
オガワ |
今日はあらためて、
しまちゃんとタケシさんがつき合い始めてから、
婚約にいたるまでの話を聞きたいんだけど、
その前にまず、しまちゃんがどんなひとか
話しておきたいんだよね。 |

しま
|
どんなひとか? |

オガワ |
前にたしか、
警察から「感謝のきもち」を
表されたことがあったよね。
極道を恋人にもちながら。 |

しま |
あったねぇ。あはは。
駅で販売のバイトをしていたとき、
万引き犯を追いかけているひとを見かけたの。
それで、ただ見てるだけで、
なンにもしないやじ馬をかき分けていって、
じぶんの携帯で警察に通報したんだ。 |

オガワ |
たしか、その数日前に、
しまちゃんも万引き犯をお捕まえになってて、
そのときも、
遠巻きに見てるひとはたくさんいるのに、
だれも手を貸してくれなかったって、
たいそうご立腹だったんだよね。 |

しま |
なんでそんな口調なの?
まぁ、それはさておき…。
そうなのよ!
うら若き乙女が万引き犯追っかけてるんだよ。
手伝ってくれたっていいよねぇ。 |

オガワ |
…うら若くなかったんじゃないの?
それで数日経ったある日、
しまちゃんちの留守番電話に
警察署からメッセージが入ってた、と。 |

しま |
うん。
「○×警察署です。お渡ししたいものが
ありますので、おいでください」ってね。
わたしさぁ、
つき合っている相手が極道なだけに、
警察から電話がきて、
「タケシさんにまた何か!?」って、
一瞬パニックになったんだよね。 |

オガワ |
万引き犯について通報したことは、
すっかり忘れてたわけね。 |

しま |
うん。
で、なんのことかさっぱり見当がつかないまま、
「くれるもんは、
もらいに行こう」
って思い直して、
その警察署に行ったんだ。 |

オガワ |
行くんだよねぇ、あなたってひとは。
そしたら、コレをもらったと。

コレ。
しまちゃんが警察署でもらった
「協力御礼」のプレート。
ピーポくんTシャツを着る
コドモの自転車は、
「Japanese Police」カスタム。

外箱。Presented by 警視庁地域部長(to 極妻)

同封されているお手紙。 |

しま |
万引き犯について通報したことが、
「警察の仕事を理解して、協力した」って
いうことになったらしくて、
そのお礼の品がコレだったんだよね。 |

オガワ |
「お礼をしたいから、取りに来い」っていう
警察の態度はさておいたとしてもさ、
この絵柄のセンスと、
だまって受け取ってきた
しまちゃんにはかなわないね。 |

オガワ |
しまちゃんと極道であるタケシさんが
つき合い始めたきっかけを話してもらえる? |

しま |
タケシさんは、わたしがアルバイトをしていた
ビデオ店のお客さんだったの。
店から数分の距離に彼らの事務所があって。 |

オガワ |
そのときからタケシさんって、
見るからに、そこの事務所のひとだったんでしょ?
それなのに、どうやって話すようになったの? |

しま |
それがさぁ、
わたしぜんぜん「その筋」のひとだって
気づかなかったのよ。 |

オガワ |
へ? |

しま |
その事務所って、ふつうの家のつくりでね、
なんかコワそうなひとが
たくさん同居してるなぁとは思ってたんだけど。 |

オガワ |
コワそうなひとは、
たくさんで同居しないでしょうに。 |

しま |
それでね(←ツッコミを無視)、
彼らはビデオの延滞料金を払わなくって、
店長も請求するなって言うの。
そんなのおかしいじゃない。 |

オガワ |
出たね、正義感。
たとえ相手が極道でも。 |

しま |
いやいや、だから知らなかったんだって。
3ヶ月くらい経ってから、店長が
「彼らはヤクザさんなんだよ」って言うの!
はやく言ってよ〜! ってさぁ。 |

オガワ |
…気づけよ。 |

しま |
話すようになったきっかけはねぇ
(↑ツッコミを無視)、
わたしがそうやって、
ふつうのひとと同じ態度で接したのが
うれしかったのか、
ある日、タケシさん、意外なことに、
にこにこ笑いながら話しかけてきたんだよ。 |

オガワ |
…あんた、おもしろかったんだよ。 |

しま |
それでね(←ツッコミを無視)、わたし、
タケシさんみたいな冷たそうな顔のひとが
好きなタイプなの。ふふ。
それでいつのまにか仲良くなったんだ〜♪ |

オガワ |
それがきっかけ?
で、しまちゃんみたいなひとの家に、
見るからに「極道」のひとが、
ちょくちょく遊びに来るようになったの?
はぁーー。 |

しま |
気が合うってのは、こういうことなのよ。
なんてね。ははは。 |

オガワ |
ははぁー。
じゃぁ、ずばり、タケシさんの魅力は? |

しま |
顔が好みでしょー、
それから、うちでうたた寝してて、
勝手に猫の霊におそわれてさ、
目を覚まして「なんで助けてくれないんだ!」
って、スネたりして、意外におもしろいのと…。 |

オガワ |
あはは。
助けてあげなよ。 |

しま |
それも2回もだよ。ふふふ。
あとね、ちゃんとやさしいことと、
ちゃんと
ほうっておいてくれることかなぁ。 |

オガワ |
…ちゃんと? |

しま |
やたらヤサシイひととか、
やたらいっしょにいたがるひとって、
苦手なんだよね。
ちゃんと、自立してるひとがいいの。 |

オガワ |
今回のタケシさんの「塀の中」生活は、
しまちゃんとつき合い始めてから
2度目なんだよね。 |

しま |
そう。最初のときは、
急にタケシさんの姿が見えなくなったから
「他に女ができたのかな」と思って、
帰りを待とうなんていう発想は
まったくなかったの。 |

オガワ |
それもたしか3年間だよね? |

しま |
うん。後から聞いたら、
拘留中の警察署から、
わたしに手紙を
出そうとしてくれてたらしいんだよね。
でもうろ覚えの住所が間違ってて、
届かなかったの。 |

オガワ |
あぁ…、スレちがい。
で、3年後に出所してきてからも、
当たり前のように
しまちゃんちに来て、
くつろぐことが多くなって。 |

しま |
うん。たのしかったんだけどね、
1年経たないうちに
またいなくなっちゃった。 |

オガワ |
また塀の中に…。 |

しま |
そのときも結婚の約束をしていなかったの。
一度、うちにいるときに、
「結婚しようか」って言われたことが
あったんだけど、
なんとなく笑って流しちゃったんだ。 |

オガワ |
そっか…。
でも、今度は塀の中に入る前に、
警察署から連絡が来たんだよね。 |

しま |
そうそう。
警察からの電話が許されるなんて、
特別待遇なのかもしれないから、
言っていいのか分かんないんだけどね。ははは。
その電話のときは、さすがに
「わたしは、あなたを待つべき?」って、
感情的になって聞いちゃったんだ。 |

オガワ |
ふんふん。
そしたら? |

しま |
その電話では答えてくれなかったけど、
後から届いた手紙に、
「いい人がいたら
結婚しなさい。
縁があれば、また会える」
って、
書いてあってね。
このフレーズで、
タケシさんていう人が、
どれだけじぶんに合っているか分かったんだ。 |

オガワ |
あぁ。
「待ってろ」って言わずに、
「縁があれば」ってところね。
しまちゃんが、
干渉されたり、拘束されたりすることを
好まない性格だってことを
分かってたからこそ、書けたフレーズだと。 |

しま |
うん。わたしはそう思ったの。
だから、待とうと思った。
ま、とはいえ、その間も、
「一般の男性」のチェックを
怠らなかったけど。あはは。 |

オガワ |
で、また1年くらい音信不通に
なっちゃったんだよね。 |

しま |
そう!
またしても住所を控えてなかったみたいでさ。
学習してよ、ねぇ?
でもまぁ、その間にわたし、
長いことうまくいってなかった両親と
絶縁状態になったもんで、
極道のひとと結婚する決心ができたんだよね。
で、それが今年の1月かな、
オガっち(註:オガワのこと)と
食事してるときに、
「今度、タケシさんが戻ってきたら、
わたしから結婚しようって
言うつもりなんだ」
って言ったんだよね。 |

オガワ |
そうだった、そうだった!
わたしもさ、極道とつき合うなんて、
友だちとして止めるべきなのか? って
思ったこともあったんだけども、
この日のしまちゃんの顔見たら、
シヤワセになるんなら、いいんじゃん、
って思ったの、よく覚えてる。 |

しま |
そんで、まさにその日、家に帰ったら! |

オガワ |
来てたんだよね、例のブツが! |

しま |
そう。
「内妻になりませんか通知」。
1年ぶりに連絡が来たと思ったら、
差出人は刑務所なの。 |

オガワ |
本人からじゃなかったのね。 |

しま |
うん。
そういう決まりみたいで、
体裁の整ったちゃんとした
「文書」だったの。
で、内容が、
「北野くんは、とても真面目に
おつとめしてます。
あなたは、内妻になる気持ちがありますか?」
というような文面だった。
お役所(?)ことばだから分かりづらくて、
さっき食事して別れたばっかりの
オガっちに電話して、
文面読み上げたんだよね。 |

オガワ |
うん。「……であるからして」みたいな。 |

しま |
そしたら、オガっち、
なんか感動してくれちゃってたよね。 |

オガワ |
…言うな。
だってさ、
「じぶんから結婚しようって言う」って
聞いたその日の出来事だったじゃない。
それも、その話をしてたときは、
タケシさんと
連絡取れてなかったわけでしょ。 |

しま |
うん。あの偶然はすごかったね。
思いが届いた〜って、
思ったもん。 |

オガワ |
ほんとだよねぇ…。
で、この通知に返事を出して、
晴れて家族として
連絡を取れるようになったんだったね。 |

しま |
そう!
いち家族として、
面会に行けるようになったし、
手紙のやりとりもできるようになったの。 |

オガワ |
それでいまは、月に1回くらいの割合で
刑務所に面会に行ってるんだよね。 |

しま |
うん。
ガラス越しの面会だから、
上半身しか見えないのに、
ちゃんと全身おしゃれして行ってるよ。
あ、面会といえばさぁ、
前に、タケシさんが拘留されている警察署に
行ったことがあったのね。 |

オガワ |
うん。塀の中に入る前の段階でね。 |

しま |
そう。
そしたらね、そこの刑事さんたち、
まるで転校生を見に来る
隣のクラスの生徒みたいに、
代わる代わる順番に、
わたしのこと見に来たんだよ。 |

オガワ |
って、そのときも、あなたってひとは、
いつものひらひらワンピースで行ったんでしょ? |

しま |
そうよー。
いけない? |

オガワ |
いけなくはないよ。いいよ。かわいいよ。
でもさ、刑事さんたちにしたら
意外だったんだろうね。
極道、それもトップクラスと、
ひらひらワンピース。 |

しま |
そうかもね〜。
でもさ、あんまりしつこいから
わたし、面倒くさくなってさ。 |

オガワ |
出たな、本音が。 |

しま |
泣きマネして、
その場をやりすごすことにしたの。
「しくしく…。こういうところに、
あんまり来ないほうがいいんですかぁ…」
って。
ふふふ。
そしたらね、
テレビで見るような刑事さんたちが
『そ、そ、そ、そんなことないよ』って、
あわてちゃってた。あはは。
ちょっと悪いことしたかな。 |

オガワ |
…屈託がないよね、あんたって人は。 |