも
「おもしろい」って、あったんでしょうか?
杉山 んー‥‥‥‥‥あったと思う。

その時代に生きていれば
作り手と食べる人との間ですっとわかり合える
「おもしろい」は、あったと思います。
内田 「めでたいときに、鯛を食べる」とか、
「喜ぶにかけて、昆布を食べる」というのも
昔の人の遊び心ですものね。
杉山 いつの時代でも、人間って、
私たちみたいなことするだろうなあって気も、
なんとなくしますし。
的中(錦玉製) 撮影:新津保建秀
<つづきます>
2013-11-07-THU
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