第7話を観て
永田 はい、今週もよろしくお願いします。
西本 よろしくお願いします!
糸井 よろしくお願いしまーす。
永田 にしもっちゃん、
ちょっと聞いてください。
西本 なんすか、なんすか。
永田 いまにしもっちゃんが
録音機材を取りに行ってるあいだにね、
糸井さんがコーヒーをこぼしたんだよ。
しかも、見事に、自分の股間に。
西本 まじっすか。
糸井 ‥‥‥‥。
永田 もうね、なんかね、
オリーブグリーンのズボンの股間に
コーヒーのしみがダラダラっとできて、
いやぁ〜な感じのこぼれ方なのよ。
西本 そりゃみっともないですね。
糸井 ‥‥‥‥。
永田 でね、いい年して、
股間にコーヒーをこぼすもんじゃありませんよ、
とぼくは言ったわけですよ。
西本 言いたくもなりますね。
永田 そしたらね、なんと糸井重里、
軽く逆ギレしつつ言い訳として
こんなことを言うんですよ。
「オレは、昔からコーヒーを
 股間にこぼす男なんだ!」と。
西本 わははははははは。
糸井 ‥‥‥‥。
永田 意味わかんないでしょ?
で、さらに続けて、
「昔、うちの事務所にいた石井も、
 オレのことを周囲に話すときには
 『ああ、糸井ですか、ええ、
  よく股間にコーヒーを
  こぼしはる方ですよ』
 と言ってたもんだ‥‥」なんていう、
わけのわからん昔話まではじめるんですよ。
西本 百歩譲ってそれが事実だとしたら、
昔もいまも変わらずずっと
股間にコーヒーをこぼし続けている
男だということですよね。
どんな社長ですか、それは。
糸井 ‥‥‥‥もう、すっかり乾きました。
永田 そういう問題じゃないでしょ。
西本 そういう問題じゃないでしょ。
糸井 ドラマの話をしなくていいんですか。
西本 今週はおもしろかったです!
永田 うん! おもしろかった!
糸井 急にテンションが変わりますね。
永田 糸井さんの股間の話をしてる場合じゃないですよ。
西本 ええ、糸井さんの股間はどうでもいいんです。
糸井 股間そのものの話をしていたわけじゃないだろう。
永田 今週はお話がうねりましたねー。
すごい展開でした。
西本 いやー、ホントにすごかった。
正直、ぼくはこのドラマを少しなめてましたよ。
糸井 ふたりがそんなに声をそろえるなんて
けっこうめずらしいですね。
西本 糸井さんはおもしろくなかったんですか?
糸井 いや、おもしろかったですよ。
ただ、ちょっとふたりの勢いに押されて‥‥。
永田 股間にコーヒーこぼしてるから出遅れるんですよ。
西本 股間にコーヒーこぼしてるから出遅れるんですよ。
糸井 股間の話は終わったはずだろう!
永田 逆ギレ。
西本 逆ギレ。
糸井 出遅れたぶんを取り戻すべくしゃべりますが、
今週はほんとにおもしろかったですね。
永田 いや、ほんとうに。いよいよ動きはじめましたよ。
西本 ええ、もう、ぐらぐらですよ。
糸井 これまでは序章だといわんばかりにね。
今週は何話目? 7話か。
西本 むしろ「ドラマは7話まで観ろ!」と
言いたくなるくらいですよ。
永田 いえてる。「太いドラマは7話から!」。
糸井 野球も7回からだしね。
西本 ああ、それはいいたとえだ。
永田 野球を観にきて
6回の裏で帰る人がいますか?
糸井 思えばぼくは前々回で、
「ここから鉄平が勝つとしたら、
 4回が終わって7対1で負けてる試合を
 ひっくり返すおもしろさが待ってるぞ」
と言ったじゃないですか。
ふたり そうだった、そうだった。
糸井 序盤の何話かが、動かなかっただけに、
来てますよね、揺り戻しが。
西本 来てます。
永田 先週今週と揺り戻してますよ。
だから、ここまで観てた人は
ナイス娯楽ファンですよ。
糸井 観るのやめちゃった人もいるんだろうね。
永田 そうそうそう。
いちばん最初の回で糸井さんも言ってましたけど、
つっこみどころの多いドラマですからね、
うまく楽しめなくなってしまった人は
もったいないことをしました。
西本 いるんだろうなぁ。
将軍とイノシシと肖像画で
観るのやめちゃった人とか。
糸井 今回は、将軍もイノシシもカマキリもなく、
肖像画一本にしぼりましたよね!
永田 ていうかね、
ドラマに引き込まれた状態で観るとね、
あの肖像画はよくできてますよ!
糸井 そこまで言いますか(笑)。
西本 ぼくも同感です。
なんなら「上手に似せてある」くらいの
感想を抱きましたよ。
糸井 このドラマに限らず、あらゆる娯楽作品は
その世界に観客を取り込むことによって
あばたをえくぼに変える性質を持ってますからね。
永田 というか、
そのミラクルな変質を味わうことこそが
娯楽をたのしむ醍醐味じゃないですか。
西本 いえてます。
「坊主好きなら、袈裟まで大好き!」です。
糸井 あんなに袈裟の文句を言ってたのになぁ。
永田 ただ、自分が変質してみると、
過去につっこんだ事実が邪魔をしますね。
『デスペラード』が流れると
つい余計なことを考えちゃうし、
肖像画がアップになると、
糸井さんのMiiが頭をよぎるし‥‥。
糸井 人生ってそういうものですよ。
自分の邪魔をするのは、
いつだって自分なんです。
西本 なるほど。
永田 なるほど。
糸井 自分の邪魔をするのは、
いつだって自分なんです。
永田 なんで2回言うんですか。
糸井 しかし、このまま絶賛劇場を続けていると、
コンテンツ的にはつまらなくなりますね。
西本 じゃ、ぼくが、イヤな目線で語りましょう。
永田 イヤだなあ。
糸井 イヤだなあ。
西本 テーマは「じつは銀平はデカい!」です。
糸井 どういうことですか。
西本 ご説明いたしましょう。
高炉を背にして鉄平と銀平が歩くシーン。
あそこ、ふたりが並んで歩いているように見えて、
じつは鉄平のほうが少し前を歩いてるんです。
糸井 はっはぁー、身長差か。
永田 遠近法。
西本 そうです。
ぼくらはたまたま山本耕史さんに
お会いしたことがあるんですけど
あの人、大きいんですよね。
永田 うん、大きい、大きい。
西本 しかし、あそこは鉄平の
兄としての、人間としての
大きさを表さなきゃいけない。
それで、ちょっと前を歩かせてるんです。
糸井 イヤな見方だなあ。
永田 イヤな見方だなあ。
西本 いえ、これからがもっとイヤな見方です!
あの場面、歩くふたりを今度は背後からとらえます。
するとね、さっきまで前を歩いていた鉄平が、
今度はちょっと後ろを歩いてるんです。
永田 うわーーー、イヤだ!
糸井 オレはこいつと知り合いじゃないぞ!
西本 そこまで言うことないでしょう。
永田 しかし、それは気づかなかったなぁ。
西本 あ、その演出だけ切り出すと、
なんか鉄平が小さいように
思われるかもしれませんが、それは違います。
フォローするわけじゃないんですけど、
銀平がデカいんです。
糸井 じゃ、ついでに爆弾発言しましょうか。
これは鉄平ファンをきっと
怒らせてしまうと思うんですが。
永田 大丈夫ですか?
西本 大丈夫ですか?
糸井 ‥‥コホン。
木村拓哉と糸井重里は、
身長と体重がまったく同じだった時期がある!
永田 うわぁ、これは怒られるわ。
西本 いっしょにするな、という声が
全国から聞こえてきそうですね。
糸井 ちなみにぼくが太っちゃったので
体重は変わっちゃいましたが。
いまも身長的には同じはずです。
永田 じゃあ、逆の場所に爆弾を一発投げて、
ファンの怒りをうやむやにしましょう。
木村拓哉と糸井重里と永田ソフトは、
3人とも身長がまったく同じである!
糸井 わはははははは。
西本 なにがなんだか。
糸井 我ら、鉄平トリオです!
永田 鉄平トリオです!
西本 どこをどう解釈したら
その3人がトリオになるんですか。
糸井 時期と境遇が違っていれば、
3人で古着の貸し借りをする、
なんていうことも可能だったわけですよ。
永田 そうそうそう。
「これさぁ、着る?」なんつって。
糸井 「それオレのジャケットじゃん」みたいな。
永田 「それよりこないだのシャツ返せよ」とか。
西本 わかった、わかった。
糸井 我ら、鉄平トリオです!
永田 鉄平トリオです!
西本 だから、なんのどういうトリオなんですか。
糸井 惜しかったね、にしもっちゃん、
ひとりだけ身長が違って。
永田 けっこう、くやしいでしょ?
西本 正直に言わせてもらっていいですか?
‥‥‥‥かなり、くやしいです!
ふたり わははははははは。
西本 オレもみんなと古着の貸し借りがしたかった‥‥。
永田 ええと、身長の話はこれくらいにしまして。
糸井 じゃあ、ぼくのほうから、
「小ほめ」をひとつやっておきましょうかね。
ふたり どうぞ、どうぞ。
糸井 目にとまったのは、
阪神特殊製鋼の食堂のメニューです。
「すき焼き風鍋」というメニューがありました。
そのメニューはね、いいと思うなぁ。
永田 へーーー、気づかなかった。
「コロッケ30円」っていうのは知ってたけど。
「すき焼き風鍋」は今回はじめて出たのかな?
西本 今回、食堂に銀平が座ることによって
いつもと違うアングルの画がありましたから、
それではじめて映ったのかもしれませんね。
糸井 ま、いつからあったか知りませんが、
そのメニューはね、いい思いつきですよ。
あると人気だろうなと思えるし。
「すき焼き風鍋」というのは
どういう料理かな、と、つい考えるし。
おそらく牛丼に近いものだと思うんですよ。
そういう想像が広がるよね。
ブタでやってもいいんだろうけど、
関西だから安くても牛でやるんだろうか、とか。
永田 神戸ですからね。
糸井 そうそう。
永田 あと、「すき焼き」にしちゃうと、
あの大衆食堂にしては
贅沢なメニューになっちゃうから
「すき焼き『風』」にしてあるところが。
糸井 いいんですよ。
で、それを「鍋」にすることで、
みんなでがんがん食べてる感じが出る。
ひいては、あの食堂そのものが
魅力的に見えるんですよ。
永田 ついでに想像ですけど、
「すき焼き風鍋」が
突貫工事で疲れている作業員の士気を高めるために
急遽組み込まれた特別メニューだとすると、
それはいい演出ですよね。
西本 で、それをおごったり、おごられたりすると。
糸井 それはいいですねぇ。
もしも誰かが仕組んだことだったら
ぜひ「小ほめ」しておきたいですよね。
「自分が脚本家だったら」みたいな目で見ると
そういうところがいちいちおもしろいですね。
永田 ぼくがその「脚本家だったら」目線で観たのは、
同じく食堂の、ジャンケンのシーンですよ。
糸井 ほう。
永田 あの、ぼくは個人的に、
実際のジャンケンを非常にまじめに
真剣に考えてやるタイプなんですけど。
西本 それっぽいわ。
糸井 じつにそれっぽいね。
永田 さあ、ジャンケンだ、となったあの場面、
つくり手としては、どういう展開にするのかなと
反射的に考えたんですよ。
で、まずは、場の盛り上がりを考えると、
初手は「あいこ」するべきだなと。
西本 バカなことを反射的に考えてますね。
糸井 AB型はつねに考えている、といいますよ。
永田 じゃあ、どの手で「あいこ」にするかと考えると、
あそこはふたりともリーダーとして
ジャンケンに臨んでいるんだから、
そこの決意や自覚を、読みや計略抜きで
ギャラリーに見せるべきだと。
西本 はいはい。
糸井 はいはい。
永田 ならば、「グー」だ、と!
そしたら、実際のふたりも
「グーであいこ」でしたから、
うん、よし! と思いました。
糸井 ああ、でも、それはわかりますね。
つまり両方とも握り拳を見せたわけです。
で、つぎの展開も明らかに意図がありましたね。
鉄平が銀平に訊いて、「チョキ」だと。
相手は握り拳からの変わり身で「パー」。
西本 銀平の才を見せた形になりました。
永田 才もそうですし、あそこは、
鉄平と銀平が取り戻した
つかの間の絆の象徴だと思うんですよ。
あのふたりが健全に手を組むと
きっと物事はうまくいくんだろうな、という。
糸井 だけど哀しいかな、
その絆は長くは続かない‥‥
ということだね。
永田 そしてさらに言わせてもらうと、
「ドラマのなかのジャンケン」って
おもしろいなぁと思うんですよ。
あの、『MOTHER3』にも
重要な場面でジャンケンが出てきますけど。
糸井 「ギー、チェキ、ぺー」ですね。
永田 そうです、そうです。
誰かが何かの物語の中にジャンケンを出すときは、
そこにはつくり手の意図が入らざるを得ないんです。
というのは、役者さんに任せたりすると、
ジャンケンが思った結果になることはあり得ないので、
「こっちがグーで、そっちはパー」というように
絶対に細かく手を指定しなきゃいけない。
西本 ずいぶんジャンケンで引っ張りますね。
糸井 引っ張りすぎじゃないかな。
永田 すると、おもしろいことに、
現実の世界においては
筋書きなき運の象徴であるところのジャンケンが、
ドラマの中ではつくり手のコンセプトと意図、
つまり筋書きの象徴となってしまうわけですよ。
西本 わかった、わかった。
糸井 わかったからそれくらいにして。
永田 現実の世界においては
筋書きなき運の象徴であるところのジャンケンが、
ドラマの中ではつくり手のコンセプトと意図、
つまり筋書きの象徴となってしまうわけですよ。
糸井 なんで2回言うんだ!
西本 それがやりたかったんだな。
永田 と、いうわけです。
じゃ、にしもっちゃんの番。
西本 あ、オレですか。
じゃあ、ぼくからは
「小ほめ」と「つっこみ」の両方の意味で
「神戸経済新聞」を挙げておきましょう。
永田 あ、わかった(笑)。
糸井 え、どういうこと?
西本 神戸経済新聞、詳しすぎです!
永田 社内報なみの詳しさです!
糸井 なになに、どういうこと?
西本 なんと一面トップ記事で
「綿貫専務またも昇進ならず」と!
永田 どんだけ有名人なんだ、綿貫専務!
糸井 へぇー、そうでしたか。
それはぜんぜん見えてなかったなぁ。
そりゃたしかに詳しすぎる。
西本 社内報でも「昇進ならず!」とは書けませんよ。
いうならば裏社内報ですよ、
大同銀行総務部の有志が発行する
インディーズ社内報。
永田 ま、要するにあれは、綿貫専務の
「現状だとままならないぞ」という未来を
わかりやすく見せてるんだと思うんですが。
糸井 だとすると、それも大介たちがリークしたのかもよ。
西本 芥川元東京支店長がそこまでリークするんですか。
永田 ちょっと待て、責任をとって左遷されたのに、
左遷先からまたそんな細かいことをリークするのか。
糸井 いや、だから、ブログ感覚でさ。
永田 「ブログ感覚」(笑)。
西本 「ブログ感覚」(笑)。
糸井 それを機に社員のブログが
上司からチェックされるようになったりしてね。
永田 ていうか、昭和にブログないですから。
西本 ともあれ、神戸経済新聞は
いまいちばん読みたい新聞ですね。
永田 あれさ、記事もいちいち
ちゃんと書いてあるんだよね。
高炉爆発を伝えるところも
「ドーンという音がして‥‥」みたいに
それっぽいことが書いてある。
糸井 永田くんがスタッフなら
あの記事まるごと全部書くよね。
天声人語みたいな場所までね。
永田 書きます、書きます。
西本 「もう、書かなくていいから!
 そんなところ誰も読まないから!」
って言われながらね。
永田 ある程度まですごくマジメに書いて、
後半のところまで読むと
ちょっとふざけてたりしてね。
そういうの、好みです。
糸井 こう、記事と記事の合間にある、
ちょっとした広告とかも
いちおう、つくっておきたいですね。
「ケドリス、新発売!」みたいな。
西本 なんですか「ケドリス」って。
糸井 なんだかわかんないけど、
「ケドリス」っていう商品の
広告があったらいいじゃないか。
永田 「あらゆる関節痛に効く! ケドリス」みたいな。
糸井 そうそうそう(笑)。
「砂浜うさぎ」みたいなものとかね。
永田 「信州銘菓 砂浜うさぎ」
西本 そんな神戸経済新聞です。
永田 今日の一面は綿貫専務です。
糸井 どうでもいいですけど、
綿貫専務が登場するとき、
いちいち名前のうしろに
「(生え抜き派)」って出るのが
妙におもしろいですよね。
永田 高須相子がムードたっぷりに登場するときに
必ず「(執事)」って出るのも、味わい深いですよ。
糸井 でもさ、「(執事)」はいちおう職業だけど、
「(生え抜き派)」ってなんなんだよ。
そんな職業はないでしょう。
西本 日銀派のぼくもそれはおかしいと思います。
永田 あれは「ニシモトタカシ」だっただろ。
糸井 せっかく鶴瓶さんなんですから、
「(生えぎわ派)」というのはどうですかね。
M字の生えぎわでお馴染みの、という意味で。
永田 くだらない。
西本 くだらない。
糸井 「綿貫専務(生えぎわ派)」。
永田 おかしくない。
西本 ちょっといいですね。
永田 どうして、にしもっちゃんは
すぐそっちにいっちゃうんだ。
糸井 「綿貫専務(生えぎわ派)」。
西本 ふははははは。
永田 あははははは。あー、もう!
糸井 あとさぁ、鶴瓶さんが欣也さんからもらった
副頭取にするっていう念書は、あれでいいの?
永田 あ、そうそうそう。
あれ、もらった瞬間に鶴瓶さんが
「これは、なんのつもりですねん!」
とかって怒るのかと思ったら、
あっさり受け取っちゃうし。
糸井 なんか、名刺の裏に
「千客万来、商売繁盛」
みたいなのが書いてあるだけでさ。
永田 ぜんぜん違いますけどね。
西本 要するにあれは伏線でしょう?
たぶん、鶴瓶さんは、副頭取にはなれないんですよ。
で、「ここに念書があるんでっせ!」
と逆ギレしたときに‥‥。
永田 そんな名刺がどうして念書なんですか、と。
糸井 「千客万来、商売繁盛」
と書いてあるだけじゃないですか、と。
永田 書いてあることばは
ぜんぜん違うんですけどね。
西本 あなたを副頭取にするなんて言ってませんよ、と。
糸井 お客さんがいっぱい来て、
商売が繁盛したらいいなぁって
書いてあるだけじゃないですか、と。
永田 ややこしくしないでくださいよ、話を。
糸井 ほんとにそう書いてあったたらおかしいのになぁ。
「この念書を見なはれ!」って
怒った鶴瓶さんが名刺を出したとき、
そこに‥‥「千客万来、商売繁盛」。
西本 ふははははは。
永田 あははははは。あー、もう!
糸井 それを知って、大同銀行の生えぎわ派は
「話が違う」と大騒ぎになるんですよ。
永田 生えぎわ派、鶴瓶さんだけじゃないんだ!
糸井 そりゃぁ、もっといるでしょう。
西本 ちなみにぼくは日銀派ですけどね。
永田 もういいって。
糸井 でもさ、柳葉さんとの駆け引きからはじまった
大同銀行の吸収という策略を、
鶴瓶さんという弱い人を突くところまでもってきた、
この一連の流れというのは
ものすごくうまく描けてたよね。
西本 あーー、そうですね。
永田 けっきょく、決断の部分に
いちいち「私怨」や「私情」がからむから、
ムリっぽい交渉が成立するのにも納得できるし、
同時にそれが弱みになるという構造も
生まれるんですよね。
糸井 もっというと、ドラマのあちこちで
「性」とか「動物くささ」とかを表現することで、
私怨や私情という感情的なことで物事が決まることに
説得力をもたせているんです。
実際の社会でもそうだと思うんですよ。
データとマーケティングもあるけど、
「わしはあいつが嫌いなんや」
というのは覆せないんですよ。
西本 最後は生理的な部分、感情が決める、と。
糸井 それが山崎豊子さんの世界観なんじゃないですかね。
戦国武将の物語なんかも同じですよね。
永田 あ、まさにそうだ。
糸井 戦略や策略も醍醐味ですけど、
その裏に感情が動くからこそドラマになるんでね。
婿取り、嫁取りみたいなことだってそうですよ。
西本 今回、鉄平の妹が嫁に行くというのも、
ドラマの流れとしてはよかったですよね。
永田 うん。あの歯がゆさが見事。
糸井 「女はたまにウソをつくの」
というセリフは、よかったですねー。
ふたり よかった、よかった。
糸井 「ウソをつく」というのが
二重構造になってるんですよね。
あれは、味わいとかコクじゃなくて、
スパーンときれいに抜けるよさでした。
こう、二遊間をきれいに割るヒットというか。
永田 ポテンヒットでもホームランでもなく。
糸井 そうそうそう。
西本 単打だけど、きっちり打点はついてるみたいな。
糸井 大きなドラマのまわりを
ああいうセリフが彩ってくれると
全体が豊かになりますよね。
永田 今週のお話がおもしろかったのは
そういう「細かいよさ」の影響もありますね。
西本 「小ほめ」とか「中ほめ」が
たくさんあったような気がします。
糸井 それはそうと、にしもっちゃん、
毎週恒例の「長谷川京子ほめ」はいいんですか?
西本 いっときましょうか。
ぼくにとって今回は‥‥
まさに「長谷川京子ナイト」でした!
糸井 またその切り口か。
永田 こないだは
「長谷川京子デー」って言ってましたよ。
糸井 「長谷川京子ファッションショー」
っていうのもあったな。
西本 なんといっても特筆すべきは
登場シーンにおける桃色のカットソー。
永田 コンシャスな。
西本 ええ。コンシャスです。
しかも、よく見たら、なんだか胸のあたりに
カットが入ってるじゃないですか!
「長谷川京子ナイト」です!
糸井 わかった、わかった。
永田 ちなみに今週は
長谷川京子さんよりも、
鈴木京香さんが透けてましたよ。
西本 はい。でも、相子の「透け」は悪の象徴ですから
透けてる色が「黒」でしたね。
糸井 うまいこと言うなぁ。
永田 うまいこと言うなぁ。
西本 あの「透け」は、ジャンケン以上に
仕組まれたものだと思いますよ。
糸井 服装ということで広げますけど、
ここのところ、とくに先週今週と、
ものすごく服装を自由にしましたよね。
時代とかTPOとかに縛られずに、
「その人に似合うように」って
シフトしているような気がするんですよ。
つまり、時代劇の衣装としてではなくて、
いいね! っていう服に。
とくに女性は思い切りよくどんどん着替えるし。
西本 なるほど、なるほど。
糸井 女優さんの服もひとつのお楽しみですよね、
っていうふうになってると思うんです。
ところが、そんなふうに着飾る女優さんのなかで、
ひとりだけ仲間に入れてもらえない人がいるんです。
永田 どなたでしょう。
糸井 多岐川裕美さんです!
西本 ああ、それは、しかたない!
永田 ここのところ、ずっと浴衣です!
糸井 そういう役だとはいえね、
多岐川さんご自身はきっと、
残念に感じてると思いますよ。
西本 まわりのみんながどんどん
オシャレになってるわけですからね。
永田 きっと楽屋口かなんかに、
ほかの出演者の衣装がずらーっと並んでるんですよ。
糸井 「長谷川京子さま」、ずらーーっ。
西本 「山田優さま」、ずらーーっ。
永田 ところが、「多岐川裕美さま」のところには‥‥。
西本 浴衣がぽつんとひとつだけ‥‥。
糸井 しかも、病人の浴衣ですから、
ノリがぱりっと効いてるわけでもなく。
西本 浴衣のかたわらには、
小道具の酸素マスクがぽつんと‥‥。
糸井 でも、メイクは手がかかってますよ!
このドラマの「病人メイク」は
たいへんクオリティーが高いですから。
永田 稲森いずみさんも、出番のわりに
水色のカーディガン的なものが多いですね。
やっぱり万俵家の贅沢さはないということで。
西本 けっこう着替えてはいるんですけどね。
永田 でも、ずっと水色。
糸井 「着替えても 着替えても 水色」
永田 それは、
「わけいっても わけいっても 青い山」?
西本 なにがなんやら。
糸井 肝心の、高炉大爆発とかについて
触れなくていいんですかね。
西本 たいへんな事件でしたけど、
予告編ですでに知っていたぶん、
心構えができてましたよね。
永田 というか、最近の予告編は、
少しネタバレしすぎじゃないですか?
あの爆発、予告編になかったら
きっとめちゃめちゃびっくりしましたよ。
糸井 いや、永田くん、
その手のひらの返し具合はどうかと思うよ。
こないだは「予告編がおもしろい!」って
言ってたじゃないですか。
永田 ああ、そうか、そうですね。
いや、おもしろいのは間違いないんですが。
糸井 予告編だけ観て
「来週の長谷川京子は白いブラウスだ!」
なんてたのしんでたわけでしょう?
永田 たしかに。
あ、それで思い出しました。
先週、ふっこと鉄平の恋愛沙汰を
取り上げておいてよかったですね。
西本 あの幸せな家庭があるのに
ふっこになびいたら
鉄平の株ががた落ちだぞと言っていたら‥‥。
永田 いかなかったですよね!
鉄平、えらいぞと思いました。
糸井 『デスペラード』とともに、
ふっこにいくのかなと思いきや
「ごめん」でしたね。
いわゆるひとつの逆デスペラード状態!
西本 なんですか、それは。
糸井 「♪ぎゃ〜く、デースペラ〜ド〜」
永田 ムリがある、ムリがある。
糸井 「ぎゃく」を入れるタイミングがむつかしいな。
西本 ともあれ、鉄平は、
「妻以外を愛する」という
万俵家の血を断ち切ったようだ、と。
永田 ある意味、鉄平も
じいさんの亡霊と戦っている、と。
糸井 じいさんのマシュマロ問題が
今週はまた具体的に描かれてましたね。
西本 永田さんが
「あのじいさんがいちばん悪い」
と怒っていたやつですね。
永田 いや、だって、そうですよ。
糸井 「公家の女の肌は白くてマシュマロのようだ」
永田 そりゃ北大路欣也も怒るっちゅうねん。
西本 怒るっちゅうねん。
糸井 今週の欣也さんは
また見応えがあったねぇ。
西本 鉄平に「いなくなってほしい」と
言っちゃったシーンはすごかったですよ。
永田 舞台っぽくなったよね、あそこだけ。
目を閉じて天を仰ぐところとか。
西本 「ああ!」ってね。
糸井 いや、万俵大介劇場でしたよ、あそこは。
永田 あの北大路欣也さんの顔には、
「TVウォッチャーの逆襲」を連載してる
我らが荒井清和先生も反応されてまして、
このような作品を仕上げてくださってます。
読んでない方、もったいないのでお読みください。

糸井 いいですねぇ(笑)。
西本 あの顔は得意中の得意だよなぁ、荒井先生。
永田 まさか銀平も登場するとは思いませんでした。
糸井 じいさんの肖像画を荒井先生に
描いてもらうというのはどうだろう。
永田 あの肖像画はあれでいいんです!
西本 もう我々は一周して肯定派です!
糸井 そ、そうですか‥‥。
しかし、あのじいさんは不思議な人ですね。
あれだけ「怒るっちゅうねん」なことをしても
どうやらみんなに好かれていたらしい。
永田 けっきょく、
全部を隠してるというのもすごいですよ。
鉄平の出生だって、けっきょく、
よくわからないということになってるでしょう?
お母さんも「気がついたら‥‥」って
言ってたわけですから。
糸井 それらしく描かれているけれど、
真相は藪の中ということになってますね。
西本 少なくとも、大介とお母さんにとっては。
永田 ふっこ問題については、
多岐川さんの告白によって
いちおうはっきりしましたけど、
鉄平はまだぎりぎりグレーですね。
あっ、違うわ。鉄平問題も、
多岐川さんの手紙ではっきりしたんだ。
じいさんの子だってことが。
糸井 いや、はっきりしてませんよ。
だって、最後の肝心のところは
読まなかったじゃないですか。
永田 え?
西本 え?
糸井 「あなたのほんとうのお父さんは‥‥」
のあとは読んでないでしょ。
西本 鉄平は「ウソだっ!」と絶叫してましたが。
糸井 何に対して「ウソだっ!」かは、わかりません。
「あなたのほんとうのお父さんは、
 ‥‥‥‥イノシシなんです」
かもしれないでしょ。
西本 わははははははは。
永田 それで思わず鉄平が「ウソだっ!」と。
西本 わははははははは、
そりゃウソだと思うわ。
永田 「あなたのほんとうのお父さんは、イノシシなんです」
西本 「‥‥ウソだっ!」
糸井 いわゆる『里見八犬伝』的な展開?
永田 そりゃ鉄平も怒るわ、
自分だけ父親がイノシシだったら。
糸井 大介も愛せないよなぁ、
イノシシの子だったら。
西本 あっ! ということは、
いまラストシーンっぽく思われている
雪山で相対するイノシシは‥‥。
永田 鉄平の、じつのお父さん!
糸井 「じつの」(笑)。
西本 「じつの」(笑)。
永田 数奇な運命とはこのことです。
糸井 ていうかこんな話ばかりしてていいんですか。
西本 ダメです。
永田 ダメです。
糸井 ダメですよね。
永田 どうでもいいですけど
あの手紙を読むシーンは、
多岐川さんのナレーションに移ってから
鉄平のリップシンクがすごかったですね。
手紙を読むうちに書いてる人の声が
重なってくる場面はよくありますが、
あそこまで読み手の口の動きと
ナレーションが合ってるのははじめて観ました。
西本 あれは、どっちが合わせてるんだろう。
木村さんが口パクしているのに合わせて
多岐川さんがかぶせているのか、
多岐川さんのナレーションを録っておいて
木村さんが口パクしているのか。
糸井 同時、っていうのはどうですか。
つまり、演技をしているスタジオの
見えない位置に浴衣姿の多岐川さんがいて
口に合わせて同時にしゃべる。
永田 そこは浴衣じゃなくていいでしょう。
西本 ええ。酸素マスクも外しておいてほしいです。
糸井 ともあれ、あのリップシンクを
どうやって成立させたのかという問題は、
『チンパンニュース』の吹き替えを
どうやっているのかということと
同じような不思議さがありますね。
永田 あの深刻なシーンに
『チンパンニュース』を重ねますか。
西本 いいんじゃないでしょうか。
『チンパンニュース』は
番組がはじまる前から
ほぼ日テレビガイド男子部が
追いかけている番組
ですから。
永田 追いかけちゃいないだろうよ。
何年か前の「年末年始テレビガイド」で
たまたま注目したというだけで。
糸井 それはそうとあの場面、
あんな秘密っぽい手紙を
ふたりの目の前で声に出して読むというのは
ちょっとどうなんでしょうね。
永田 あれは、あえて
そうしているということじゃないですかね。
席を外そうとしたふたりに向かって
「いや、ふたりも聞いてくれ」という感じで。
西本 いや、永田さん、それは違う。
あんた、わかっちゃいないよ。
あれはね、昔の女が夜中に突然自宅にやってきて
手紙を手渡されたけれども、
「おれはべつにやましくないぞ」
という妻へのアピールですよ。
糸井 はっはぁーーー、なるほど!
永田 うわぁ、それだ。
にしもっちゃん、今日は、さえてるわ。
西本 こうやって、ふたりを前にして、
声に出して読めるくらい
自分にやましいところはないんだ、と。
永田 長谷川さんが、
ちょっと頬をひきつらせながら
「私は席を外しましょう」と言っても。
西本 おまえもいろよ、と。
やましくないぞ、と。
糸井 それで朗読してみた手紙が
くだらない内容だったら
気恥ずかしかったでしょうね。
「昔、あなたにあげたはずのお菓子を
 食べてしまってごめんなさい」みたいな。
ふたり わはははははは。
糸井 大切なことが後半に書いてあるにしてもさ、
どうでもいい話からはじまってたりするじゃない?
永田 うちの、りかさんみたいな人が
手紙を書いてたらたいへんですよ。
どうでもいい無関係な話が
脈絡なく続くことになりますよ。
西本 そういう意味では多岐川さんが
わかりやすい文章を書く人でよかった。
糸井 あと、字がどうにも汚かったりさ。
達筆すぎて読めない、とかさ。
永田 「このたびは鉄平さんに‥‥‥‥
 ‥‥の‥‥でき‥‥も? に?
 なんだこれ? 読めねぇな」みたいな。
西本 そういう意味では多岐川さんが
わかりやすい字を書く人でよかった。
糸井 文章も字もわかりやすくてよかったんですけど、
肝心の手紙の内容は
あなたの父親はイノシシですということですから、
これは、たいへんですよ!
永田 た、たいへんだ!
西本 やましいところはないが、父親がイノシシ!
やましいどころの騒ぎじゃない!
糸井 しかも封筒のなかから
なぜか万俵大介の名刺が出てきてさ、
それを裏返すと「千客万来、商売繁盛」と。
永田 (爆笑)
西本 ああ、永田さんの好きな世界へ行きましたね。
永田 ひーー、ダメだ、それは。
わけがわからなさすぎる(笑)!
糸井 「あなたのほんとうの父親は、イノシシです」
西本 そんで名刺をひっくり返すと「千客万来、商売繁盛」
永田 もーーやめてくれーーー(笑)!

2007-03-02-FRI