栗山英樹さんに感心しにいく。

darling曰く「感心力の鬼」の田中さんが、
これまたものすごい感心力をお持ちの
野球解説者・栗山英樹さんに会いにいきましたよ。
「今年のプロ野球で感心したこと」を、伺いました!

【宮本慎也に、感心しました】





田中 栗山さんが、今年の野球で
「このワンプレーには感心した」
というところを、おうかがいできますか?
栗山 例年でしたら、ここまではっきり、
「このひとつのプレーを伝えたい」
と思うことは、あまりないのですが、
今年は、なかなかすごいのがありました。
それはなにかと言うと‥‥。
5月ぐらい(5/16)の東京ドームでの巨人ヤクルト戦。

その前の神宮で、
高津が阿部慎から同点ホームラン打たれています。
そんなことがあったうえで、その日は1対0。
ヤクルト1点リードのまま9回に来て、
当然、高津が出てきますよね。

ツーアウトランナー1塁になったんです。
原監督は代走に鈴木を出しました。
バッターは阿部慎之助。

それまでの流れから言ったら、
カウントによっては
原さんは勝負に行くだろうなぁ、という場面。
ぼくも、たまたまその日に解説をしていました。

古田がよく言っているように、
ツーアウトランナー一塁は、
ジャイアンツを相手にしているとピンチだと。
特に、前の試合に最後ホームラン打たれているし。
そういうこともありましたから、
最初にストライクとっておきたかったんでしょうね。
ポーンとストライクをとりました。

この次の2球目。
もちろん、ヤクルトバッテリーとしても
ランナーが走る可能性はあるだろうと知ってはいた。
でも、ワンストライクノーボールって、
非常にランナーは動きにくい場面ですよ。
しかも、高津古田のバッテリーだし。

でも、ランナーは、走った!

古田の球が、「あ、来るな!」と思ったからか、
チカラが入ったんでしょうね、あの古田でさえも。
ハーフバウンドしたんですよ。
ショートバウンドよりも、
ちょっとハーフバウンド気味。
そこで、宮本慎也が、ものすごいタッチをしたんです。
バウンドの上から‥‥
田中 ボールをかぶせるように?
栗山 ええ。
ふつう、ショートバウンドって
ちょっと引いて捕らないと捕れない。
でも、宮本慎也はそのままパーンと叩きつけた。
間一髪間にあって、ゲームセットになったんです。
田中 あぁ‥‥。
栗山 重要な目線はいくつかあるのですが、
「巨人はそれまでそういう戦いをしてこなかった。
 逆転2ランになった可能性もあるところで、
 敢えて走って勝負にいった理由は?」
と、すべての関心が、
いったん、そっちのほうにいっちゃったんです。

ところがあの時の
宮本慎也のタッチの仕方と言ったら‥‥。
あとで、慎也に訊いたんです。
そしたら、
「古田さんが、
 すごくランナーに対して意識していた。
 もしかしたら、ワンバウンドになるのかな、
 と意識していたんですよ」

まずそれがすごい。イメージができていた。
天才かよ?と。

鈴木の足が速くて
間一髪のタッチだったので、
宮本はランナーの走路に、
足をグッと入れているんですね。
それで、スネをスパイクされたんですよ。
ユニフォーム切れてるんですけど、
血が出ていないんです。
どうしてだと思います?

宮本慎也は、そのすこし前から、
ストッキングの中に
サッカーで使う"すね当て"を入れていたんですよ。

なんで入れたかと言うと、
ロッテの小坂が交錯プレーで
骨折しましたよね。あれがあったと。
あれにまつわるいろいろな状況を
身近な人からも訊いて確認して、慎也は、
「いくらうまい人でも、
 このことは起こりうる場合もある」
と思ったんですって。
それで、なんとかしなきゃいけない、
と思ったらしく、自分で
サッカーのレガースを入れてみたんです、と。

案の定、その日は間一髪のプレーですから、
踏みとどまらなければならない。
そこで鈴木のスピードで足がやってきますから、
もしもレガースを入れていなかったら、
慎也は、骨まで削られて
シーズンを棒に降る可能性だってあったでしょう。

ですから、すね当てがなかったら、
ふつうはこわくて足を引くじゃないですか。
それで、セーフになった可能性が高い。
ところが、あそこで1対0の時に
しとめられた‥‥あれは大きかったです。

シーズンを通して最終的には
ジャイアンツが勝ちましたけれど、
ヤクルトがあそこまで追いあげた要因は、
そういう前準備や
イメージトレーニングをやった上で
プレーをできていたから、なんです。




そういうことができなければ
いまのプロ野球ではダメなんだと、
われわれが見ていて、つくづく
「なるほどなぁ!」と思わせられる
ああいうシーンというのは、
非常に珍しいと思います。

あの時は、宮本慎也のプレーのすごさを、
あらためて感じさせられましたよ‥‥。
田中 すごいですねぇ!
その時、解説されていたんですね。
栗山 ラジオで解説していて、
うなっちゃいましたね。
「うわぁ‥‥慎也の捕り方、これは!」って。
最初見た時には、そこまでしかわからないですから。
田中 ラジオの解説される時だと、
そこでゲームセットですから、
放送終了までの短い時間じゃないですか。
いまのお話みたいなことも、
その放送中にも、されたんですか?
栗山 いや、その時は
「宮本慎也はすごかった」
というだけで終わっちゃいます。
田中 もったいないですね。
栗山 ええ。
しかしこのシーンは、
宮本慎也を表すには非常に印象的で、
これだけはっきりとインパクトのあるシーンは、
ぼくはプロ野球をよく見ているつもりですが、
3年に1回ぐらいですね。
田中 3年に1回のシーン!
栗山 レガースを準備していくということでも、
宮本慎也を表すようなプレーでした。
それだけ考えて準備をして‥‥
それこそまさに、プロ野球なんですよ。

田中 栗山さんから見て、
宮本選手というのは、
年々うまくなっていってるのですか?
栗山 いや、もともとうまかったんでしょうねぇ。
もともとうまかったのが、
自由に表現できるようになった。

いまは、古田も、宮本に信頼して
任せている面があるじゃないですか。
ですから、そこで慎也も自分で
やりたいようにできる環境で、
よりそれがひきたつようになってきて、
もっと上にいける。そういう段階です。



もともと、うまかったと思いますが、
完全に宮本慎也の時代になりましたね。
来ましたよー!

田中 時代になりましたか。

たとえば、メジャーの内野手と比べて、
宮本選手はどうですか?
栗山 肩の強さ以外は、
すべてメジャーで通用しますね。
グラブさばき、足の運び、ボールの入り方、
相手の動きからの守備位置のとり方、
人への言葉のかけ方、間のとり方‥‥

ぼく、今年特に注目して
ずっと見ていたのが宮本慎也なんですが、
当たり前なんですけど、守備位置の土が
荒れていると、野手は直すじゃないですか。
でも、直さない内野手もいたりするんですよ。

ところが、慎也は、
直す必要のない人工芝でも直すしぐさをする。
習慣なんでしょうね。いい習慣。
いいプレーをするための準備って、
ああいうように
自然にやれなきゃいけないじゃないですか。


いちばん早くベンチを飛びだして
ポジショニングどりにいくのも慎也だし、
そういうのを見ていると、
「こいつ、すごいや」って感じですね‥‥。
当たり前のことなのですが、
それを毎回きちんとやっている選手です。

ああいうのに手を抜かない選手って
少なくなりましたから、すごい選手です。
そのすごさが、はっきり現われはじめた。

ぼくはできれば、そのすごさを
その瞬間に説明してあげたい。
しかし、ラジオの解説でもそうでしたが、
その時には、説明はできなかった。
それは、慎也に対して
もうしわけないことをしていたなぁ、
と思いました。
前もって、慎也は何を考えているか、
何をしているかをもっと細かく調べていれば、
そういうプレーがあった時、
即座にパーンと入れるわけじゃないですか。
日々、一生懸命取材をしているつもりなんですが、
そういう積み重ねを、
もっともっとしていきたいなぁと思いました。

よく慎也の足を見れば、
ふくらんでいるのはわかるわけですから、
そういうところにも、
解説者としては意識していかないとなぁ、
と反省もしました。
田中 そのひとつのプレーに向けて
そこまで気持ちを持っていった
宮本選手が、ほんとにすごかったんでしょうね。
栗山 ああいうプレーも、
「宮本、うまかったよね!」だけで
終わっちゃう場合も、あるじゃないですか。
それはやらないように、と改めて感じました。
訊いたらすごいことがあったわけで、
何かすごさを感じたら、かならず何かある。

ぼくがそのあと慎也に話を訊いた時には、
感心力の田中さんが
「はぁー!」となるぐらいに、
感心しましたから、ああいうことを、
これからも探していきたいですね。

感動しました。

こういう話って、
みんなもよろこんでくれますから、
どんどん紹介していけたらいいなぁ。

そういうことが、
ぼくが野球で今年いちばん感心したことですね。
田中 ありがとうございました。
いやぁ‥‥おもしろいです。

いま、栗山さん、野球場のプロジェクトを
やられていますよね。
栗山 ええ。

北海道の栗山町に、
野球場がついにオープンしました。
そこには、松井選手のユニフォームだとか、
イチロー選手のグローブだとかのグッズも
ありますので、ぜひ、遊びにきてください。

内野までちゃんと天然芝です。
マリナーズのセーフィコフィールドと
おなじ芝の割合にしてあるんですよ。
すごくきれいになっているので、
たのしんでいただけると思います。
あそこで打つと気持ちがいいです。
田中 ニュースステーションで
特集されていたのを拝見しましたが、
オールドスタイルの
ほんとにきれいな球場ですねぇ。
栗山 もう、夏はたいへんでしたけどね。
ぜんぶ自分たちでペンキを塗ったりだとか、
欄干を入れて‥‥板を焼いて。
でも、手作りの野球場って、
なんか味があっていいですね。
自分で言うのもヘンですけれど。

町にちゃんと泊まるところもあるし、
温泉もゴルフ場もあります。
千歳空港からも40分ほどで近いですから、
みなさんで、ぜひどうぞ。

(※栗山さんの作った野球場については、
  こちら「栗の樹ファーム」をクリック!)



(おわり)

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2002-12-30-MON

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