武田観柳斎の小さな野心。
〜八嶋智人さんに、あれこれ訊く〜
第8回 小さい野心の正体。


糸井 八嶋さんは、自分の頭のなかでは、
「自分は小劇場界の人」
っていう意識なんですか。
自分で自分の名刺をつくるときは、
やっぱり「小劇場界」って書いてあるんですか。
八嶋 そうですね、ええ。
糸井 「へぇ〜」とかは書いてないんですか。
八嶋 いや、そのへんも言っちゃいますよ。
「へぇ〜」でもなんでも、
自分がいまやってるものは、ぜんぶなんでも。
糸井 でも、出身地はやっぱり小劇場。
八嶋 はい。よく自己紹介するときは
カムカムミニキーナの八嶋です」
って言います。
カムカムミニキーナって
劇団名なんですけど、うちの。
糸井 うんうん。
たしか八嶋さんの小劇場デビューって
90年代ですよね?
八嶋 1990年旗揚げです。
糸井 あ、ちょうど1990年ですか。
ということは、ある意味、新人ですよね。
八嶋 いや、ド新人ですよ、そんなの。
ほんとに古田(新太)さんとか
生瀬(勝久)さんとかに比べたら。
糸井 ああ、あのへんの人は古いですよね。
八嶋 ええ、渡辺いっけいさんとか‥‥。
そういう人たちを見て、
旗揚げしようとしたわけですから。
80年代の終わりに、
バンドブームと小劇場ブームみたいなのがあって。
糸井 ああ、そういう時代ですか。
八嶋 そういう時代ですよ。
鴻上(尚史)さんとかがワーッと盛り上がって、
それで、それこそ新選組じゃないけど、なんか、
「劇団に入るテレビに出れる?」とか、
ちょっとだけ思ったりして。
糸井 うん。つながってますね(笑)。
八嶋 それまで、人前で芝居やりたいっていうときに、
文学座の養成所に入るかとか、
そのくらいしか選択肢がなかったのが、
「あれ? 俺たち、
 集まって『イエーイ!』って言ったら
 人前でやっていいんだ?」
って思えるような空気があったんですよ。
糸井 それは貧乏でもできたんですか?
八嶋 ああ、どうですかねえ。ぼくちょうど、
ギリでバブルくらいの時代の学生なんですよ。
最後の売り手市場の大学生だったんですよ。
だからけっこう、
ノンキといえばノンキだったですね。
バイトの時給もけっこういいし、みたいな。
糸井 じゃあ、腹減さらずに劇団はできたんだ。
八嶋 はい。住んでるところも
学生寮だったから安かったですし。
けっこう苦労知らずだったかもしれません。
糸井 そんなに覚悟があって、ってことじゃなかった。
八嶋 そうですね。けっこうノンキにお芝居を。
だからちょっとだけ
形から入った部分もありますよ。
だから、
大学卒業して劇団続けてっていうときは、
ちょっとは苦労人みたいに
ならないといけないかなと思って、
朝バイトして、夜稽古して、
夜中またバイトして、みたいな。
糸井 絵的に苦労してみたり。
八嶋 はい。「苦労してる感じ」で。
でもやっぱり風呂なしアパートは嫌だとか。
そういう甘ったれたところがあるんですけどね。
糸井 いまの人ってみんな、
そういう時期があるんだね。
無理矢理に、貧乏フォーマットっていうのを
メソッドとしてやろうとしてる気がしますね。
八嶋 ああ、ちょっとありますね。
糸井 「人工ハングリー」っていうのが
いまは必要なんだね。
八嶋 ジンコウハングリー?
糸井 人工的にハングリーな環境を作る。
八嶋 ああ!
糸井 そこに時代が向かってますよね。
八嶋 そうですね。
だから人工ハングリーっていうか、
ハングリーな気分を味わわないとダメだと
どっかで思ってるんですかねえ。
ぼくらの世代は。
糸井 でもぼくもたぶん、
自分にもそうしてる部分もあるしね。
ジムでトレーニングしたり、節食したりするのも、
いわば人工ハングリーじゃないですか。
だって放っときゃハングリーじゃないもん。
ぬくぬくしてカロリーは過剰になるし。
八嶋 うん。すぐ太りますよ。
糸井 このあいだ、宮藤官九郎さんに続けて会って、
宮藤さんに対してぼくが言ったことで、
自分でもおかしかったのが、
「あなたのその、夢の小ささがいいね」
っていうことで。
八嶋 あははははははは。ああ、はいはい。
糸井 いま、おもしろい人たちって、
みんな夢が小さいんですよ(笑)。
それが、すごく、いいんです。
八嶋 はあ(笑)。
糸井 たとえば、いましてた『新選組!』の話でもね、
大きな野心の話じゃないじゃないですか。
八嶋 まあまあ、そうですね。
糸井 こっちでカットされたセリフを
こっちで入れてやれ、とかね(笑)。
映ってないところなんだけど、
もしかして映ったとき用に
自分で芝居を用意しとくだとか。
八嶋 ふふふふふふふ。
糸井 故郷のお母さんに、
「今回は主役並だぜ!」って言ってみるとかね。
八嶋 ああああ、それ、言ったなあ。
言った。それ。実際。
一同 (笑)
糸井 一方でベンチャーの社長みたいな人がね、
「とりあえず世界一になる」
とかって言うのを聞くと
夢がでかいじゃないですか。
けど、わからないじゃないですか。
八嶋 うん。
糸井 その一方で、すごい夢の小さいやつが、
毎日をすっごいおもしろそうに
生きてるっていう感じが、
いいなあって思うんですよ。
八嶋 ははははは。ああ、そうか。
うーん、そういう世代なのかなあ。
糸井 いや、それは世代なんじゃなくて。
八嶋 違うんですかね。
糸井 というのは、オレの夢も
そうとう小さいからわかるんだけど(笑)。
八嶋 ああ(笑)。
糸井 タモリさんとかもそうじゃないですか。
八嶋 そうか、そうかも。そうですね。
大きな夢、言わないですよねえ。
あれはぼく、タモリさんくらいになると、
いろんなものをすでに得ているから、
もう、大きなものはいらないのかなって
思ってたんですけど‥‥。
糸井 違うんですよ。
得てなくても、タモリさんはああなんです。
八嶋 あの、『トリビア』のあとの飲み会で、
糸井さんとタモさんが
ずっと話してたじゃないですか。
「すごくおいしい米があるんだ」
っていう糸井さんと、
「どんな米でも
 おいしくできる精米器を持ってる」
っていうタモリさんが、
「じゃあ、そのふたつを合体させよう」って。
糸井 はははははは、くっだらないよね(笑)。
八嶋 「どんだけうまい米が
 炊けるんだろう」って(笑)。
糸井 タモリさんも本気だったし、
ぼくもきっと本気でしゃべってたんですよね。
八嶋 ぜんっぜん本気モードでしたよ、ふたりとも。
糸井 タモリさんもぼくも、
夢が小さいっていう切り口で見ると、
つくづく小さいです。
そのね、乱暴な言いかたをすると、
「夢が大きい」ってことは、
ウソなんじゃないかと思うんですよ。
だって、見えない世界のことを
語ってるわけですからね。
世界のどこかまで伝播していく自分の力を
想像して楽しむなんて、
いわば覇権主義じゃないですか。
八嶋 うんうん。
糸井 それよりは、自分のまわりの、
近所にいる人たちが
ニッコニコしてましたとか、
そういうほうがいいじゃないですか。
そういう、ある意味では、
いちばん欲の深いところが、
「小さい野心」っていうことの
正体なんじゃないかなあ。
で、その可能性がまだまだあるってことで
愉快なんですよね。
八嶋 うんうん。

(次回が最終回です)

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2005-05-04-WED

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